一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >食品業界を取り巻くISOマネジメントシステムの動向
食品業界を取り巻くISOマネジメントシステムの動向
その2; FSSC22000の中心的役割を担うISO22000活用の要点
湘南ISO情報センター
代表 矢田富雄

1.はじめに

ISOのマネジメントシステムは大きく2種類の仕組みに別けられる。組織の主たる事業を円滑に運用する業務推進型マネジメントシステムとリスクアセスメント型マネジメントシステムである。筆者は、十数年来、その関連を背骨肋骨説と呼んでいる。その構造を図−1に示す。業務推進型マネジメントシステムは人に喩えれば背骨であり、ISO9001がこれに該当する。一方、リスクアセスメント型マネジメントシステムは人に喩えれば肋骨であり、ISO14001やISO22000などがこれに当たる。
 組織の本来の目的はサービスを含めた製品の実現及び提供にあり、業務推進型マネジメントシステムで達成される。一方、リスクアセスメント型マネジメントシステムは、環境関連トラブルや食品安全トラブル発生の危険性を大幅に減少させてくれるものである。
 このリスクアセスメント型マネジメントシステムには、業務推進型マネジメントシステムと異なる共通のシステムを持つ。それぞれのマネジメントシステムによって呼称は異なるが“リスクアセスメント”というシステムである。ISO22000を例にとれば「ハザード分析」と呼ばれているものである。

図-1:ISO9001とリスクアセスメントマネジメントシステムとの関連

食品業界を取り巻く国際規格の動向とその活用の考え方 矢田 富雄;「食品産業新聞社
創立 50周年記念誌(2001年)」一部手直し

ISO9001では、記録とか文書化とかに関して例外があるとしても、普通に事業を行っている会社には、通常、備わっている仕組みである。したがって、ISO9001の認証を取得しようと考えた組織は、現在、自組織が実施している業務を整理して、ISO9001の仕組みと比較し、足りないところを補強すれば、直ちにその認証を取ることができる。しかしながら、リスクアセスメント型マネジメントシステムに関しては、単に、組織の現状の業務を整理しただけでは、そのマネジメントシステムの構築はできない。その骨格を成すリスクアセスメントの仕組みを組みこまなければならないのである。この考え方を発展させればISO9001に特定のリスクアセスメントの仕組みを付加すれば、そのリスクアセスメント型マネジメントシステムを持つ複合システムができるのである。

今回のテーマは食品安全マネジメントシステムの一つであるFSSC22000構築の中心をなすリスクアセスメント型マネジメントシステムであるISO22000に関することである。
 ISO22000の概要に関しては、既に、本メールマガジン2011年4月号で述べているので、全体としての概要についてはその記事に譲るとして、ここではISO22000システムの構築における当システムの誤解されやすい留意点を中心に述べることにする。そのことにより、適切なFSSC22000の仕組み構築や適切なISO22000マネジメントシステム構築のヒントとなれば幸いである。

 

2.日本規格協会発行の英和対訳版ISO22000の位置付け

日本規格協会発行のISO22000:2005(以下発行年を省略する)の和文は「国際規格」ではない。英文は国際規格であるが、和文は、単なるISO22000国際規格の英和対訳版であり、英文原本を利用する際の情報提供を目的としたものである。日本規格協会は、この日本語訳のみを使用して生じた不都合な事態に関しては、一切責任を負わないと宣言している。このような和文しか発行されていないことと、かつ、和文といいながら英文を単なるカタカナやその略号のローマ字で記載しただけの対訳版が日本におけるISO22000運用の誤解を生む原因となっていると考えている。

日本規格協会発行のISO9001:2008のJIS規格は「国際規格」である。ISO22000と同じように英文をカタカナにしたものもあり読者を悩ませているがIDTである。国際規格を自国語に翻訳する際には、IDT(identical;一致している)、MOD(modified:修正している)及びNEQ(not equivarent:同等でない)の3段階にわけるのである。日本ではIDT及びMODのみを国際規格であるとしている。しかしながら、ISO22000の翻訳本はこのどれにも該当しない。したがって、組織が仕組みを構築する際にも、審査員が審査内容を組織と論議する際にも、最終的には英文の解釈によって結論を出さねばならない。関係者の早急なIDT JIS Q 22000発行を望みたいものである。

以下、審査を通して、あるいは市販の解釈本を見て気付いた、筆者からみた、日本におけるISO22000の、特に、基幹システムである「ハザード分析」に関連する正しくない解釈と考えられるものを紹介しながらその内容を解説していきたいと考えている。
 ここでの用語は、特に意図する場合を除いて、極力、日本規格協会発行の英和対訳版のISO22000のものを採用する。

 

3.最大の誤解である「オペレーション前提条件プログラム(PRP)」の意味

現在のISO22000における「オペレーション前提条件プログラム(Operation prerequisite programme;以下OPRP)」の定義は「食品安全ハザードの製品又は加工環境への混入及び/又は製品又は加工環境における食品安全ハザードの汚染又は増加の起こりやすさを管理するために必す(須)なものとしてハザード分析によって明確にされたPRP」とされている。この定義の不思議さは、英文も含めて“Operational(操作上の)”に関してまったく触れられていないこと及びprerequisite proguramme を単にPRPとローマ字で表現しており、“前もって必要なもの”あるいは“先行条件”という意味に関して和文で明確にしていないことである。

このOPRPという用語がHACCPシステム上に始めて現れたのは2004/3/5のISO22000CD(Committee Draft International Standard;国際規格委員会案、以下CD)からである。その後、定義における一部英語表現は変更されたものの、DIS(Draft International Standard;国  際規格素案、以下DIS)、2005/1/21のFDIS(Final Draft International Standard;国際規格最終案:以下FDIS)を経て2005/9/1のIS(International Standard;国際規格:以下IS)に至るまで、ほぼ同義の定義で引き継がれてきた。
 一方、OPRPの用語が登場するまではSSM(Suportive Safety Measure)と呼ばれていた現在のPRPが、はじめてPRPの名称で登場したのもこの2004/3/5のCDからである。そのPRPの定義のなかに注釈があり、現在のISでの定義の注釈に加えて次の内容が加えられていた。 “〜〜〜infrastructure and maintenance programs and operational prerequisite programs ”、すなわち、現在のISのPRPの定義における注釈に加えて“インフラストラクチャー、維持プログラム及びOPRP”をPRPに含めることができるとしていたのである。
 その後に導入された2004/3/24のDISには要求事項の解釈集(Annex)が付加されおり、その解釈集に「PRP である“インフラストラクチャー及び維持プログラム”と、同じくPRPである“OPRP”とをどのように分類するかは組織が自由に決めればよい」と記述されており、比較的厳しい定義を決めているISOの中では異色な考え方であったので、その解釈はまたたく間に関係者に広まったのである。実際は、その表現の後に、この“OPRP”は「7.3〜7.6(現在のISの規格とほぼ同じ内容である)」による検討を経て設定しなければならないとされており、一方、“インフラストラクチャー及び維持プログラム”であるPRPはハザード分析も妥当性確認も必要ないとされているので、実際はこの両者は明らかに別物であったのであるが、“分類を組織が自由に決めてよい”という言葉は独り歩きし、その後の管理手段の考え方を乱すことになったと考えられる。現在でも、OPRPは組織が自由に決めてよいとの解釈は残っており、かつ、この内容が拡大解釈されて、本来HACCPプランに属する管理手段をも技術的あるいは経済的に難しければOPRPに属する管理手段で管理してよいというような解釈を蔓延させたのである。

このような解釈は、規格がFDISに移行する段階でなくなった。これは、規格に解釈集を付帯させているのはおかしいという意見からであり、規格と解釈集(Annex)とを分別し、解釈集はISO/TS22004に移された。これを契機に、PRPから“インフラストラクチャー及び維持プログラム”という用語はなくなり、現在のISの管理手段はPRP、OPRP及びHACCPプランのみとなった。それに伴いPRPあるいはOPRPを組織が自由に選択してよいという解釈も規格からは消えたのである。
 現在のISではPRP、OPRP及びHACCPプランはISO/TS22004に関してで明確に定義されている。かつ、そのISO/TS22004に関してはISO22000の序文でこの規格の解釈集であると規定されているのである。その内容を次に示す。(筆者意訳)

a) 前提条件プログラム(PRPs)に属する管理手段は、基礎的な条件と活動とを管理するもので、特に明確にされたハザードを管理する目的に選択されることはなく、衛生的な生産を維持する目的並びに周辺環境の処理及び取り扱いに使用されるものである。
b) オペレーション前提条件プログラム(OPRPs)に分類される管理手段は、ハザード分析で明確にされたハザードを受容可能なレベルまで管理するために必要とされるもののうち、HACCPプランに属さないようなものである。
c) HACCPプランに分類される管理手段は、ハザード分析で明確にされたハザードを受容可能なレベルまで管理するために必要とされるもののうち、重要管理点(CCPs)で適用されるものである。

すなわち、特定の製品及び工程あるいは加工施設に関連を持つ食品安全ハザードの予防、除去又は規定の許容水準への低減を可能にする管理手段はOPRPあるいはHACCPプランに分類され、システム全体で共通して使用する管理手段はPRPに分類するとされたのである。

ここで、OPRPの解釈にかかわる記述に関して触れてみる。
 2004/5/3に投票を開始したDISに関しては日本規格協会から英和対訳版が出版されている。このDISには解釈集(Annex)が付加されており、その中に下記のような記述がある。

“管理手段の第一の目的が食品安全以外(例、食品処理)のことがあり、その場合は、ハザード除去は2次的なものとなる。このような管理手段の有効性の不足が容易に検出可能なものである場合(例、パンの焼き方の不足)、ハザードレベルに対するその影響は重大であるものの、管理手段はOPRPsによって効果的に管理できる”

上記内容をまとめると次のようになる。
  “OPRPとは食品安全の管理を目的とするものではない管理手段で、結果として食品安全性を管理できる手段であって、その管理手段の有効性不足さが容易に検出可能なものをいう”。パンの焼成の例を挙げているが、その焼成の色が一定以上になれば食品安全ハザードである病原菌が除去できるとしているのである。炊飯などもこの例に該当する。

実は、このような考え方は、ISO22000の基盤をなすCodex HACCPの教育資料にもあるのである。GMPと呼ばれている。GMPというと衛生管理の手段のようにいう人もいるが、起源は衛生管理を含む良質な医薬品を作るための手段である「good manufacturing practice」に由来している。衛生的で良質な医薬品を製造する手段として命名されたのち、食品分野でも展開されたものである。
 Codex HACCPの教育資料の記述は次のようなものである。
 “CCPs(ISO22000のHACCPプランに相当する:筆者注記)の決定に先立って、明確にされたハザードがCodexの一般衛生原則であるGMPs/GHPs(以下GMP:筆者注記)で完全に管理できるかどうかを評価し、さらに、HACCPチームは現場でその明確にされたハザードが完全にGMPの手段で管理できるかどうかを評価する。明確にされたハザードが完全にGMPの手段で管理できることが明らかであれば、そのハザードはGMPの手段で管理できるとして,CCPsの対象にしなくてよい(筆者意訳)”

この場合のGMPがまさにOPRPに相当することを示す記述であり、ISO22000でのOPRPはこのGMPをOPRPとして取り込んだものと考えられる。

ここで改めて現在のISにおけるOPRPとその定義を記載して、検討してみる。
 英文;「operational PRP」、「operational prerequisite proguramme」。
 和文;「オペレーションPRP」、「オペレーション前提条件プログラム」
 和文定義;「食品安全ハザードの製品又は加工環境への混入及び/又は製品又は加工環境における食品安全ハザードの汚染又は増加の起こりやすさを管理するために必す(須)なものとしてハザード分析によって明確にされたPRP」

この定義を見ると、先に述べたように、英文も含めて“Operational(操作上の)”に関してまったく触れられていないことに気が付く。また、prerequisite proguramme を単に“PRP”としており、“前もって必要なもの”あるいは“先行条件”という意味に関してはまったく明確にしていない。
 これまでの内容をまとめると、“operational prerequisite proguramme”とは前もって実施される操作により、結果として、ハザード分析で明確にされたハザードが管理される管理手段の総称である。

結論として、「OPRPとは食品安全管理を目的とするものではないが前もって必要な食品調理等の操作があり、結果として食品安全の管理ができる管理手段であって、その有効性が不足するときは容易に検出可能なものである」といえる。

 

4.PRP,OPRPあるいはHACCPプランの区分に関する誤解

前節では、食品安全管理手段区分のうちOPRPの考え方を述べてきた。ここでは、前節で述べたISO/TS22004のPRP,OPRPあるいはHACCPプランに含まれる管理手段でよく言われる技術的あるいは経済的理由で本来あるべき区分を他の区分に置き換えることができるという考え方の誤解内容に関して解読してみたい。
 ハザードを管理するには、まず、その管理手段を明確にする必要がある。その上で、その管理手段を効果的に活用するためにどの区分(PRP、OPRPあるいはHACCPプラン)に属する手法を使えば機能が発揮できるのかを考えて、その区分を決めるのである。
 先のISO/TS22004の定義によれば、特定の製品及び工程あるいは加工施設に関連を持つハザードを対象にする管理手段はOPRPあるいはHACCPプランに属する手法を使うとされ、システム全体で共通して使用される管理手段はPRPに属する手法を使うとされている。
 よく言われているように管理手段の所属区分によって管理条件の厳しさが異なるというのは事実である。例えば、HACCPプランに属する管理手段の場合は許容限界という厳しい条件があり、OPRPの場合は許容限界はないものの管理状態の有無を判断する基準があり、その基準を外れれば不適合となり、製品も不適合となる場合が多い。一方、PRPにも管理状態の有無を判断する基準があり、基準に合致しなければ不適合になるであろうが、追加処理で対応できるし、不適合品の発生はない、という意味ではそれぞれの管理手段の所属区分には厳しさの差があるかも知れない。しかしながら、それはあくまでも、その管理手段の機能によるものである。だからといって、OPRPに属する機能で効力を発揮しなければならない管理手段をPRPで管理するということはないし、同様に、HACCPプランに属する管理手段で管理するものをOPRPやPRPで管理することもないのである。
 ここで、“加熱”という管理手段が、その活用の仕方によってPRP、OPRPあるいはHACCPプランに属することがあるという例を図―2に示す。それぞれの機能によってその管理手段の所属区分は異なる。

図-2 管理手段である“加熱”の活用内容と分類区分

管理手段の実施例 該当する管理手段の意義

管理手段の分類
区分名称

器具、容器等は使用後に流水で全面洗浄し、80℃、5分以上で加熱殺菌する。 全ての製品、製造工程に共通するハザードに対応する管理手段。

PRP
(前提条件プログラム)

炊飯中の加熱によりコメの中の病原菌が殺菌される。 CCPや許容限界はないが、製品、製造工程に固有なハザードに対応する管理手段。 OPRP
牛肉中のO-157を中心温度を75℃1分以上加熱して殺菌する。 CCPがあり、許容限界がある製品、製造工程に固有のハザードに対応する管理手段。 HACCPプラン

 

5.管理手段の選択及び分類の考え方の誤解

(1)管理手段の選択の誤解
  ここで述べるのは、規格要求事項の誤解例である。
  ISO22000「7.4.4」に次のような要求事項がある。
 「(管理手段の)選択及び分類は、次の事項に関する評価を含む論理的手法を用いて実施すること」

a) 適用された厳しさに関連する、明確にされた食品安全ハザードに対して、選択された管理手段がもつ効果
b) 選択された管理手段をモニタリングできる可能性(例えば、即時の修正を可能にするタイムリーにモニターする能力)
c) 省略
d) 管理手段の機能不全、又は重大な工程上の変動の起こりやすさ

(以下、e、f、gは省略)

上記要求事項は、a〜gをも含めて評価しながら論理的に管理手段を選択し、分類することを求めているのであって、a〜gをOPRPあるいはHACCPプランに分類せよとの要求事項ではない。しかしながら、 “a〜g”をOPRPあるいはHACCPプランに分類したものが見られる。

例えば、a)に関する誤った解釈として以下のように記載されているものがある。
 「100%管理すべきハザードであればHACCPプランでとして管理すべきであるし、そうでなければOPRPとして管理することが考えられる」
 a)で述べているのは、“管理手段を選択する際には識別された食品安全ハザードに対して考慮の対象としている管理手段はその厳しさから見て効果があるのかどうかを評価せよといっているのである。その効果の評価は「8.2 妥当性確認」による。その上で、その管理手段は効果があると評価されたら、次に、その機能からみてHACCPプランに所属するのかOPRPに所属するのかを決めればよいのである。管理手段となりうるかどうかを評価するのが先である。

b)における誤った解釈として以下のように記載されているものがある。
 「必要とする精度や、その即応性といったことを満足するモニタリングの可能性について述べている。このようなモニタリングが技術的・経済的に不可能であれば、この管理手段はHACCPプランとして管理することは難しい」
 しかしながら、ここで述べていることは“管理手段は、必要とされるモニタリングができるかどうかを評価せよ、必要な程度のモニタリングができる場合はよいが、できない場合は、HACCPプランであろうとOPRPであろうと管理手段となりえないこともある” といっているのである。管理手段となりうるかどうかを評価するのが先である。一方、モニタリングの迅速性のみを考えると、HACCPプランであろうとOPRPあろうと迅速のほうがよいに決まっている。
 

d) における誤った解釈として以下のように記載されている。
 本件のような場合は「HACCPプランで管理することを求められるのであるが、やむを得ずOPRPで管理しなければならないものもある」
 このケースは、管理手段となりうるかどうかを評価するのが先である。“このような管理手段は極力採用しない、すなわち、選択しない”と考えるのが正しい解釈である。

以上の例は、HACCPプランあるいはOPRPをよく理解していない解説であるといえる。

(2)管理手段とフローダイアグラムの内容との関係の誤解
 「7.4.4」に「7.4.3のハザード評価に基づいて、これらの食品安全ハザードの予防、除去又は規定の許容水準への低減を可能にする管理手段の適切な組み合わせを選択すること。選択に当たっては「7.3.5.2」に記述されているそれぞれの管理手段を、明確にされた食品安全ハザードに対する有効性についてレビューすること」という要求事項がある。この要求事項には下記のような誤った解釈が見られる。
 「ハザードを管理するための管理手段の組み合わせは、“7.3.5.2工程の管理手段”において食品安全に影響する管理可能性のある管理手段として規定されたものの中から選択されることとなる」とされている。しかしながら、「7.3.5.2」において記述された管理手段は、フローダイアグラムを構築した際に判明していたものに過ぎないわけで、このフローダイアグラムを活用して、さらにハザード分析を推進し、新たな管理手段が出るかもしれないし、「7.3.5.2」に記述された管理手段は管理手段として採用されないかもしれないわけで、それらの全ての管理手段を含めて検討しなければならないのである。

(3)管理手段の組み合わせに関する誤解
 ISO22000の「8.2」に関しては、その要求事項のタイトルが「〜〜の組み合わせの妥当性確認」となっていることから他のHACCPプランに属する管理手段やOPRPに属する管理手段と組み合わせせられた管理手段のみが対象で、組み合わせられていない管理手段は対象ではないように考えている受審組織、コンサルタントあるいは審査員がいる。それは誤りであって、全ての管理手段が対象となるのである。例えば、加熱殺菌は組み合わせられた管理手段なのである。すなわち、“加熱”は一つの管理手段であり、その“加熱時間”が二つ目の管理手段である。75℃の温度と1分関の加熱時間で病原菌を殺菌するという組み合わせられた管理手段なのである。むしろ、単独の管理手段というものはまれなのである。ボツリヌス菌の芽胞発芽を防ぐ管理手段はpHが4.6未満であり、単独の管理手段の例である。同じく、ボツリヌス菌の芽胞発芽を防ぐ管理手段はawが0.94未満であり、ともに単独の管理手段である。
 この単独な管理手段も「8.2」の対象なのである。それは「8.2a)」で要求されている。すなわち、“選択された管理手段は、指定された食品安全ハザードの意図した管理を達成することができる”とあるのは単独な管理手段を対象としている。
  「8.2」は管理手段が目的どおりの成果が達成できることを“客観的な証拠で証明できるか”ということを問うているのである。

 

6.ハザード分析における誤解

ハザード分析は、ISO22000の「7.4」と「8.2」からなっている。要求事項を整理してみると以下のようになる。

(1) 製品の種類、工程の種類及び実際の加工施設に関連して発生することが当然予測される全ての食品安全ハザードは明確にされ、かつ、記録すること(「7.4.2」)
(2) 最終製品における食品安全ハザードの許容水準を、可能なときは決定すること。その決定の正当性及びその結果を記録すること(「7.4.2.3」)
(3) 明確にされたそれぞれの食品安全ハザードについて、その除去又は規定の許容水準までの低減が安全な食品の生産に必す(須)であるかどうかを、また、その管理が規定の許容水準を満たすために必要であるかを決定するためにハザード評価を実施すること。ハザード評価は、健康への悪影響の大きさ及び起こりやすさにしたがって評価し、評価の方法を記述し、その結果は記録すること(「7.4.3」)
(4) 健康への悪影響の大きいもの及び起こりやすいハザードの管理手段又は管理手段の組み合わせを選択し、その管理手段はOPRP又はHACCPプランに分類すること。選択及び分類は論理的手法で実施し、その方法及び判断基準は、文書に記述し、判定結果を記録すること(「7.4.4」)
(5) OPRP及びHACCPプランに組み込む管理手段の実施に先立って、及び管理手段のあらゆる変更のあとに、組織は、次の事項の妥当性を確認すること。
 
a) 選択された管理手段は、指定された食品安全ハザードの意図した管理を達成することができる。
b) 管理手段は組み合わせた状態で効果的であり、かつ、規定された許容水準を満たす最終製品を得るために明確にされた食品安全ハザードの管理を確実にすることができる。(「8.2」)

以上の(1)〜(5)をハザード分析表に整理すると表−1のようになる。

 これらの中で誤解の多いものに(3)の「ハザード評価」に関するものがある。これは、摘出したハザードの人に対する厳しさと、そのハザードの該当する食品の中での発生頻度によってその危険度を決定し、必要とされる管理手段を明確にしていくものである。ハザードが、人の死を招くほどの厳しさがあり、そのハザードが頻繁に食品に混入してくるようであれば非常に危険なハザードであり、相応しい管理手段が必要であると評価するのである。ここでは3点評価をしているが、世界的な決めごとはない。3段階程度が妥当であり、また、1〜3の正確な評価基準はないので、各組織で1〜3の基準を決めればよい。一般には厳しさと発生頻度の積で危険度の大きさを求めて、(4)でその管理手段を決めていくのである。よく見られるものは危険度を決めてないというものがある。これでは管理手段が選びようがない。
 次の誤解は(1)のハザードの明確化で、単に、微生物としか記述していないものがある。微生物には熱に弱い通常の病原菌(栄養細胞という)や熱に強い芽胞を持っている菌、あるいは毒素を産生する菌があり、それぞれ管理手段が異なるのであり、それらを分類して表記する必要がある。
 また、(1)で“発生することが当然予測される”ハザードを明確にする際に“発生することが当然予測される”理由を明確にしていないものが見られる。これらのことを明確に示しておかないと“発生することが当然予測される”ハザードを摘出しいるかどうかが明確にならないのである。例えば、牛の肉であればO-157の存在は高確率で予測されるのであり、“牛の肉はO-157の存在する確率は高い”と明記すればよいのである。一方、農産物には農薬の存在は高確率で予測されるわけで、農産物には“農薬の存在は避けられない”と記述すればよい。
 一方「ハザード分析表」をできるだけ簡潔にしようとするあまり、表-1の(4)ハザード評価以降を極力省略すべきであると主張するものもみられるが、これでは本章の(4)のハザードの管理手段の選択と分類の記録が別途必要となる。

 

表-1 ハザード分析ワークシート例(PDF:229KB)

7.まとめ

今回は、日本語のISO22000が正規の国際規格でないことに由来する規格に関する誤解を中心に述べてきた。ISO22000を正しく活用して組織に役立つ仕組みを構築し、その仕組みを正しく審査して欲しいためである。マネジメントシステムの和文は翻訳者の経験に基づく言葉からくるのである。英文は自らの経験と言葉で理解できたとき、始めて自信を持って関係者に話すことができるようになるのである。特に、リスクアセスメント型マネジメントシステムはその構築に論理性が求められるのである。
 ISO22000の和文に関してはJIS制定の関係者、ISO22000の関係者及びマネジメントシステムに関連を持つ「品質管理学会」の関係者が正しいJIS Q 22000の早期制定に尽力を期待したいものである。

次号以降も食品に関連を持つマネジメントシステムを紹介しつつ、その解釈を示していきたいと考えている。

なお上記の内容に関しては下記著書を参照した。

・「現場視点で読み解くISO22000:2005の実践的解釈 2010/10/20 矢田冨雄 幸書房出版」
 ・「現場視点で読み解くISO9001:2008の実践的解釈 2009/11/20第2冊 矢田冨雄 幸書房出版」
 ・「ISO22000 食品安全マネジメントシステム構築運用の手引き 2007/9/10第2冊 矢田冨雄 日科技連」
 ・「ISO 9001-HACCPのすべて 2002/5/27 矢田富雄 日経BP」

 

 

 

バックナンバーを見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

 
Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.