一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
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食品業界を取り巻くISOマネジメントシステムの動向その3;
ISO22000の基本骨格をなすHACCPの基本的な考え方
並びにISO/TS22002-1及びFSSC22000追加要求事項への対応の考え方

湘南ISO情報センター
代表 矢田富雄

1.はじめに

安全は科学の世界であり、安心は情念の世界である。HACCPは食品安全を科学的に達成するツールであるが、安心を達成できるという保証はない。よく安全・安心とセットで言うが、これらを同一の舞台では論じられない。安心は、まず、安全な食品を安定して提供できるシステムを構築し、安全な食品を安定して供給できるようにしたのち、その実績をコミュニケーションを通して消費者に理解してもらうしかないのである。

HACCPで安全を論議する際には、生物学的ハザード、化学的ハザードあるいは物理的ハザードの3区分に別けて考察するのであるが、その論議の中で“許容水準”でもって安全性を判断する。“許容水準”とは該当するハザードが人に危害を与えないレベル以下の数字のことである。この“許容水準”以下の数値であれば、ハザードが食品中にあっても人に危害を与えることはないという根拠をもった数字である。

ところで、科学の世界で論じるHACCPには“基本原則”がある。HACCPのシステムを構築する際にはその原則に従って論理的に進めていく必要がある。人間である以上、情念の世界に惹かれるのは避けられない。しかしながら、情念の世界からは論理的な結論は得られないし、人の集団で構成されている組織を目的に向かって導けない。特に、自らの身体や生命のリスクに係る食品安全という課題に取り組むとき、人はとかく情念の世界に引きずられ、合理的な判断を欠くことがある。したがって、HACCPに取り組むときは論理的な思考を堅持しなければならない。

今回のテーマーはFSSC22000に関連する話題である。そのFSSC22000の基本をなすのはISO22000であり、ISO/TS22002-1であり、FSSC22000の追加要求事項である。これらに関連する食品安全の要求事項を科学の課題として理解し、活用するための考え方を述べてみたい。

 

2.HACCPの基本原則

HACCPの基本原則は以下に示すものである。

@安全は科学的な思考によって確保する。
  (検証可能な妥当性のある仕組みによって安全を確保する)
Aゼロデフェクトを求めない。
  (安全には許容される水準がある。その水準を認識して安全を確保する)
BFrom Farm to Table。
  (食品安全の確保は関連組織の総合力をもって取り組む)
C安全は工程で作りこむ。
  (食品安全は製品作りの過程で確保する:検査のみでは確実な安全性を確保することはできない)
D重点指向によりシステムを構築する。
  (もっとも適切な工程に的を絞って安全を確保する)

 

3.HACCPの基本原則の理解

HACCPの基本原則を上述した。本章においては、その内容を解説する。

3−@安全は科学的な思考によって確保する
 冒頭で食品安全は科学世界であると記述した。人の安全を確保するシステムは願望のみでは達成はできない。一方、HACCPは研究の課題ではない。現実における安全確保のシステムである。したがって、科学の知識を求めるが、今日、現在の科学的知識を活用しなければならない。実は、古代の人たちも、その時代の最新の知識や経験をもとにして食品安全の仕組みに取り組んで、生き延びてきたのであろう。その知識の多くは、人の死を伴う経験から得たものであろう。毒キノコと食用キノコの判別はまさにその最たるものであろう。火を使った有害微生物の殺菌や “煮返し”による芽胞菌の殺菌、塩を使った製品の腐敗からの防止も経験からきた知識である。それらは、現在では、科学によって裏付けされている。菌と熱の関連、水分活性と菌の生育との関係、pHと菌の活動との関係などはそのようなものである。

現在、HACCPシステムを構築するにはこれらの科学的知見や疫学的な情報によって裏づけされたもののみが管理手段として認められる。HACCPの審査システムであるISO22000の「8.2 管理手段の組み合わせの妥当性確認」には、妥当性が認められないものは管理手段となりえないと規定している。まさに、HACCPは科学に裏付けされたものであり、それでなければ認められないのである。妥当性が認められなければ、最終的にはそのシステムは中断しなければならないとCodex HACCPのデシジョンツリーに記載されている。

3−Aゼロデフェクトを求めない
 ゼロデフェクトを求めないとは、ハザードがゼロであることを求めないということである。例えば、農産物の中に残留するすべての農薬に残留基準を決めて、その基準を超えたものは販売を禁止するというポジティブリスト制度がある。これは、言い方を変えれば、残留農薬が基準以下であれば人に対して安全上問題がないと判定するということである。

これは合理的な考え方であり、ハザードが限りなく少ないほうがよいとする要求からは、経済的に妥当な食品供給はできない。例えば、菌を例にとると、サルモネラ属菌の食品衛生法での基準は25gのサンプル中で菌がゼロであることを求めている。しかしながら、その適合食品でも100gのサンプルを採取して分析すればゼロではないかもしれない。しかしながら、その程度のレベルであればサルモネラ属菌が含まれていても、人に対する安全は問題ないと判定しているのである。

このような基準値をISO22000の「7.4.2.3」で“許容水準”と呼んでおり、HACCPの管理手段を決めるときの目安となっている。この許容水準を明確にすることはHACCP系システム構築の際には非常に重要なことであり、日本では、食品衛生法の食品添加物の規格基準にそのような情報が示されている。

これは米国における固形異物の例であるが、米国FDAは、7mm未満の鋭利な固形異物が食品中にあっても、正常な成人であれば安全上問題はないと発表している。これは26年間にわたる、190事例にのぼる疫学的調査の結論であるとしている。 
 これには金属異物も含まれるのであるが、金属異物を例にすると、この異物は金属探知機で除去することが一般的である。通常、日本では、非鉄金属では3mm以上のものを含んでいる食品あるいは原材料は排除の対象としており、磁性のある金属は2mm以上のものを含んでいる食品あるいは原材料は排除している。米国FDAも、産業界では、同様な基準を持っていると認識していると述べている。FDAの疫学調査からの“許容水準”からすれば十分安全なレベルである。
 しかしながら、近年はX線検知機の登場により、その除去性能が向上し、より小さなサイズの異物が除去できる場合があるため、マネジメントシステムの審査などで見かけるのは、製造メーカーの多くの現場では、販売業者から、異物はできるだけ小さなサイズのものまで除去して欲しいと要求されており、誤作動発生の限度で機器の運用をし、人手をかけて対応している状況が見られる。これはコストアップにつながるが、販売業者に妥当なコスト負担をしてもらえる状況にはないとの話が聞かれる。食品製造における異物除去は安全な食品つくりが目的であり、合理的な許容水準を設定して対応しないと、業界全体として、経済的な損失につながっていると考えられる。

3−BFrom Farm to Table
 現在、ハザードでもっとも怖いものの一つに「O-157」がある。牛肉1gあたり100個未満の汚染でも、人が死に至る食中毒を発生させる場合がある。この菌は、牛、ヒツジ、シカなどの反芻(はんすう)動物の腸内に含まれており、それらの肉の加工過程を通じて、その肉の表面が汚染され、消費者の手元にわたるのである。
 この菌に関しては、現段階の科学では、農場では手の打ちようがない。と畜場では肉にしてから消毒剤を散布して菌の減少を目指しているが、ゼロにはできない。したがって、O-157が付着した肉を流通させざるを得ない。その肉は、店舗に並んで消費者やレストランに渡る。ただ、この菌は熱に弱いのである。通常、焼肉の過程で、肉の中心を75℃以上、1分間以上加熱すると死滅して安全な肉となる。
 このように、牛肉などに付着するハザードであるO-157は、農場(Farm)では手の打ちようがなく、と畜場でも手が打てず、肉の加工段階でも手が打てない。現在でもっとも確実な安全確保の箇所は台所かレストランの調理場(Table)なのである。
このように、HACCPでは、From Farm to Tableの最適な箇所でハザードを除いて安全な食品を確保し、人が食すればよいのであり、“From Farm to Table”はHACCPの重要な考え方なのである。

3−C安全は工程で作りこむ
 かつて日本は品質管理大国といわれ、その商品の品質の良さで、世界を席巻した。現在も、その品質の良さに関しては世界最高のレベルであろう。
 日本が品質管理大国といわれ始めたのは昭和50年代(1975年代)の頃である。HACCPシステムの具体的な考え方が米国のNASA航空宇宙局で誕生する約10年前である。
 実は、Codex HACCPの教育資料に「HACCPは世界の2つの画期的現状打破によって成し遂げられた」と記述されている。その一つは、1950年代のデミング博士に指導された日本の品質管理であり、2番目は、日本の品質管理手法の成功に触発された1960年代の米国の航空宇宙局における、飛行士の安全な食品確保を目指すHACCPの具体的手法の開発であるとされている。同様な内容はカナダ政府のHACCPの資料にも記載されている。

1950年代までは、品質管理では、でき上がった製品からサンプルを抜き取り、そのサンプルを試験・分析して合否を判定していたので不良品を含んだ製品が一定以下の不良率であれば合格と判定されていたのである。製品サンプルの抜き取り検査での判定では合格品の中に若干の不良品を含むのは避けられない。
 しかしながらデミング博士ら日本の品質管理陣は、不良品を発生させる原因を追究し、製造工程を改善することで、100%に近い良品を作れるようにしたのである。これが、“品質は工程で作りこむ” という思想であり、技術なのである。この思想をもとに、1960年代の米国において安全な航空機を作るためのシステムであるFMEA(Failure Mode and Effective Analysis)が具体化され、そのシステムが、食品中で食中毒の原因物質をゼロにしなければいけない宇宙食の製造手法の確立につながったのである。
 すなわち、HACCPでは、許容水準以上のハザードを製造の過程で除去あるいは低減する“安全は工程で作りこむ”手法なのである。

3−D重点指向によりシステムを構築する
 食品を製造する過程では、ハザードを低減させる工程はいくつかある場合が多い。例えば製粉の工程の中には異物が除去される工程がいくつもある。篩の工程である。粉の粒度を整えてためであるが、その過程で、異物も除去される。また、工程に磁気棒が設置されており、金属異物を吸着して除去する。金属探知機を設置してある工程もある。これらを全てCCPと考えて管理していくと管理費用が膨大になる。
 Codex HACCPではデシジョンツリーという手法を用意されている。絶対に管理しなければいけない工程を選び出す仕組みである。その絶対に管理しなければいけない工程をCCPとするという思想である。そのCCPは、同じ機能を持っておれば、できるだけ後工程に設定し、せっかく除去したハザードの再汚染を防ごうとしている。CCPに選ばれなかった工程も、重要な工程であることには代わりはないわけで、手順どおり管理はなされるのであるが、その監視の頻度や記録の採取は必要最小限にしているのである。そのことで、管理費用を最低限にしようとしている。これが重点指向の考え方である。

 ISO22000にもこの思想が導入されており、「7.6.2 管理手段の明確化」に規定されている。すなわち、見出された管理手段をどのCCP(工程)で管理するかを明確にせよという要求事項である。同じようなCCPに相当する工程がある場合はできるだけ後工程をCCPとして、せっかく除去したハザードの再汚染を防ごうとする。ISO22000にはOPRPという管理手段の区分がある。このOPRPに関しても同じような機能を持つ管理手段がいくつかあるときには、同じ思想で、後工程のOPRPが管理手段となるのである。

          

4.ISO/TS22002-1の位置付け

FSSC22000は安全な食品を製造するための仕組みである。その構成は、先に述べたとおり、ISO22000、ISO/TS22002-1及びFSSC22000追加要求事項から成る。ISO22000に関してはこれまでに比較的詳細に述べてきた。FSSC22000の食品安全の確保は、基本的にはISO22000で達成できるものなのである。その「7.2」には前提条件プログラムであるPRPの考え方が導入されている。
 しかしながら、世界での食品小売業界の国際ネットワークであCIES(International Committee of Food Retail Chains)の下部団体のGFSI(Global Food Safety Initiative)はISO22000に含まれるPRPのみでは十分でないとの考え方から、ISO22000を世界の食品小売業界の製品供給にその活用を推薦できないとしていたのである。このことがFSSC22000構築の引き金となった。
 英国のBSIがGFSI の考え方を受けて、ISO22000を支える食品製造の詳細なPRPを確立して、PAS220と命名した。これを受けてオランダのFFSCがPAS220とISO22000とをセットにして、FSSC22000を構築した。そのことにより、このFSSC22000は世界の食品小売業界で取り扱う製品への活用が推薦され、結果として、ISO22000が世界の食品小売業界で取り扱う製品への活用推薦につながったのである。このPAS220が、その後、ISO/TS22002-1となったのである。この章ではそのISO/TS22002-1のFSSC22000での位置付けを述べてみたい。

既に述べてきたが、ISO/TS22004では前提条件プログラム(PRPs)に属する管理手段の役割は次のようなものであると述べている。

“基礎的な条件と活動とを管理するもので、特に明確にされたハザードを管理する目的に選択されることはなく、衛生的な生産を維持する目的、周辺環境の管理や取り扱いに使用されるものである”

上述の“特に明確にされたハザード”とは、同じくISO/TS22004に規定されているが、“ハザード分析で明確にされたハザード”であって、このハザードはOPRPあるいはHACCPプランに属する管理手段によってのみ管理されるのである。したがって、ISO/TS 22002-1の要求事項はハザード分析で明確にされたハザードの除去あるいは低減に使われることはないのである。このことは、基本的な食品安全はISO22000で確保できるのであり、ISO/TS22002-1での管理対象は、偶然な出来事によるハザードに起因する汚染を防ぐことにその役割があることがわかる。すなわち、ISO/TS22002-1の要求事項に基き管理されるハザードは必然的に起きるものではなく、いくつかの事象を伴って偶然に発生するものを対象にするものなのである。
 例えば、ISO/TS22002-1「5.3 内部構造及び備品」では“床は、水溜りを避けるように設計されなければならない”との要求事項がある。しかしながら、水溜りそのものがハザードではない。床に溜った水に空中で浮遊している菌が落下して、その菌が増殖し、その水が何らかの拍子で飛び散って、製品に付着して初めて食品安全ハザードになるのである。もし、その製品に対して水の汚染飛沫を防ぐような手段があればその水溜りは問題とはならない。したがって、ISO/TS22002-1の要求事項に対応するときには、どのようなハザードがどのような因果関係を経て製品を汚染するのかを熟慮する必要があり、“床に水溜りがある”、即、不適合だとはならない。

ISO/TS22002-1の「1適用範囲」の項には次のような記述がある。
 “食品製造の作業は、本質的には多様であり、この技術仕様書(ISO/TS22002-1)に規定する要求事項のすべてが個々の施設、又はプロセスに当てはまるわけではない。除外が行われたり、又は代替方法が実施されたりする場合は、ISO22000の「7.4項」に定めるハザード分析によって正当化され、及び文書化される必要がある。いかなる除外又は代替手法の容認も、これらの要求事項を満たす組織の能力に影響を及ぼすべきではない”

すなわち、ISO/TS22002-1は単純に考えることなく、十分に熟慮して対応すべきものなのである。なお、ISO/TS22002-1の中で要求されているハザード分析は、その要求事項を除外したり、代替法を使用する場合に求められているが、そのハザード分析表の事例は第一回目(2012年12月号)に示してあるので参考にしていただきたい。

 

5.FSSC22000における追加要求事項

第一回目(2012年12月号)にFSSC22000におけるISO22000及びISO/TS22002-1以外の要求事項は以下の2点であると記述した。

@ISO22000あるいはISO/TS22002-1の要求条項に関して、より詳細な要求事項を作成した場合や追加条項を作成した場合には文書化して対応すること。
 A関連する法令規制要求事項の一覧表を作成すること。

上記に関しては、その内容がFSSC22000PartTに記述されている。一方、審査機関が審査結果の報告として作成しなければいけない様式がFSSC22000PartUAppendixUB3(Additional FSSC22000 requirements)に示されている。そのAppendixUB3を表-1に示す。

表-1 FSSC22000追加要求事項(Additional FSSC22000 requirements)

区分

FSSC PartT 附属1A

適合性

所見

1

適用される規制一覧
食品組織は以下の一覧表を保持しなければならない

1.1

組織に適用され、かつ、原料、支援業務及び製造され配送される製品に適用される国内及び国外の食品安全法令規制要求事項

 

 

 

1.2

組織が適用すると決めた食品安全に関連する規範類及び顧客要求事項

 

 

 

1.3

組織の食品安全システムはこれらの要求に適合していることを保証し証明できるものであること。

 

 

 

2

支援業務(直接製品生産にかかわらない業務)の明細
組織が供給する、食品安全に影響を与える全ての支援業務(ユーティリティ、輸送、保守を含む)に関して次の内容に対応しなければならない。

2.1

詳細な要求事項を保持すること

 

 

 

2.2

ハザード分析を実施する際に必要とする範囲で文書化すること

 

 

 

2.3

該当するPRPに対する技術仕様書の要求事項に適合すること

 

 

 

3

食品安全の原則を適用する際の該当する要員の管理

3.1

組織の要員の活動と食品安全の原則や規範とが釣り合うように正しく適用し、効果的に管理をしなければならない

 

 

 

(筆者意訳及び注記)

この表-1の要求事項を見ると、「1.適用される規制一覧表」に関してはISO22000でもISO/TS22002-1にも適切な要求事項が見られないことから必要な要求事項であると考えられる。一方、「2.支援業務(直接製品生産にかかわらない業務)の明細」及び「3.食品安全原則を適用する際の要員の管理」関する要求事項はともにISO22000あるいはISO/TS22002-1にその要求事項があり、重複ではないかとの疑念がもたれる。
 実は、「2.支援業務(直接製品生産にかかわらない業務)の明細」において筆者が“支援業務”と訳した英文は“services”である。日本では“services(サービス)”というと“奉仕”、“接待”などのイメージが浮かび、ISO22000やISO/TS22002-1の要求事項と結びつきにくいのである。一方、この表-1のタイトルに“Additional FSSC22000 requirements”とある。これはFSSC22000の追加要求事項のことであり、FSSC22000 PartTに記述されている。原文では「These may be elaborations of the clauses in ISO22000 and technical specifications for sector PRPs, 〜〜〜」とされている。すなわち追加要求事項とはISO22000及びtechnical specifications for sector PRPs(例えばISO/TS22002-1、PAS223など)の章の詳細(elaborations)あるいは追加された要求事項の内容のことであるとされている。

ISO22000及びISO/TS22002-1は食品安全を確保する要求事項であるが、その業務は大きく2つに大別される。すなわち、安全な食品を作る主要業務とそれらを支える支援業務である。支援業務には、例えば、蒸気の供給とか、設備の補修とかがある。主要業務であれば、その詳細な要求事項が手順化されるからよいが、支援業務はその詳細な要求事項が手順化されていないものもあるかもしれない。支援業務に関連する内容が不十分であることで、食品安全を阻害するという事態の発生が懸念される。
 例えば、ISO/TS22002-1の「6.4 空気の質及び換気」に“組織は材料、又は製品に直接接触して使用される空気のろ過、湿度及び微生物学的要求事項を確立しなければならない”との規定がある。この際、エアーフィルターの手入れが悪いために、そのフィルターが菌で汚染され、その汚染フィルターを使い続けていることにより、室内の空気が菌で汚染され、落下菌により製品が汚染されるというようなことが起こりうる。そのフィルターの管理の詳細な手順が抜けていることで、製品トラブルが発生しては困るという発想からである。
 「2.支援業務(直接製品生産にかかわらない業務)の明細」の対象項目の例には“ユーティリティ、輸送、保守を含む”とされており、これらの業務を含めて支援業務に関しても食品安全の見地から手順を検討し、もし必要であればその内容を明確にして、ハザード分析をし、管理することが求められているのである。「3.食品安全原則を適用する際の要員の管理」も同様に詳細な内容が必要な場合があるかもしれない。そのような場合の対応が求められているのである。
 ISO/TS22002-1は食品製造に関するPRPの要求事項を詳細に記述したといわれているが、実は、主要業務にも支援業務にも具体論はないのである。したがって、ISO/TS22002-1を活用する時は、詳細手順を明確にしないと活用できないのであり、日本で考えると詳細手順は当たり前であるとの発想があるが、FSSC22000の故郷であるヨーロッパは改めてそのことを強調するのは文化の違いと思わざるを得ないのである。

ただ、食品安全を確保するとの観点からは必要もないようなことまで手順化することが求められているわけではない。その点を留意して、該当するものがなければ該当するものはないとすればよいのである。

 

6.まとめ

FSSC22000は食品安全を確保するシステムであるが、安全な食品の確保は科学的な思考によってのみで対応できるとの観点から、ISO22000、ISO/TS22002-1及びFSSC22000の追加要求事項に関して述べてきた。
 FSSC22000は、比較的要求事項が多い仕組みである。しかしながら、これらの要求事項は、該当する食品の安全の確保が目的であって、これら要求事項に取り組むことが目的ではない。そのことをしっかり認識し、必要最小限の要求事項への対応は抜かしてはいけないが、必要もないようなことまで取り組むことはないのである。そのような考え方でFSSC22000の仕組み作りに取り組むことが大切である。

 次回は、食品業界を取り巻くISOマネジメントシステムのうち組織運営の中心をなすISO9001に関して、その動向と考え方を述べてみる。

今回の内容はこれまでに掲示した資料に加えて以下の資料を参照した。

Food Safety System Certification 22000,Octorber 2011, Foundation for Food Safety Certification

 

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