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「異物検査の豆知識」第5回目:異物検査事例(3) 金属片
 SUNATEC コンサルティング室 野村早絵子
 今回は、食品に混入した金属片を検査した事例を3つ紹介いたします。

1. カットフルーツに混入した金属異物

異物は、カットフルーツに混入していた金属片でした(図1)。EDX分析を実施した結果、Fe(鉄):87%, Cr(クロム):13%という元素組成を示す物質であることが確認されました(図2)。
 このような元素組成を示す金属片としては、SUS403、405、410、416、420といったマルテンサイト系またはフェライト系ステンレスが例として挙げられ、そのなかでも最も使用頻度が高いSUS410は、特に刃物に使用されることが知られています。その後の調査で、製造現場で使用されているナイフがSUS410であることが確認され、異物の混入源の候補として妥当である可能性が示唆されました。このナイフが混入源であるならば、ナイフの整備不良や取り扱い不備によるナイフの欠片の混入が異物発生の要因であると考えられるため、ナイフのメンテナンスや取り扱い方法の管理が求められます。

図1:外観写真 図2:光学顕微鏡写真
図1:外観写真 図2:EDXチャート

 

2. パスタに混入した金属異物

異物は、パスタに混入していた金属片でした(図3)。EDX分析を実施した結果、異物からはFe(鉄)とSn(スズ)が検出されました(図4)。また、Fe(鉄)とSn(スズ)の組成比は表面と裏面でばらつきがあり、表面はFe(鉄):90%、Sn(スズ):10%であるのに対し、裏面はFe(鉄):95%、Sn(スズ):5%であることが確認されました。

表面と裏面でFe(鉄)とSn(スズ)の組成比が異なることから、スズはメッキに由来するものであり、鉄にスズがメッキされた金属片であると考えられました。このような金属片は、ブリキと呼ばれ、缶詰や缶飲料の缶、金属製のバケツなどに使用されています。製造工程にブリキ製のものがあるかどうか調べたところ、原料が入った缶詰のみ該当しました。製造工程で混入したとすれば、この缶詰の切りくずが異物の混入源であると推定されました。

図4:外観写真
図3:外観写真

図4:EDXチャート(異物表面)

 

3. 和菓子に混入した金属異物

異物は、和菓子に混入していた金属片でした(図5)。EDX分析を実施した結果、異物はFe(鉄):65%、Zn(亜鉛):35%という元素組成を示すことが確認されました(図6)。また、金属表面には無色透明の粘性のある樹脂状物質の存在が認められ(図7)、この物質についてFT-IR分析を実施しました。その結果、アクリロニトリルとブタジエンに由来するピークがそれぞれ検出され、ニトリルゴム(アクリロニトリル-ブタジエン共重合体)接着剤であると判定されました(図8)。以上の結果より、この異物は、Fe(鉄)及びZn(亜鉛)を主体として構成される金属片にニトリルゴム接着剤が付着したものであると考えられました。
 さらに、異物混入発生時の状況証拠から、異物がステープラの針である可能性が推定されたことから、ステープラの針を同様に分析し、その類似点を検証しました。その結果、ステープラの針も、異物と同様に、Fe(鉄)とZn(亜鉛)を主体として構成される金属片であることが確認されました。さらに、ステープラの針と針を接着させる物質が、ニトリルゴム接着剤であることが判明し、異物に付着していた樹脂状物質と同様の物質であることが確かめられました。このように、ステープラの針と異物の類似点が複数認められました。
 危害防止の観点から、ステープラの針を食品の製造現場に持ち込むことは厳禁とされており、ステープラの使用の禁止はもちろん、書類や包装材を製造現場に持ち込む際は、ステープラで止められたものでないことを確実にチェックすることが求められています。再発防止策としては、ステープラ以外に紙ステープラを使用することや、ステープラを用いた書類や包材の持ち込みを禁止する取り決めを取引先と結ぶことなどが挙げられます。

図6:外観写真 図7:顕微鏡写真
図5:外観写真 図6:EDXチャート

図8:FT-IRスペクトル 図8:FT-IRスペクトル

図7:拡大写真

図8:樹脂状物質のFT-IRスペクトル

 次回も引き続き、異物検査事例を紹介いたします。
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