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「異物検査の豆知識」第4回目:異物検査事例(2) 食品の変色
SUNATEC コンサルティング室 野村早絵子
 通常の異物検査ではプラスチック片や金属片、こげなどを対象にしますが、食品の変色原因の特定も異物検査を応用すれば可能になることがあります。今回は、食品の変色を調査した事例を3つ紹介いたします。

1. 大判焼きの緑色変色

大判焼きの一部に緑色の変色部分が確認できました(図1)。カビによるものであることが疑われましたが、光学顕微鏡で観察したところ、カビに特徴的な形状は認められませんでした(図2)。また、光を透過しない微小片が認められたことから、金属微小片のような物質の混入が疑われました。そのため、変色していない部分と変色部分の金属元素組成を比較する必要があると考え、両者についてEDX分析を実施しました。その結果、S(イオウ)、Cl(塩素)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)といった食品に一般的に存在する元素は両者に共通して検出されましたが、Cu(銅)に由来する強いピークは変色部分のみ認められました。このように、変色部分に特異的にCu(銅)が含まれることから、緑色の変色はCu(銅)の混入による緑青(銅が酸化することで生成される青緑色のサビ)の生成に起因すると考えられました。

 銅の混入原因としては、銅鍋や銅板などの銅製の調理器具の整備不良などが考えられます。この大判焼きは、銅板の上で焼かれる商品であることから、銅板の劣化による銅の混入が変色の要因であると推定されました。

図1:外観写真 図2:光学顕微鏡写真
図1:外観写真 図2:光学顕微鏡写真

図3:EDXチャート(左:変色部分、右:変色していない部分) 図3:EDXチャート(左:変色部分、右:変色していない部分)
 図3:EDXチャート(左:変色部分、右:変色していない部分)

2. 生肉の緑色変色

枝肉の一部が緑色に変色していました(図4)。変色部分を光学顕微鏡で観察したところ、グラム陽性桿菌の細菌を確認することができました(図5)。一方で、変色していない部分には細菌の存在は認められなかったことから、細菌の繁殖によって変色した可能性が示唆されました。さらに、変色部分から単離、培養して得られた細菌をDNAシーケンサーで分析したところ、細菌はCarnobacterium maltaromaticumであると判明しました。 
 そこで、細菌の繁殖によって変色した可能性が考えられたため、牛脂を購入して再現性試験を実施しました。その結果、Carnobacterium maltaromaticumを接種した部分が緑色に変色することが確認することができたことから、この細菌が緑色変色の原因であることが明らかになりました。
  なお、食肉や食肉製品を緑色に変色させる細菌として代表的なものに、Lactobacillus属やLeuconostoc属のような乳酸菌が挙げられ、これらの細菌は、過酸化水素を発生させ食肉を緑色に変色させることが知られています。細菌汚染の要因としては、汚染度の高い原材料による汚染、工場内による作業者の取り扱い不備、使用器具からの汚染などが挙げられます。 今回の事例で同定されたCarnobacterium maltaromaticumは、Lactobacillus属やLeuconostoc属と同様に乳酸菌の一種であり、食肉や食肉製品の変色、ネト産生、腐敗臭の原因になる細菌です。
図4:外観写真 図5:光学顕微鏡写真
図4:外観写真 図5:光学顕微鏡写真

3. うどんの黒色変色

調理前のチルドうどんの一部に黒色部分が認められました(図6)。変色部分を光学顕微鏡で観察したところ、うどんに由来するデンプン粒のほかに、黒色の油様物質が認められました(図7)。うどんの原料に油は使用されていないため、この油様物質が変色に関連する可能性が考えられました。そこで、うどんに酢酸エチルを数滴たらし、うどんから油を抽出し、抽出液をFT-IRで分析しました(図8)。その結果、C-H結合に由来するピークが検出され、鉱物油のスペクトルとほぼ一致し、変色部分に認められた油様物質は鉱物油であると推定されました。

 鉱物油は、石油を起源とし、機械の潤滑油などに使用される油で、食品に含まれる油(いわゆるトリグリセリド)とは異なるものです。うどんの変色は、製造工程における機械油の付着が原因である可能性が考えられました。 

図6:外観写真 図7:顕微鏡写真
図6:外観写真 図7:顕微鏡写真

図8:FT-IRスペクトル

図8:FT-IRスペクトル


 以上のように、異物検査手法の応用によって、変色原因を推定することができます。しかしながら、食品の変色原因は多岐にわたり、上記の事例のほかにも、ポリフェノール類の酸化や金属との結合によるもの、アミノカルボニル反応によるものなどさまざまなものがあります。変色原因によって検査手法も異なりますし、検査による原因特定が難しい場合もあります。食品の変色の調査をする際は、原材料や状況から変色原因を推定し、どのような検査をすべきなのか、検査によってどこまでわかるのかを慎重に見極める必要があります。

 次回も引き続き、異物検査事例を紹介いたします。
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