一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >「異物検査の豆知識」
「異物検査の豆知識」
SUNATEC コンサルティング室 野村早絵子
第3回目:異物検査事例(1) 黒色異物の特定
 図1〜3は、パンの表面に発見された異物(以下、異物(1)〜(3))の外観写真をそれぞれ示します。
 見た目からどのような物質と推定できますか?パンの表面に発見された点と黒色である点は共通していますが、すべて同じ物質でしょうか、それとも、まったく別の物質でしょうか?
 それぞれの異物を検査した事例について、以下紹介します。
図1:異物(1) 図2:異物(2) 図3:異物(3)

 

1.異物(1)

メスで簡単に切れるくらい、比較的やわらかい物質でした。光学顕微鏡で観察したところ、デンプン粒や油様物質のような物質が観察できました(図4)。FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて主成分を分析した結果、脂質、タンパク質、デンプンに由来するピークがそれぞれ認められました(図5)。以上の結果より、異物(1)は、脂質、タンパク質、デンプンといった食品に多く含まれる成分から成るものであると考えられ、色調や成分などを考慮すると、食品(パン)のコゲである可能性が示唆されました。
 パン製造時に生じたコゲが製品に混入し、「異物」と認識されたものであると推定されます。
図4:異物(1)の光学顕微鏡写真
 
図5:異物(1)のFT-IRスペクトル

2.異物(2)

メスでは力を入れないと切れないくらい、比較的硬質な物質でした。図6は、光学顕微鏡写真を示します。デンプン粒のようなものは認められず、明らかに異物(1)とは異なる物質であると推定できました。また、顕微鏡観察にて光を透過しない物質が確認できたことから、金属や一部の鉱物などの無機物やゴム、炭などである可能性が示唆されました。さらに、磁性を有することから、金属であると考えられました。そこで、EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)を用いて元素組成を分析したところ、Fe(鉄):ほぼ100%という結果が得られました(図7)。このように、異物(2)は、鉄を主体とする金属の欠片であり、金属光沢が失われていることから、鉄サビであると特定されました。
 混入源の候補として、たとえば、鉄製の配管や水道管、鉄クギ、作業台の鉄枠などが挙げられます。また、食品製造機械や調理器具として最も広く使用されている金属としては、SUS304などのステンレスがあります。しかしながら、ステンレス由来のサビであれば、Fe(鉄)のほかにCr(クロム)やNi(ニッケル)が検出される場合がほとんどであるため、ステンレスが混入源である可能性は低いと考えられます。
図6:異物(2)の光学顕微鏡写真 図7:異物(2)のEDXチャート

3.異物(3)

メスで簡単に切ることができる、比較的やわらかい物質でした。また、異物(1)及び(2)と異なり、弾力性を有しており、ゴムやポリウレタンなどであると推定できました。FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)による分析を実施したところ、C-H結合に由来するピークが認められ、エチレン-プロピレンジエンゴム(EPDM)に代表されるような炭化水素系のゴムであると確認できました(図8)。
 エチレン-プロピレンジエンゴム(EPDM)は、パッキン、スチームホースやコンベアベルトなどに使用されることから、このようなゴム製品が混入源であると推定されます。

図8:異物(3)のFT-IRスペクトル

このように、異物(1)〜(3)は、パンの表面に発見された黒色異物である点は共通するものの、それぞれが全く別の物質であることが確認されました。異物クレームが発生した際、過去の発生事例と照らし合わせることは重要になりますが、「色調が同じだから前回と同じ異物だろう」と外観観察だけで安易に予想するのは危険性をはらんでいます。今回の事例のように、発見場所や色調が一致していても、まったく別の物質である場合があります。客観的に得られたデータから異物を特定し、混入原因を突き止める上での適切なヒントを得ることがクレーム対策の重要な第一歩になります。

次回以降も、異物検査事例について紹介します。

他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.