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−ドイツと日本のハム・ソーセージ比較−
麻布大学獣医学部 教授
                             坂 田 亮 一

DLGメダルとDFVドイツ食肉協会のロゴ

1. はじめに

2007年からDLG(Deutsche Landwirtschafts-Gesellschaft e.V.)のハム・ソーセージ品質競技会にゲスト審査員として招聘され、以来このコンテストの審査員として毎年2〜3月に渡独の機会を得ている。この品質競技会の主催団体はドイツ農業協会で、フランクフルトに本部を置き、農業生産物、食品、農業機械に到るまで、非営利団体として国民の食における安全と健康の向上に貢献してきた歴史がある。設立は1885年、早くから農業生産物の品質競技会を行い、1993年からは世界最大級の国際大会を行っている。DLGのホームページにその歴史を当時の写真と共に閲覧することができる。
 この品質競技会では、Kochwurst(血液ソーセージなどのクックドソーセージ)、 Rohwurst(サラミなど非加熱ソーセージ)、ハム類の審査があるが、同じ場所で、それら以外の製品、例えばBrühwurst(フランクフルターやウインナーなどのソーセージ類)の審査が行われている。この部門で、日本からの製品が数多くエントリーしてきた経緯がある。これまで日本製品の参加品数が多かったことと、日本製品の風味の独自性、つまり多くの審査員にとって経験のない味わいを持つものが多いことを理由に、毎回このように日本コーナー、最近では国際コーナーが特設され、各国全ての製品がこの2日間で審査される(写真1,2)。
 本審査を通して、ドイツ人がみた日本製品の印象とは? その前に、審査内容について、以下に概要を触れる。
 製品のカテゴリーは全部で8つに分類されるが、そのうち日本からは通常のソーセージ(ウインナーなど)、大型ソーセージ(スライス型)、ハム,ベーコン、パステーテ(ミートローフ)、ローストビーフ、ローストポークなどが一般的で、全て加熱された製品に限る。生ハム、生サラミも本来審査対象だが、2010年の口蹄疫発生で、日本の非加熱品は審査対象外となっている。必要量はウインナーなどで8本以上,ビアシンケンなど1本ものは1.5kg未満を2本,加熱ハムなど単一肉塊製品は2本と定められている。
 審査内容は大別してどの製品でも5項目あり、@製品の外側表面の状態(燻煙ムラや充填のズレなど)、A外観,色,色調保持、全体構成(材料混合の均一性、退色、赤肉量の割合など)、B組織(軟らかさ、硬さ、ケーシングの硬軟、ゼリーの流出量など)、C香り(製品特有の香りの有無、酸敗臭が無いかなど)、D味(塩辛さ、酸味、甘味、苦味、香辛料の適性使用など)となっている。加工品の種類によって細かい評価項目が変わってくるが、これら5つの大項目を構成する小項目は総数200近くあり、即座の評価には熟練を要する。
 数年前まで、CとDは重点評価として一項目になっており、評価が一層細かくなった。さらに細かい評価項目が多いのはAで、実際にナイフで縦横にカットしてその表面をチェックする。各項目5点評価で、項目順に×1,×3,×2,×1,×3点の配分となっていて,総合点は計50点で、それを10で割った数値が最終ポイントになる。したがって、パーフェクトであれば5点=金メダルだが、各評価項目で少しでも難点があるとその分の点が低くなり,金を逃がす。例えばD味の項目で少し塩辛いと審査員が感じ、そこの項目を4点とした場合、Dの評価は4点×3=12となり、他の項目がすべてパーフェクトでも計42点→最終ポイントは4.2で銅メダルとなる。最終スコアの範囲は銀メダルで4.60〜4.99、銅メダルは4.10〜4.59と決められている。5つの項目で、一つでも3点以下があればメダルは与えられない。1チーム3人で製品一つずつを入念に調べ、評価シートに記入していく。3人の合議制であるが、事前にトレーニングを受けているので大きく意見が分かれることは先ず見られない。ジャッジが偏らないように食肉マイスターだけでなく、他の職種からの審査員も同じチームに加わっている。

写真1. DLG審査会場でのポスター 写真2.日本製品コーナーの審査風景

 

 

2. 日本製品の特徴

近年ドイツでも健康面を配慮して、ハム,ソーセージは低塩化しているが、わが国の製品はドイツ製品と比べるとまだ塩分が少なく、甘いと評価されている。また、ドイツ人に馴染みのない味付け製品が時々あり、そのたびにこの製品は日本で受け入れられているのか、ポピュラ―なのか、などを聞かれる。大体は問題ない風味であるが、当方の判断に一任される時が度々ある。しょうゆ味や旨味の類はドイツでもかなり普及しているが、日本特有の食材(香辛料,植物など)を使ったものは解説を求められる。また調味料中のアミノ酸が析出して肉製品表面に付着することがあり、異物と間違えられぬよう、これも注意を要する。
 日本製品の優秀さや製造技術の高さは、これまで審査にあたったメンバーであれば誰しも認めている(写真3)。項目@とAで減点されることは稀だが、項目Bになるとロースハム芯部の血斑、結着不良、変退色、項目Dで塩漬フレーバーの欠如などが上げられる。塩分が少ない分、塩漬風味が感じられないという意見もある。わが国では、と畜場での通電による豚の失神時に血斑症状が出易い。このような製品は減点対象になりうるが、審査の際、原料は凍結輸入肉でなく、フレッシュな国産豚を使っていることを強調できる転機とも考えられる。
 また、製品名称と実際の分類の不一致がある。例えば,ローストポークらしき製品が出品されていて、これは向こうのSchweinebraten(シュバイネブラーテン)に相当するが、評価シートではPork hamと記名されていることも過去にあった。出品者が付けたのだが、このような場合、評価を下げる原因にもなるので、審査員が首を傾げるような名称は避けた方が賢明である。またKnoblauch(ニンニク)ソーセージという特徴名称でエントリーしたのに、それが弱くて風味に反映されず評価を落とした品もある。それ自体はよくできたソーセージだったので、もしニンニクの文字が無ければ,金メダルを獲得していたと思われる。
 今回のDLGコンテスト(写真4)でも数少ないエントリーながら、日本製品の大半は金メダルを獲得した。残念ながらあと少しで逃した日本製品もある。例えば,加熱ソーセージの場合,「脂肪が多すぎ」「肉の風味不足」「甘すぎ」「噛み切るには硬すぎ」「グルタミン酸過剰」「馴染みのない味」「クリスピー感無し」「乾きすぎ」「香辛料が合っていない」「カビ臭い・ムッとする」などが欠点として指摘されている。
 ウインナーやフランクフルターのようなソーセージの場合、焼く(grillen, braten)か茹でる(brühen,kochen)のどちらでも評価が可能であるが、ベストの状態で官能評価が行えるように予めどちらが良いか知っておいて、それが分かるように出品の名称に反映することも大事である。リン酸塩はドイツでも使用が認められているので、通常の使用量で問題はなく、多少舌先に収斂味を感じても減点されることはない。
 食塩は食肉製品の保水性や、ソーセージのような練り製品での結着性の向上に効果があり、筋肉を構成する筋原線維タンパク質が塩で溶解し、特にその主要成分であるミオシンが加熱中に網目構造を作ることで弾力性や歯ごたえが得られる。一方で、リン酸塩を使うことで、その性質から食肉の保水性や物性の増強も可能となる。
 ドイツでは食肉製品に中性リン酸塩を使うので、通常のリン酸塩よりも保水性や結着性の増強効果は望めない。したがって、これらの加工適性を損なわないためにも、食塩の量は日本の製品より一般に高めになる。味の面でも、塩漬風味は発色剤によって醸成されるが、これをよりクリアに感じさせるために塩味が必要になってくる。グリルタイプのソーセージであるブラートヴルストも、ドイツではフランクフルター(塩漬・燻煙・加熱した通常のソーセージ)と同様に一般的な加工品だが、これは発色剤を添加せずに製造する。それは、肉の持つ香ばしさを引き出す目的もあるが、高温によるニトロソアミン生成を防止することにもつながっている。
 また、ドイツではズルチェなど、豚皮ゼラチンを使って固めるタイプの製品も多く(写真5)、パテ(あるいはパティ)とともに、店頭を美しく装飾している。

写真3.和牛のローストビーフ、
DLG審査で金メダル
写真4.DLG審査チーム.本年3月、
Bad Salzuflen Messe にて

 

 

3. ドイツと日本の発色剤の使用の違い

日本では発色剤の使用に関し、亜硝酸イオンとしてどの加工品でも残存量70ppm以下に規制されている。ドイツでは製品の種類で使用基準が異なるが、加熱食肉製品の場合、添加量として100ppm以下と定められているので、両国とも基本的な使用量は近い値になると算出される。ちなみに、ドイツでは生ハムで50ppm、塩漬した背脂肪で175ppm、缶詰で250ppmの使用基準があるが、発色剤の単独使用は認められず、食塩に0.5%混ぜた塩漬剤Nitrit Pökelsalz(NPS)としてを使用することが義務付けられている。その理由は、微量で効果がある物質なので計り間違いがないようにすること、また塩味が強いと発色剤も多く含まれることになり、塩味がいわば発色剤のインジケーターになるという合理性な考えで、そのように計られている。
 日本では、発色剤として、亜硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウムと、殆んど使用例がない硝酸ナトリウムが認められているが、ドイツでは亜硝酸カリウムも使用される。

写真5.ドイツのズルチェ、外観、
味ともパーフェクト。DLG金メダル作品
写真6.金メダル獲得のイノシシ肉製品、
IFFAコンテストでの出品

 

 

4. おわりに

現在、野生動物による農作物の食害が増加の一途をたどり、その被害額は甚大である。被害の約6割がシカによるものであるため、個体数の調整を含め、自然資源であるシカを有効利用する試みが国をあげて行われている。ジビエ利用はヨーロッパが先進国、本年のIFFA(国際食肉産業見本市 DFVドイツ食肉協会主催)での加工品コンテストでもイノシシ肉のサラミ風ソーセージが出品され、外観、歯応え、風味とも申し分なく金メダル獲得している(写真6)。それらゲームミートは素晴らしい官能特性を示し、捕獲後の処理など、日本での適用の可能性についても、ドイツの加工技術からまだ学ぶ必要性があることを、これらの加工品に見ることができる。

 

略歴

麻布大学獣医学部動物応用科学科教授 坂田 亮一

1976年宮崎大学農学部畜産学科卒、九州大学大学院に進学し’82年から麻布大学獣医学部勤務。
’93〜95年ドイツ国立食肉研究所留学(Alexander von Humboldt財団奨学生)。
動物性食品の中で食肉に関する研究を主体とし、食肉製品の発色や加工技術に関する教育研究、近年は人の心理と食肉摂取の関係など、健康面からの食肉の果たす役割を調べている。
「畜産物加工データベース」(中央畜産会)の監修など、インターネットでの食肉の知識啓蒙も行っている。

学   位: 農学博士(1990年九州大学より)
受賞経歴: 1999年日本畜産学会賞
        2004年日本養豚学会賞
        (上記いずれも食肉中の赤色色素の特性と発色に関する研究課題)
        2009年内閣府食育推進ボランティア団体表彰の学生チーム監督
        2010年国際食品工業展FOOMA JAPAN2010
        アカデミックプラザAP賞
        (ソーセージ製造時の加温処理効果に関する研究)
語学能力: 独語/円滑,英語/良,西語・仏語/解読可,漢語/多少
趣味特技: ハム・ソーセージ造り、格闘技を見ること、愛犬と散歩など

【研究課題】
・食肉の発色に関する研究
 (発色色素の特性、発色促進機構の解明など)
・食肉の加工法に関する研究
 (凍結、加温処理技術、高齢者用ソフト食など)
・食肉製品の発色剤の低減化、代替に関する研究
・天然ソーセージケーシング(豚腸、羊腸)の軟化に関する研究
・食肉製品における畜産副産物の有効利用に関する研究
 (血液、卵殻など)
・食肉摂取と心理効果に関する研究
 (心理テストを用いた新しい課題など)
・野生動物の食肉としての利用に関する研究など

【その他】
 ドイツ農業協会( DLG )主催、および国際食肉専門見本市(IFFA)での国際ハム、ソーセージ品質競技会にそれぞれ6年前から招かれ、出品された日本製品の審査に加わっている。ドイツ関係では、食肉の専門雑誌Fleischwirtschaftの編集委員を担当している(1996年から)。
 執筆活動として、英独雑誌での論文公表のほか、最近では総合調理用語辞典(初版、(社)全国調理師養成施設協会発行)で畜産物(肉、乳、卵)の執筆と編纂、また食肉用語事典(改訂、食肉通信社)でドイツ製品などの用語解説と編集を行っている。

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