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生菌数について
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                             微生物検査室 稲垣暢哉

 

今月号より6回に渡って、微生物検査の豆知識を紹介します。本シリーズでは前シリーズ(2008年5月号〜2009年3月号)の続編として、これまで紹介していない内容を中心に解説をしていきます。
 今月号は前シリーズと一部重複している内容もありますが、最も依頼頻度が高く、微生物検査の基本となる「生菌数」について解説します。

1.微生物検査とは

微生物にとっては同じ代謝であっても、ヨーグルトの製造に用いられる乳酸菌や納豆の製造に用いられる納豆菌のように人間にとって有用な食品を作るのに必要な微生物を発酵菌とよび、有用ではない若しくは健康被害を及ぼすような微生物を腐敗菌、食中毒菌とよびます。微生物検査は、食品中に存在する微生物を測定することを目的としており、発酵菌、腐敗菌、食中毒菌のように測定対象に応じて適切な方法を選択し検査を実施します。

 

2.衛生指標菌

有害となる腐敗菌や食中毒菌の挙動を把握し、それらをコントロールすることで、安全、安心、良質な食品の製造及び提供を確保することが微生物管理であり、衛生指標菌とは、微生物管理を客観的に評価することを目的として定義された細菌のことです。
 衛生指標菌には大きく分けて2種類あり、品質を評価する指標菌と安全を評価する指標菌があります。品質を評価する指標菌として「生菌数」が最も多く用いられ、その他に好気性芽胞形成菌、乳酸菌などが挙げられます。
 また、安全性を評価する指標菌として、大腸菌群、糞便系大腸菌群、大腸菌がよく用いられ、その他に腸球菌、嫌気性芽胞形成菌(クロストリジウム属菌)などが挙げられます。
 安全性を評価する指標菌の一例として、近年では、平成23年4月に生食用食肉を原因とする腸管出血性大腸菌による食中毒事件が発生し、これを受けて平成23年10月から生食用食肉の安全性を評価する指標菌として腸内細菌科菌群が加わりました。腸内細菌科菌群には、生食用食肉で問題となる腸管出血性大腸菌とサルモネラ属菌も含まれています。

 

3.生菌数

生菌数は、その名のとおり生きている細菌の数を表します。一般に生菌数の測定対象は、中温性好気性細菌です。つまり、中温性(発育に適した温度が25〜40℃)かつ、好気的な条件下で特定の培地(標準寒天培地を用いる方法が一般的)で発育する細菌を測定していることになります。細菌は、温度、酸素要求性、pH、塩分濃度などの違いによって発育が異なるため、嫌気性菌や高温性菌、低温細菌などが多く存在していても、中温性好気性細菌の発育条件に適さない細菌は計測されません。
 なお、多くの食中毒菌や腐敗菌が、中温性好気性菌に含まれているため、生菌数の測定対象が中温性好気性菌であるというのも納得できます。

 

4.生菌数測定

検査方法は、食品衛生法や衛生規範、通知等記載の食品の種類によって試料量、希釈水、培養温度及び時間が異なります。一例として食品衛生法の「粉末清涼飲料」の検査方法の概略を説明します。
 検査対象となる食品(検体)を10g秤量し、希釈液を加え検体の10倍希釈液(試料原液)を作成、必要に応じてさらに10倍段階希釈を繰り返します。各段階の希釈液を2枚の滅菌シャーレに分注し、標準寒天培地を加え混釈します。培地が固化した後、倒置培養します。35±1℃、24±2時間培養を行ったシャーレに対して、30〜300の集落が発育しているものを選び集落数を測定、希釈倍率を乗じて生菌数を算出します。実際の検査の様子を写真-1〜3に示しました。

写真-1 秤量、希釈 写真-2 分注 写真-3 混釈

 

5.結果の解釈

生菌数の多い食品は、製造の過程で衛生的かつ適切な取扱いがなされていない、温度管理が不適切であったことなどが示唆されます。また、先に述べたように生菌数の測定対象は中温性好気性細菌であり、食中毒菌の多くが中温性菌であることから、生菌数が多い場合、食中毒のリスクが高い可能性が推測されるため、食品の種類を考慮した食中毒菌の検査を実施することが推奨されます。
 基準値(目標値)の一例として、「弁当、そうざいの衛生規範」には、加熱処理を行ったものは1gにつき100,000以下、未加熱のものは1gにつき1,000,000以下であることが記載されており、「洋生菓子の衛生規範」には、1gにつき100,000以下であることが記載されています。このように、食品の種類や加熱履歴の有無などによって結果の解釈が異なります。このほか、食品衛生法や衛生規範、都道府県で制定されている衛生管理指標などを基準として製造工程を含めて評価することが必要です。
 このような各種基準値(目標値)を参考にしながら、原材料や製造工程など自社製品の特性を考慮した上でより最適な基準を個別に設け、基準を順守した衛生管理を徹底して行うことで、より安全、安心な食品の提供に繋げることができると考えられます。

 

参考文献

食品衛生検査指針 微生物編 2004 (社団法人 日本食品衛生協会)
食品衛生小六法 平成25年度 (食品衛生研究会 編集)
食品安全ハンドブック (食品安全ハンドブック編集委員会 編)
弁当、そうざいの衛生規範 (社団法人 日本食品衛生協会)
洋生菓子の衛生規範 (社団法人 日本食品衛生協会)
三重県 食品の衛生管理指標 (三重県健康福祉部 食品安全課HP)

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