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食品業界を取り巻くISOマネジメントシステムの動向
その6:役立つISOマネジメントシステム文書化の考え方 ![]() 湘南ISO情報センター
代表 矢田富雄 1.はじめにISO9001は役に立たないといわれて久しい。その原因が2つあると書いた。その原因の一つは、そもそもISO9001の役割をよく理解していないことにあると述べた。この場合は、実は、ISO9001は大変役立つものなのに、その役割を誤解しているために、誤った期待があり、その期待にあわないので、役に立たないと思い込んでいるだけなのである。前号で述べた。 しかしながら、日本で期待されている改善とは、組織の仕組みの抜本的な改善であり、このような改善を途切れることなく実施されることである(Continuous improvement)。これは本来のISO9001の役割ではない。このような期待から考えるとISO9001は役に立たないといわれる危険性はある。これは誤解なのである。 ISO9001を役立たなくしているもう1つの原因は、ISO9001の仕組み作りの不備にあると前々号で記した。この場合は本当に役に立たないのである。本号の主題はこのことにある。 これは筆者の年来の主張であるが、品質管理システムが体系的に実施されていようがいまいが、あるいは、業務の標準が文書化されていようがいまいが、適切な製品を提供して生業(なりわい)を立てている組織には、立派な標準があるのである。さもなければ、そのような会社は生業を立てていけるはずがない。そのような状況にあれば、この組織にはISO9001の基本的な考え方は立派に存在する1)。すなわち、“安全で良質な製品を妥当なコストで安定供給すること”を達成できる仕組みがその組織に存在する。したがって、このような組織がISO9001の求めている全ての仕組みを取り入れて完全なISO9001マネジメントシステムを構築するには、自組織の業務内容をISO9001の要求事項と比較して足りないところを補っていけばよいのである。 ところで、ISO9001のマネジメントシステムを組織に取り入れていくと何が良いかというと、その経営者が変わっても、要員が変わっても、その組織の良さが確実に維持されて、改善されていくことにある。それにより、組織はその良さを維持して、永続的に発展していけるのである。 注1)現場に視点で読み解くISO9001:2008の実践的解釈;矢田 富雄、2009年11月20日 初版第2刷 幸書房 2.ISO9001に適合する組織の特徴的な要求事項ISO9001の目的は、“安全で良質な製品を妥当なコストで安定供給すること”にあると述べた。製品を適切に提供して生業を立てている組織には、立派な標準があると記した。 @標準化と文書化の大切さ A記録保持の大切さ B経営者の責任の大切さ C内部監査の大切さ D体系化された改善の大切さ これまでに述べてきた仕組みは、一般的に、日本の組織においては、不足している部分である。ISO9001の仕組みを構築していく際にはこれらの仕組みを意識して取り入れていくことが求められる。その中でも、業務の標準を文書化することは、特に、重要である。ただ、すべての標準を文書するのは困難であり、文書化する必要もない。以下、標準の文書化に関して述べていく。 3.ISO9001マネジメントシステムの文書化標準の文書化が必要であるというと、膨大な手順書の山を連想するかもしれない。しかしながら、それは違うのである。ISOマネジメントシステムにおける文書とは“情報及びそれを保持した媒体”のことであるとされている。その媒体からの情報を読み取って仕事をする対象となるものは全てが文書である。紙にかかれたもののみが文書ではない。フロッピーディスクに保持されている情報を読み取りながら機械が仕事をする場合は、このフロッピーディスクでの記録内容は文書である。他の例を述べてみると、データを記入する前の“記録の様式”は文書なのである。すなわち、“記録の様式”は、その該当する箇所にデータを書き込むことが求められているのであり、データ記入を求める“指示書”であり、文書である。 ISO9001の「4.2.2 b)」に「品質マニュアル」作成の要求事項がある。そこには品質マネジメントシステムについて確立された“文書化された手順”又はそれらを参照できる情報を含む「品質マニュアル」を作成して、維持しなければならないと書かれている。この要求事項は文書化された手順制定に関する適切なヒントを提供しているのである。すなわち、文書化された手順というものは、1つの文書の中に必要な手順を全て収録してもよいし、他の文書の中に記載されているものを引用してもよいと記載されている。 現在のマネジメントシステム審査における登録審査では、ファーストステージ審査とセカンドステージ審査の二段階にわかれて行われている。その両審査の結果に基づいて適合性が判定される。ファーストステージ審査では不適合を指摘することなく、“懸念事項(セカンドステージにおいて不適合となる懸念がある事項)”を摘出して、被審査先に示し、組織に改善の機会を与えているのである。その結果を受けて対応された内容をセカンドステージ審査で評価し、登録の可否を判定するのである。 筆者は当時も審査員であったが、ある会社の予備審査を担当することになった。そこでは膨大な手順書が制定されていた。当時、ISO9001の94年版では、規格は20章からなっており、そのうち19章では“文書化された手順書”制定が求められており、残りの1章も、“手順がなければ品質に有害な影響を及ぼす可能性のあるものについては、〜〜〜手順書を作成すること”と求められていた。そのため、この組織としては、一生懸命、“文書化された手順”を制定したものと考えられた。 この例でわかるとおり、“文書化された手順”というものは、膨大な文書を作ることではなく、業務を進める要員に必要な業務内容が伝えられるものであればよいのである。 4.組織における文書化された手順の要件前節で述べたとおり、組織における業務の標準である“文書化された手順”とは業務を進める要員に必要な内容が伝わるものであればよいのである。ここでは、その“文書化された手順”に必要な要件について述べてみる。
5.自組織で使いやすいような文書化された手順とはどのようにして作成すればよいのかISO9001規格を始めてみる人には何を書いてあるのか意味がよくわからないと考えられる。このわかりにくいISO9001を使って、上述のような“自組織で使いやすいような文書化された手順を作る”ことあるいは“自組織で通常使っている文体で書く”ことを実施していくのは容易なことではない。そのためにはどうしたらよいかに関して、以下にその手段と方法を述べてみたい。
6.まとめ「食品業界を取り巻くISOマネジメントシステムの動向」のシリーズは今回で終了する。 今回の第6回は、ISO9001が役立たない原因の一つである組織における不適切なマネジメントシステムの文書化とその課題に焦点を当てて述べてきた。実態は、不適切な文書化が多いのである。何故そのような不適切な文書が発生するのかといえば、規格内容をよく理解してない状況で文書化を行うことがその原因であり、組織の担当者、コンサルタント及び審査員に焦点を当てて、その課題と改善の方向を述べてきた。これは、ISO9001のみの課題ではない。食品の場合はISO22000も含まれるマネジメントシステム全体の課題である。 今回のシリーズ全体を通してまとめてみると、ISOマネジメントシステムは組織の運営に対して非常に有用なものである。しかしながら、特に、日本では、その有用性が正しく理解されていないという課題があり、そのため、マネジメントシステムが本来の目的どおりに使いこなされてなく、システムが役立っていないという問題意識があり、その状態を改善したいという願いから今回の連載はスタートしたのである。 何故そのようなことになったのかをISO9001、ISO22000、ISO/TS22002-1及び国際規格ではないがFSSC22000を題材にとりあげながら、そのマネジメントシステムが導入された初期に遡り、原因を考察してきた。 ISO9001の和訳は国際規格である。IDT(国際規格と一致していること)である。しかしながら、日本においては、いまだに、正しい理解がなされてなく、正しく使いこなされているとはいえない状況にある。それは、ISO9001を改善のツールであるとの誤解からきている。 日本が世界をリードした改善活動は素晴らしいものである。しかしながら、世界のISO9001はこのことを広めるために導入されたものではない。改善活動のためには、日本が開発し、世界が発展させてくれた素晴らしいシステムは数多くある。これらのシステムはISO9001と共に運用はできるが、運用しなければならないものでもない。組織は、改善のために事業をしているのではない。組織にとって、最も大切なことは“安全で良質な製品を妥当なコストで安定供給すること”であり、組織の活動の90%はこのことで占められているのである。そのところをしっかり認識しないと、日本におけるISO9001は適切に活用できない。ISO90001を改善の手段と誤解することが、審査を歪めている。組織がそれを求め、審査機関やコンサルタントがそれに応えようとすることから生じる歪みである。 マネジメントシステム審査員の養成講座では当然のことながら、日本が誇る改善手法の指導は行われない。そのような要求事項はISO9001にはないからである。また、そのような経験のない指導者がそのようなことが教えられるはずもない。 一方、ISO22000について考察してみると、この規格の英文は国際規格である。しかしながら、日本におけるその和文は正規の国際規格ではない。単なる英文国際規格解釈の参考資料なのである。国際規格が制定されて7年8ヶ月にわたってこの状態が続いている。この影響をうけて、日本におけるISO22000の解釈がバラバラな状態にある。 このISO22000はHACCPを審査規格とするために導入されたものである。FAO/WHOの下部機関であるCodex委員会がガイドラインとしてまとめたHACCPは、世界の各国が自国の規格を制定して初めて審査ができるものとなる性格を持っている。逆にそのことが禍となって、各国が自国固有のHACCP規格を制定して活用したために、国家間の取引に非関税障壁を作り、世界の貿易自由化を阻害するようになった。その障壁を除くことを求めて国際標準化機構(ISO)は、世界の統一HACCP審査規格を制定したのである。 HACCPに関してはISO22000が制定される約40年もの昔にその概念が構築され、使用されてきたために、世界の国々では、独自のシステムが蔓延していた。そのため、折角、ISO22000を構築してHACCPの審査規格を統一したのであるが、昔のシステムから抜けきれない状態が続いている。 マネジメントシステムを活用するときには、最低限、規格要求事項は、必ず、実施しなければならない。したがって、規格を正しく理解することは絶対に必要なのである。それに加えて各組織が実施したいことを上積みすることはなんら問題ない。しかしながら、この規格の正しい解釈に関しては、統一が取れていないのである。 一方、連載の第2回で述べたのであるが、ISOのマネジメントシステムは大きく2種類の仕組みに別けられることを認識しておかねばならないのである。 注2)食品業界を取り巻く国際規格の動向とその活用の考え方 矢田 富雄; 組織の本来の目的はサービスを含めた製品の提供にあり、業務推進型マネジメントシステムで達成される。これは組織経営の常識である。組織運営は、常に、リスクと隣り合わせになっている。そのリスクを効率的に対応してくれるのがリスクアセスメント型マネジメントシステムである。これらシステムは、例えば、環境関連トラブルや食品安全トラブル発生の危険性を効率的に、低減させてくれるのである。 このリスクアセスメント型マネジメントシステムには、業務推進型マネジメントシステムとは異なる共通のシステムを持っている。それぞれのマネジメントシステムによって呼称は異なるが“リスクアセスメント”というシステムである。ISO22000を例にとれば「ハザード分析」と呼ばれているものである。 マネジメントシステムを活用するときにはそれぞれの役割をよく理解して活用しなければならない。そのような考え方を正しく理解することが求められる。 実は、このことが、GFSI が、ISO22000を前提条件プログラムの規定が十分でないとの理由から世界の食品小売業界で使用するシステムとして承認しなかった理由1つであるとも考えられる。ISO22000のみでは、安全な食品は作れても良質な食品製造は保証できないからである。前提条件プログラムとして追加されたISO22002-1や、FSSC22000の追加要求事項には、食品安全のみでなく、良質な食品製造の保証も加えられているからである。 マネジメントシステム国際規格は大変有用なものなのである。この有用なシステムを本当に役立たせていくには、マネジメントシステムをリードする委員、審査機関や審査員、コンサルタントあるいはマネジメントシステムのユーザーである組織の人たちの間で規格の正しい理解を深めていくことが大切である。そのことにより、正しい規格解釈が定着され、そのような状況が確立された暁にはマネジメントシステム国際規格が真の意味で役立つものになると考えられる。 以上
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