一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >「異物検査の豆知識」
「異物検査の豆知識」
SUNATEC コンサルティング室
野村早絵子

第6回目:異物検査事例(4) 原料・食材由来の「異物」

これまで紹介した事例からもいえるように、異物が何であるか予想していたものと検査結果が全く異なる場合があります。今回は、そのような事例のなかでも、石やプラスチック、カビと疑われたクレーム品を検査した結果、実際は、原料や食材に由来する物質であることが判明した検査事例を3つ紹介いたします。

 

1.ハンバーグに混入していた硬質な物質

異物は、ハンバーグ喫食中にハンバーグの中から発見された物質でした(図1)。噛み切れないほど硬質であることから、石やガラスではないかというお申し出がありました。
 しかしながら、この物質の性状を確認したところ、力をかければメスで切ることができるくらいの硬さであることから、石やガラスのような無機物ではないと推測されました。そこで、顕微鏡観察を実施した結果、軟骨細胞が認められました(図2)。FT-IR分析も実施し、タンパク質が主成分であることも確認され(図3)、「軟骨である」と結論付けられました。さらに、肉種鑑別を行うため、PCR法による遺伝子解析を実施した結果、「牛である」と判定されました。
 以上のことから、この物質は、ハンバーグの原料である牛肉の軟骨に由来する可能性が考えられ、プラスチックや石ではないことが証明されました。

図1:外観写真 図2:顕微鏡写真

図3:IRスペクトル

 

2.魚フライの内部から伸びている物質

異物は、調理済みの魚フライから発見された物質でした(図4)。魚フライの内部から伸びている白色のやわらかい物質で、プラスチックではないかというお申し出がありました。
 しかしながら、FT-IR分析を実施したところ、タンパク質と脂質が主成分であるという結果が得られ(図5)、プラスチックではなく、原料由来の物質の可能性が高いと考えられました。また、この物質を観察したところ、一部がフライの魚の皮とつながっていることが確認され、魚の皮の一部である可能性が推定されました。今回の事例は、フライからはみ出した魚の皮の一部が、「プラスチック」と誤認されたために発生したものであると考えられました。

図4:外観写真 図5:IRスペクトル

 

3.昆布に付着している白色の物質

昆布の表面全体に白色の物質が付着しており、カビではないか、というお申し出がありました(図6)。
 しかしながら、この物質を顕微鏡観察したところ、カビに特徴的な菌糸や胞子は認められず、結晶様物質が認められたことから(図7)、カビではないと判断されました。さらに、FT-IR分析を実施した結果、マンニトールの標準データとスペクトルの形状がほぼ一致し、マンニトールが主成分であることを確認できました(図8)。マンニトールは、糖アルコールの一種であり、旨み成分として海藻に多く含まれ、海藻の表面に析出することが知られています。今回の事例は、昆布に析出したマンニトールの結晶が「カビ」に見えたために発生したものであると推定されました。
図6:外観写真

図7:顕微鏡写真


図8:IRスペクトル

以上3点の事例のように、検査をすることで、クレーム発生時に疑われた物質ではなく、実は、原料や食材そのものに由来する物質であることが証明される場合があります。今回挙げた事例のほかにも、ワインに析出する酒石酸カルシウムやタケノコ・チーズに析出するチロシンがカビや細菌、肉の腸管や植物の皮がプラスチックなどと誤認されることで発生するクレームもあります。クレーム品が原料や食材そのものに由来するものと証明されれば、お申し出をされたお客様の安心や納得につながることも期待されます。クレーム発生時には、見かけ上予想される物質であると本当にいえるのか否かを、検査結果や過去事例を参考に客観的に精査することも求められます。
 異物検査の豆知識は今回で最終回となりました。長らくご愛読いただき、誠にありがとうございました。異物検査のご理解への一助になれば、幸いです。異物クレームでお困りの際は、いつでもお問い合わせいただければと存じます。

バックナンバーを見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

 
Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.