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食品業界を取り巻くISOマネジメントシステムの動向
その1;食品業界を揺るがすFSSC22000とISO/TS22002-1
湘南ISO情報センター
代表 矢田富雄

1.はじめに

食品業界ではこのところFSSC22000が大きな話題になっている。FSSC22000とはオランダのFFSC(Foundation for Foods Safety Certification)が制定して食品安全規格である。その構成はISO22000:2005、ISO/TS22002-1:2009(以下制定年度は省略する)及びFFSCが追加した要求事項から成っておりFSSC22000と総称されている。

このFSSC22000誕生は食品小売業界の国際ネットワークであるCIES(International Committee of Food Retail Chains)と関連がある。CIESとは、世界の中心をなす食品小売企業の国際ネットワークを提供している団体であり、国際的な食品流通において大きな影響力を持つ。この団体が運営するGFSI(Global Food Safety Initiative)は、世界の様々の食品安全規格を自団体が決めたガイダンス文書と照合して合致度を判定し、合致する規格のみを承認しており、それらの規格をCIESの食品小売業界の国際ネットワークに属する企業に普及していこうと目指している。しかしながら世界のHACCP規格を統一しようとして規定されたISO22000は前提条件プログラムの規定が十分でないとの理由でGFSIに承認されていなかったのである。

 

2.GFSIのガイダンス文書とFSSC22000誕生

GFSIのガイダンス文書は、食品安全規格に対して下記の3項目の規定を要求している。

(1)

食品安全マネジメントシステムがあること。
(2) Good Practice(対象製品に応じて適正農業規範(GAP)、適正製造規範(GMP)、適正流通規範(GDP))があること。
(3) Codex HACCPガイドラインあるいは米国食品微生物基準諮問委員会(NACMCF)の規定にもとづくHACCP規格があること。

ISO22000は、(1)に関しては、購入品の管理などは若干不十分なところがあるが、ほぼ、適合しており、(3)は適合している。一方、(2)のGood Practiceに関しては、「7.2」に前提条件プログラムの要求事項があり、その「7.2.3」に“Codexの原則類や実施規範類を、国家規挌、国際規格又はセクター規格を考慮して利用すること”と規定されており、さらに、要求される項目が規定されているので、一般的には適切なのであるが、GFSIのガイダンス文書では、対象製品によりそれぞれ適正農業規範(GAP)、適正製造規範(GMP)あるいは適正流通規範(GDP))を明確にするようにと要求しており、この要求事項に対しては適合しないと判定されても仕方がない状況にあった。
 すなわち、ISO22000はあらゆる世界の食品関連組織で活用されているHACCPをISO22000の枠内で統一しようとしたために、前提条件プログラムは当該組織に任せざるを得ない状況になり、具体的な内容を規定することはできず、具体論を要求するGFSIの考え方とは合致しないものとなっていた。

そのようななかで、2008年にISO22000と合体して活用するための「前提条件プログラム」であるPAS220がBSI(英国規格協会)から発行された。これを受けて、オランダのFFSCが、ISO22000とPAS220とをセットにしたFSSC22000を開発し、これがGFSIに承認された。
 一方、国際標準化機構(ISO;International Organization for Standardization)がPAS 220を原案として2009年にISO/TS22002-1を発行した。これは食品製造のための適正製造規範(GMP)である。このISO/TS22002-1を活用して、スイスの組織がISO22000とセットにしたSynergy 22000を開発し、食品製造組織のための食品安全規格として作成して、申請し、その承認を得たのである。その後、FFSCがPAS220のみでなく、ISO22002-1とISO22000とをセットにしたものもFSSC22000であるとしてGFSIに認証を申請し、認められたのである。その後、Synergy 22000はFSSC22000に統合され、またPAS220も廃止された。

 

3.前提条件プログラムとISO/TS22002-1

ISO/TS22002-1は製品製造に関する前提条件プログラムとして誕生したのである。

そもそも「前提条件プログラム」の必要性を明確にしたのはカナダ政府である。そのHACCPであるFSEP(Food Safty Enhancement Programe;1995)のなかで必要性を強調したことから注目された。このFSEPのなかで、「前提条件プログラム」である“prerequisite programs”は下記のように記載されている。

FSEP のもとで、HACCPプラン開発に先立って、製造管理には直接関連はないかもしれないが、HACCPプランを支える要素を開発し、文書化し、実施するための、その施設に対する要求事項がある。これが“prerequisite programs”であり、HACCPプラン実施に先立って、その効果を監視し、検証する必要がある。“prerequisite programs”は食品施設内で、安全な食品生産に役立つ環境条件を提供する普遍的な手段や手順と定義されたものである。

上記内容を見ると、“prerequisite programs”は、直接的には安全な製品の固有の製造条件ではないが、HACCPプラン開発に先立って導入すべきものであって、例えば手洗い、清潔なユニホーム着用あるいは防虫・防そなどの安全な製品製造の普遍的な条件のことであると述べているのである。

 

4.ISO/TS22002-1の要求事項とその考え方

ISO/TS22002-1の要求事項の概要を示すと「表-1」のとおりである。衛生管理のみでなく、いわゆる、ISO9001に要求されている品質に関する要求事項や組織における緊急事態に対する要求事項が含まれている。

表-1 ISO/TS22002-1の要求事項の概要(PDF:14.4KB)

これらの前提条件プログラムの対応の考え方はISO/TS22002-1の「適用範囲」のなかで下記のように明確にされている。すなわち、この要求事項で求められている内容が該当するすべての組織に当てはまるとはかぎらないので、除外や代替手法を実施してもよいとされている。しかしながら、除外や代替手法の実施の際は、その妥当性をISO22000の「7.4 ハザード分析」で確認した上でなされなければならないとされているのである。

食品製造の作業は多様であり、ここに示す技術仕様書の内容がすべて個々の組織やそのプロセスに当てはまるわけでもない。したがって、除外や代替手法の実施もあり得る。
除外や代替手法の実施の際は、その妥当性をISO22000の「7.4 ハザード分析」で確認した上でなされなければならない。このような除外や代替手法の実施による組織の安全な食品を提供するというその能力に影響を与えてはならないからである。

「表-2」に食品製造建屋の周辺に存在する食品汚染の危険性があるハザードに対する対応手段に関して、ハザード分析を実施して、現在の場所でも食品が汚染されないという妥当性を確認した例が示されている。すなわち、該当する要求事項はISO/TS22002-1の「4.2 環境」の“食品製造は、潜在的に危険物質が製品に入らない区域で行われなければいけない”との要求事項に対する代替手段を示したものである。ISO/TS22002-1には要求事項を示しているが、その要求事項は絶対的なものでなく、除外や代替手法で対応してもよいのである。しかしながら、その除外や代替手法が妥当なものでなければならないわけで、その際にISO22000の「7.4 ハザード分析」で確認することが求められているのである。

表-2 ハザード分析ワークシート例(PDF:40.3KB)

5.日本における前提条件プログラムの例とISO/TS22002-1

実は、日本では、厚生省(現厚生労働省)が中心となり、昭和50年代から多くの衛生管理の規範類、いわゆる「前提条件プログラム」が作られてきたのである。代表的なものを「表-3」に示した。これにより、ISO/TS22002-1の要求事項を自社で具体化する際の参考とすることができる。これらはISO/TS22002-1と比較すると、個々の製品ごとに制定されているのでより具体的であり、大変に有用なものである。該当する製品ば直ちに活用できるし、該当する製品でなくとも建屋の管理などでは直接活用できる有用な情報がある。

表-3 日本における衛生管理に関する規範類(PDF:14.2KB)

 

6.FSSC22000の要求事項

FSSC22000は3分冊の要求事項からなっている。そのうち、認証を受ける組織に求められる要求事項は「PartI」である。「PartII」は認証機関への要求事項であり、「PartIII」は認定機関に関する要求事項である。
 「PartT」には、“FSSC22000での中心はISO22000である”と記載されている。当然のことながらISO/TS22002-1にも対応したければならないが、中心はISO22000なのである。ISO22000に関してはすでに、本メルマガの2011年4月号に掲載されているが、FSSC22000の中心となる規格であり、日本語版の和文は正式な規格ではなく、参考資料との位置づけであり、意外と誤解されているところも多い。次号では、ISO22000を適切に理解する際の留意点を中心に述べることにする。また、注目されるISO/TS22002-1の要求事項も追加解説する。
 FSSC22000におけるISO22000及びISO/TS22002-1以外の要求事項は以下の2点である。
 (1)ISO22000あるいはISO/TS22002-1の要求条項に関して、より詳細な要求事項を作成した場合や追加条項を作成した場合には文書化して対応すること。
 (2)関連する法令規制要求事項の一覧表を作成すること。

なお、食品用包装材料もFSSC22000の認証が受けられる。ISO22000、PAS223及びFSSC22000の要求事項をもとにシステムの構築して適合すれば認証が受けられるのである。すでに、このISO22000、PAS223及びFSSC22000の要求事項で認証を受けた組織があるが、ここに示されているPAS223に対してはGFSIがその要求事項に適合しないところがあるとの指摘をしており、更新が求めらることになるとの記事が2012/9/10付けで掲示されている。
 英文の資料は「http://www.fssc22000.com」からダウンロードできるので参考にするとよい。

 

8.まとめ

現在、食品業界をにぎわしているFSSC22000はオランダの民間団体が作成し、食品小売業界の国際ネットワークであるCIESの下部機関であるGFSIに認証された規格である。多くの食品企業が認証に挑戦している。このFSSC22000の構成は、ISO22000:2005、ISO/TS22002-1:2009及びFFSCが追加した要求事項から成っている。
 2005年から正式な国際規格として世界各国で認証が始まっているISO22000は、GFSIからは適正製造規範が不十分であるとされて、承認されてなく、食品小売業界の国際ネットワークであるCIESで使用が推奨されていない状況にあったが、英国BSIが発行したPAS220を基にしたISO/TS22002-1を取り入れたことにより、FSSC22000としてGFSIに承認されてCIESのメンバー企業に活用が推奨されるようになった。
 このことにより、食品業界では、今後、ますますISO22000及びISO/TS22002-1規格に注目が集まってくると考えられる。

以上

なお以上の内容に関しては下記著書を参照した。

「現場視点で読み解くISO/TS22002-1:2009の実践的解釈 2011/8/20 矢田冨雄 幸書房出版」

 

 

 

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