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       「コープふくしまの陰膳調査からみえたこと」
食の安全・安心セミナー講演
(平成24年5月18日,於:三重県生涯学習センター)
「コープふくしまの陰膳調査からみえたこと」
福島大学・コープふくしま
佐藤 理

1 はじめに

2011年3月15日の福島第一原子力発電所事故により大量の放射性物質が放出され福島県は広く放射性物質に汚染されました。以降県民は放射線による内部被ばく、外部被ばくに曝され今日に至っています。外部被ばくについては事故後の比較的早い時期から線量計によるモニタリングにより積算被ばく線量が見積もられ、避難による過剰な被ばくの回避や除染による放射線の低減化が取り組まれてきました。一方内部被ばくについてはホールボディカウンターによる測定も含め、評価方法の技術的問題や住民の検査ニーズに検査体制が追いつかないことにより、被ばくの実態が掴みきれない状況にありました。このようななかで、日々の食事を準備する家庭の主婦、特に子どもを持つ親を中心に、購入する食品中に含まれる放射性物質と食事をとおして摂取することによる内部被ばくへの関心と不安が高まりました。福島県の北部に位置するD市が2011年12月に市民を対象(回答者2,700人)に行った意識調査で、「市で実施している放射能対策で特に行って欲しいものは何ですか」の問いに対し(複数回答)、下の参考図のとおり「内部被ばく調査」46.1%、「食品の放射能検査」47.3%と内部被ばくへの対応に関する要望が多いという結果でした。



ちなみに「外部被ばく調査」は14.7%でした。コープふくしまの組合員からも放射能汚染による食品の安全性について不安や心配の声が寄せられるようになりました。そこで組合員の協力を得て「現存被ばく状況」のもとで冷静な食行動をとるための判断材料を提供することを目的とし、家庭で実際に摂られている食事を提供してもらう陰膳方式により食事試料を集め、食事をとおして摂取される放射性物質の量を測定し結果を広く公表することとしました。

2 調査方法

(1)調査協力家庭
  2011年11月14日から2012年3月23日までの期間、放射能に関する学習会など組合員活動の際に食事調査への協力者を募りました。結果として表・図1に示すとおり福島県の5地区、11市3町に居住する組合員100家庭が調査に参加しました。中通りに位置する県北地域の42家庭と県中地域38家庭で合計80家庭となり,全体の8割を占めました。このことは,この地域が相対的に放射線量が高く,放射性物質に対する関心や不安が強く,影響を実際に確認したいという意識が調査への協力・参加というかたちで表れたものと思われます。

表・図1 地区別調査協力家庭数

地区

市町名

協力家庭数

県北

福島市

28

42

伊達市

9

国見町

1

二本松市

3

本宮市

1

県中

郡山市

33

38

須賀川市

3

田村市

1

石川町

1

県南

白河市

4

5

矢吹町

1

双相

相馬市

2

5

いわき市

3

会津

会津若松市

10

10

 

合 計

100

 




(2)放射性物質測定試料の収集
  陰膳方式(各家庭の人数より一人分多く食事を作り,それを試料として提供してもらう)でおこない,各家庭の2日分の食事(6食分と間食)をポリ袋に詰め、宅配便で検査センターに送ってもらいました。あわせて各家庭から朝食、昼食、夕食、間食の種別、食事メニュー、分量、食材および産地を記入した献立調査票と放射性物質に関する意識調査も回収しました。

(3)測定
 返送された各家庭の2日分の食事は,日本生協連、東海コープ事業連合、コープこうべ、コープ九州事業連合の検査センターで、6食分をミキサーにかけ攪拌した後1s取り出しマリネリ容器に詰めゲルマニウム半導体検出器により放射性物質を測定しました。1試料につき50,000秒かけ、検出限界1Bq/kgを確保するようにしました。セシウム134、セシウム137、ヨウ素131、カリウム40について測定しました。

3.調査および測定結果

(1)摂取している食材と福島県産の割合
 献立表に記入された食材とその産地についてみると,主食の米は66家庭が福島産を使用していました。水は水道が37家庭で、ミネラルウオーターを合わせて使っている家庭と合わせると51家庭でした。
 2日間の食事量、野菜、果物、肉・魚、大豆製品、乳製品の総品目数と、その中の福島産の品目数について、最小個数、最大個数、平均値を表2に示しました。2日間の食事量の平均は3.7sでした。最大値は8.8sで,国民栄養調査によれば1日摂取量の平均は約2kgですからこれは特別に多い量だといえます。
 アンケートで放射性物質に対する関心と,食材選択に際して産地を意識する程度を尋ねました。この両方について程度が高い関心と意識を持つ63家庭を「放射能への意識が強い群」とし、食材の総個数に占める福島産品の割合を比較しました(表3)。結果は「放射能への意識が強い群」は26.7%で,その他の群は29.6%でした。放射能への意識が強い群の方が福島県産の選択割合が若干低いですが,とりたてて福島県産を避けているという傾向はみられませんでした。

  以上から調査協力家庭は水,主食の米,その他の食材について福島県産のものもまんべんなく食べているということがうかがえます。
表 2 食事量、食材の数及び福島県産の割合

 

最小値

最大値

平均値

2日間の食事量(s)

1.3

8.8

3.7

食材の総品目数(個)

6

40

21.6

福島産の品目数(個)

0

21

7.0

総品目数に占める福島産(%)

0.0

91.7

32.5



表 3 放射能への意識と福島産食材割合比較

放射能への意識

 家庭数

?平均値

意識強い群

63

26.7

その他

9

29.6

合計

72

27.1


(2)放射性物質測定結果
 結果は図2です。100家庭の結果を50家庭ずつ上下二段に示しました。この紙面では小さくて詳細が分からないと思います。ぜひコープ福島のホームページ(http://www.fukushima.coop/)にアクセスしご覧下さい。半減期の短いヨウ素131は全ての家庭の食事から検出されませんでした。セシウム134、セシウム137のいずれかで1ベクレル以上検出されたのは100家庭中10家庭だけでした。両物質の最大摂取量はセシウム134が5.0ベクレル/s、セシウム137が6.7ベクレル/sでした。どの家庭の食事から検出されたのは緑の棒で示したカリウム40でした。最小が15ベクレル/s、最大が58ベクレル/s、平均が32.7ベクレル/sでした。食事由来の放射性物質として大きな割合をしめているという結果でした。このカリウム40はあまりなじみがないと思います。下の説明図をご覧下さい。





図 2


(3)摂取された放射性物質による内部被ばく線量の推計
 各家庭の食事から検出されたセシウム134とセシウム137、カリウム40の量(Bq/kg )、一日の食事量、各核種の預託実効線量係数(ICRP、Publ.72,1996)を用い、この食事を1年間食べ続けたと仮定して預託実効線量をもとめました。なお測定値が検出限界以下だった家庭については、当該試料測定時の検出下限値を測定値として線量を計算しました。図3に、原発由来の放射性物質が検出された10家庭の値と1Bq以下であった90家庭の平均値を示しました。原発由来の放射性物質が最も多かった家庭の食事(セシウム134が5.0ベクレル/s、セシウム137が6.7ベクレル/s)による年間被ばく線量は0.136mSv/年と見積もられました。
 この調査結果は原発事故後年間被ばく線量を5mSv/年以下に設定し定められた暫定基準値下で流通していた食品からの放射性物質の量及び年間被ばく線量の推計値です。図3のとおりこの時点でも、図の中で赤の横線で示した現行の食品からの年間被ばく線量基準1mSv/年を大きく下回っていることがわかります。調査結果は流通している福島産品を食べても放射線による健康影響を全く心配しないでもよいことを示しています。


図3

 

おわりに

地震,大津波そして原発事故にみまわれた福島復興のみちのりは先がみえません。放射性物質とどう向き合えばよいのかも未知の部分が多く,混乱と不安を生み出しています。困難な道のりを歩んでいる県民をいっそう苦しめる事態が起こっています。確かな根拠にもとづかないで「福島県産品は放射能で汚れ危ない」という類の風評です。暫定規制そして新たな基準のもとで検査体制が組まれ福島県産品は出荷管理がされ,市場に流通しているものは十分安全が確保されているにもかかわらずです。
 風評というかたちで福島県産品が拒否されることは,農業生産者はもとより県民にとって「福島が忌避されている」という否定的な感情を引き起こし,復興への意欲を削ぎ大きなダメージです。

  コープふくしまの取り組み,陰膳方式による食事調査結果が広く理解され風評払拭の一助になればと願ってやみません。

筆者のプロフィール

1.生年月日:1946年10月28日 福島県二本松市生まれ 65歳
2.現職名:福島大学特任教授
3.経 歴:1976年3月東京大学大学院教育学研究科
1976年4月北海道教育大学釧路校勤務
1986年4月より福島大学に配置換え
1993年10月〜2001年9月 福島市教育委員(2期8年)
2005年4月より福島大学大学院学校臨床心理専攻へ配置換え
2010年6月よりコープふくしま理事
2012年3月福島大学退職
2012年4月より福島大学特任教授
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