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嫌気性芽胞形成菌(クロストリジウム属菌)について
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微生物検査室 稲垣暢哉

今月号は、前月号で衛生指標菌の中でも安全性を評価する指標菌として紹介した嫌気性芽胞形成菌について説明します。
 嫌気性芽胞形成菌は、クロストリジウム属に属する偏性嫌気性(酸素の存在下では発育できない)の芽胞形成菌を指します。

 

1.クロストリジウム属菌とは?

クロストリジウム属菌は、偏性嫌気性の芽胞を形成するグラム陽性の桿菌です。つまり、酸素が全くない嫌気的条件下でのみ発育することが可能な菌です。また、芽胞の形成とは、高温、凍結、乾燥、酸、アルカリ、紫外線、放射線、殺菌剤等のストレスに対して強い抵抗性を持つ胞子(芽胞)を形成する細菌のことです。したがって、食品の品質及び安全性を守る上で様々なストレスに対して抵抗性を有する芽胞を形成する菌が問題となることがあります。芽胞を形成する菌として、バチルス属菌も有名ですがこの菌は、クロストリジウム属菌と異なり酸素がある(好気性)条件下で発育することが可能です。
 食中毒菌としてこの時期特に話題となるウェルシュ菌、ボツリヌス菌もクロストリジウム属菌に含まれます。ボツリヌス菌による食中毒は、1984年にからしれんこんにより起きた事例がよく知られています。

 

2.食品とクロストリジウム属菌

食品でのクロストリジウム属菌の発芽を促す代表的な環境条件は、主に2つが挙げられます。
 @ 製造工程もしくは調理・加工等の加熱により競合菌(クロストリジウム属菌を除く菌)が死滅し、製品内部が嫌気状態になった場合
 通常の加熱では、芽胞を形成するクロストリジウム属菌は死滅せず、むしろ発芽し芽胞を形成しやすい状態へと変化します。また、競合菌が死滅することで芽胞菌の発育にとってよりよい環境になります。
 A 真空、ガス置換あるいは脱酸素剤を使用している場合
 品質の劣化を抑えるために使用する脱酸素剤等は、嫌気状態を維持するためクロストリジウム属菌の発育を促します。
 例えば、食品衛生法の規格基準には、特定加熱食肉製品、加熱食肉製品(包装後加熱殺菌)ではクロストリジウム属菌が1gにつき1,000以下であることが規定されています。これは、食肉製品が汚染を受けやすく、加熱工程があり、保存が嫌気性となるためです。菌の増殖を抑えるために、これらに該当する食品である場合、4℃(水分活性が0.95以上)もしくは10℃(水分活性が0.95未満)で保存しなければならないことが規定されています。
 また、レトルト食品ではpHが4.6を超え、かつ、水分活性が0.94を超える場合、120℃で4分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法で殺菌することが規定されています。常温で保管するには、芽胞を含めた殺菌が義務付けられているのです。

 

3.検査目的

クロストリジウム属菌は、土壌、海や湖底の泥、ヒトや動物の消化管など自然界に広く分布しており食品への汚染の可能性が高い細菌です。この中でも、食肉や魚介類などの食品で汚染されることが多いため、これらの食品は特に注意が必要です。
 クロストリジウム属菌には蛋白質や糖分解などの品質劣化作用の強い菌種が多く、食中毒菌であるウェルシュ菌、ボツリヌス菌も含まれます。芽胞を形成して加熱殺菌後も生存し腐敗や変敗の原因にもなる可能性があります。これらのことから、品質や安全性、保存性を評価できる指標菌としてクロストリジウム属菌の検査は重要であると考えられます。
 クロストリジウム属菌食中毒の有効な予防法の一つとして、加熱後の冷却が挙げられます。100℃で1〜6時間の加熱では、死滅しない芽胞もありますので、なるべく早く冷却することで発育を抑えることが極めて重要です。

 

4.検査方法

今回は、食品衛生検査指針、一般食品の試験法の概略を説明します。検査対象となる食品(検体)を25g秤量し、希釈液を加え検体の試料原液(10倍希釈液)を作成します。検体が未加熱の食品である場合、試料原液を70℃で20分間加熱処理を行います。加熱済みの食品の場合は加熱処理の必要はありません。必要に応じて、試料原液から10倍段階希釈を繰り返します。各段階の希釈液10mlを2枚の嫌気性パウチに分注し、クロストリジウム属菌測定用培地15mlを加えよく混合します。培地中の気泡を抜き、パウチの首の部分をポリシーラで溶封し冷却凝固させます。パウチ内は嫌気状態となるので、パウチそのものは好気的条件下で35.0±1.0℃で24±2時間培養します。また、希釈水10mlを対照として同様の検査を行うことで、パウチ、希釈水および培地が問題ないことを確認します。
 なお、嫌気性パウチ以外の方法として、滅菌シャーレを用いて混釈、固化後、嫌気培養する方法もあります。
 培養後、パウチ内部に黒色集落の発育が認められた場合、確認試験を行います。パウチを加熱した白金線で穴をあけ、黒色集落を釣菌します。これを卵黄加CW寒天平板2枚にそれぞれ塗抹、1枚を好気培養、1枚を嫌気培養します。共に、35.0±1.0℃で24〜48時間培養後、嫌気培養した平板にのみ発育が認められればクロストリジウム属菌陽性と判定し、生菌数測定と同様の方法でクロストリジウム属菌数を算出します。


写真 検査風景(培地をパウチへ分注)

 

5.結果の解釈

食肉製品の場合、クロストリジウム属菌の規格基準がありますので遵守する必要があります。また、食品中のクロストリジウム属菌数が多い場合、生菌数と同様、製造の過程で衛生的かつ適切な取扱いがなされていないことが示唆されます。加熱加工後の製品中に本属菌が多量に確認された場合、原料が汚染されていた可能性が推測され、このような場合はウェルシュ菌や、ボツリヌス菌の存在も疑われます。したがって、クロストリジウム属菌数が多い場合、ウェルシュ菌やボツリヌス菌を特定する食中毒菌の検査を別途実施することをお薦めいたします。
 ウェルシュ菌は、一般に急性胃腸炎を引き起こすには108個以上の菌の摂取が必要と報告された事例があります。また、ボツヌリス菌は、産生毒素自体が易熱性で80℃、20分または100℃で1〜2分間の加熱で不活化されます。したがって、食中毒の予防には加熱加工後、芽胞菌が増殖しないよう速やかに急冷し、喫食前に十分に加熱することが大切です。

 

参考文献

食食品衛生検査指針 微生物編 2004 (社団法人 日本食品衛生協会)
食品衛生小六法 平成25年度 (食品衛生研究会 編集)
食品安全ハンドブック (食品安全ハンドブック編集委員会 編)
現場で役立つ 食品微生物Q&A (小久保彌太郎 編)

 

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