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動物用医薬品の規制と検査方法
SUNATEC 第二理化学検査室
八津川洋一

はじめに

動物用医薬品とは、動物用医薬品等取締規則(平成十六年十二月二十四日農林水産省令第百七号)によると「専ら動物のために使用されることが目的とされている医薬品をいう」と定義されています。動物用医薬品の製造、販売や使用などについては薬事法により規制されていますが、食品中の残留については2006年5月29日に施行された、食品衛生法に基づくポジティブリスト制度により、農薬、飼料添加物と共に規制されています。ここでは、食品中の残留動物用医薬品について、規制や検査方法を中心に可能な限り分かりやすく説明致します。

 

動物用医薬品とは

動物用医薬品とは、図-1に示すものをいい、動物用医薬品には抗生物質や合成抗菌剤の他に寄生虫駆除剤とホルモン剤も含まれます。

図-1 動物用医薬品 

抗生物質とは微生物によってつくられ、他の微生物の増殖を抑制する物質を指します。一部、天然由来のものを人工的に修飾した物質も含まれます。抗生物質の大部分は抗菌作用を示しますが、なかには抗癌作用や抗ウイルス作用を示すものもあります。一方、合成抗菌剤は抗生物質と同じ働きをするものを化学合成して作り出した物質です。動物用医薬品としての抗生物質や合成抗菌剤は、家畜の病気の予防や治療を目的としていますが、発育促進や飼料効率の改善などの目的で飼料安全法に基づき飼料添加物としても製造、使用されます。いずれの場合も、最終製品中に残留しないように使用量や休薬期間が定められています。
 (例)アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、β-ラクタム系、マクロライド系、クロラムフェニコール、サルファ剤系、ニトロフラン系、キノロン系、マラカイトグリーン

寄生虫駆除剤は、線虫、条虫、コクシジウムやトキソプラズマなどの寄生虫による家畜の病気の予防や治療のために使用されます。寄生部位により体表面に寄生するものを外部寄生虫、体内に寄生するものを内部寄生虫と区別されます。
 (例)イベルメクチン、エプリノメクチン、プラジクアンテル、フルベンダゾール、レバミゾール

ホルモンとは、体内の特定の器官で合成、分泌されて体内を循環し、諸器官の働きを調節する生理活性物質です。ホルモン剤はその生理活性を利用して繁殖障害などの病気の治療を目的として使用されていますが、成長促進や肉質改善などの目的でも使用されます。ホルモン剤は人や家畜などの体内に自然に存在する天然型と化学的に合成された合成型とに大別されます。
 (例)エストラジオール、プロゲステロン、酢酸トレンボロン、ジエチルスチルベストロール

 

なお、農林水産省 動物医薬品検査所のホームページにある「動物用医薬品等データベース」(http://www.nval.go.jp/asp/asp_dbDR_idx.asp)では動物用医薬品の商品名、主成分や対象動物などから検索が可能です。是非ご活用ください。

 

規制

上述のとおり、食品中に残留する動物用医薬品はポジティブリスト制度により規制されています。ポジティブリスト制度とは残留基準が設定されていない農薬等が一定量(一律基準:0.01 ppm)を超えて残留する食品の流通を原則禁止する制度です。
 残留基準が設定されていない抗生物質及び合成抗菌剤については、食品、添加物等の規格基準において「食品は、抗生物質又は化学的合成品たる抗菌性物質(合成抗菌剤)を含有してはならない」とされており、上述の一律基準の対象にはならないため、注意が必要です。ポジティブリストに挙げられている抗生物質及び合成抗菌剤は120項目程度(2012年10月現在)あります。ただし、これら検査項目の中には試験法が通知されていないものが少なからず存在し、どこまでのレベル(定量下限)をもって「含有してはならない」とするか明確ではありません。そのため、同じ検査項目でも各検査機関で定量下限が異なる場合があります。抗生物質及び合成抗菌剤の一覧は以下のホームページにまとめられています。

「ポジティブリストに掲載されている抗生物質・合成抗菌剤一覧」 公益財団法人 日本食品化学研究振興財団(http://www.ffcr.or.jp/zaidan/FFCRHOME.nsf/pages/MRLs-antibiotics

また、下記表に挙げたものは、その発癌性などにより閾値が設定できないため、「食品に含有されるものであってはならない」とされており、不検出項目と呼ばれています。これらについては、告示試験法が存在し、検出限界も示されています。全18項目(2012年10月現在)のうち、動物用医薬品が12項目(太字)を占めており、また検出限界が農薬と比較してかなり低いことが分かります。

不検出とされる農薬等一覧表 
名称 検出限界(ppm) 備考
2,4,5-T 0.05 ミネラルウォーターにあっては0.001ppm
カプタホール 0.01 ミネラルウォーターにあっては0.001ppm
カルバドックス
(キノキサリン-2-カルボン酸を含む)
0.001  
クマホス 0.01 ミネラルウォーターにあっては0.001ppm
クロラムフェニコール 0.0005 ローヤルゼリーにあっては、0.005ppm
クロルプロマジン 0.0001  
ジエチルスチルペストロール 0.0005  
シヘキサチン及びアゾシクロチン 0.02 ミネラルウォーターにあっては0.001ppm
ジメトリダゾール 0.0002  
ダミノジッド 0.1 ミネラルウォーターにあっては0.002ppm
ニトロフラゾン 0.001  
ニトロフラントイン 0.001  
フラゾリドン 0.001  
フラルタドン 0.001  
プロファム 0.01 ミネラルウォーターにあっては0.001ppm
マラカイトグリーン 0.002  
メトロニダゾール 0.0001  
ロニダゾール 0.0002  

 

検査方法

動物用医薬品の検査の流れは農薬などと同様で、試料調製から測定までの検査フローの概要は、以下のようになります。

農薬検査と大きく異なるのは、検査対象となる試料が畜水産食品またはそれに由来する食品が主となる点です。また、動物用医薬品は農薬に比べ、高分子量、低揮発性、高極性などの特徴を持つものが多く、検査を行う際にはこれらの違いを踏まえ、適切な方法を選択する必要があります。
 動物用医薬品の検査の抽出液には、アセトニトリルやメタノールなど比較的極性の高い有機溶媒や有機溶媒と水溶液との混合液がよく用いられます。試料が筋肉や臓器などの動物組織の場合は、破砕が必要なため、ホモジナイザーによる抽出が必須となります。また、精製工程では測定の妨害となる成分を除去するために、逆相系やイオン交換系のカラムがよく利用されます。ヘキサンなど低極性有機溶媒による脂肪成分の除去もよく用いられる手法です。
 現在、測定は液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)が主流となっていますが、抗生物質についてはモニタリング検査や一部項目において、バイオアッセイによる測定*が行われています。ちなみに、農薬検査で頻繁に使用されるガスクロマトグラフは動物用医薬品の測定にはほとんど用いられません。これは、上述した動物用医薬品の高分子量、低揮発性、高極性などの特徴がガスクロマトグラフによる測定に適さないことが主な要因であると考えられます。

* 抗生物質のバイオアッセイ
 LC-MS/MSをはじめとする機器分析技術が発達してきたことや、バイオアッセイに必要な設備や菌株の維持管理に手間がかかることなどから、最近では抗生物質のバイオアッセイはあまり行われなくなっています。しかしながら、機器分析と比較して試料マトリクスの影響を受けにくく、高感度な項目もあり、場合によっては非常に有用な測定手段です。
 抗生物質のバイオアッセイに用いられる手法は寒天平板法、比濁法、希釈法やバイオオートグラフ法などいくつか種類があります。いずれの場合も原理は共通で、抗生物質が細菌の成長を抑制することを利用します。ここでは最もよく用いられる手法である寒天平板法について説明致します。

寒天平板の調製 ・・・ 測定したい抗生物質に感受性のある菌を、オートクレーブ滅菌した培地に接
 ↓            種後、シャーレに分注し、固化させる
 ↓
 試験液の分注 ・・・ ペーパーディスク法、穿孔平板法、円筒平板法
 ↓
 ↓
 拡散・培養 ・・・ 抗生物質を寒天平板中に拡散させる時間を設け(通常は室温で30分)、菌の生
 ↓         育に適した温度・時間で培養する(通常は30〜37℃で16〜20時間)
 ↓
 測定 ・・・ ノギスで阻止円直径を測定し、計算する

 

試験菌を接種した寒天培地に抗生物質を含む試験液を接触させ、培養すると、抗生物質が寒天培地中を拡散し、阻止円と呼ばれる菌の生育しない円領域が観察されます。この阻止円直径の二乗と抗生物質濃度が比例関係になることを利用し、検量線から抗生物質濃度を算出します。なお、寒天培地に抗生物質を含む試験液を接触させる方法は、ペーパーディスク法(直径10mmの円形ろ紙に試験液75μL程度を染み込ませ、乾燥後、寒天平板上に置く)、穿孔平板法(寒天平板に穿孔を施し、試験液を100μL程度注入する)、円筒平板法(寒天平板に円筒を置き、試験液を250μL程度注入する)があります。寒天平板法は日本薬局方などの抗生物質の力価試験に用いられている手法でもあります。

おわりに

以上、食品中の残留動物用医薬品について説明してきました。検査の際などに少しでも参考としていただければ幸いです。

 

文献

・動物用医薬品検査所ホームページ
http://www.maff.go.jp/nval/
・残留農薬等ポジティブリスト制度について 公益財団法人 日本食品化学研究振興財団
http://www.ffcr.or.jp/zaidan/FFCRHOME.nsf/pages/MRLs-n
・抗生物質大要 化学と生物活性[第4版] 田中信男、中村昭四郎 東京大学出版会

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