一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >異物検査の豆知識 第1回 異物の定義、異物検査の重要性とは?
異物検査の豆知識 第1回 異物の定義、異物検査の重要性とは?

はじめに

近年、食の安全に関する消費者への意識の高まりや調理済み食品の普及などにより、消費者からの異物クレーム件数が増加する傾向にあります。異物クレームが発生した場合、製造者は、消費者へ適切に説明するだけでなく、再発防止策を速やかに講じ、製品の安全性を確保する必要があります。再発防止策の構築には、まず、異物の同定及び混入原因の特定が必要不可欠です。
 弊財団では、顕微鏡や各種分析機器などを用いて客観的に得られたデータから、異物が何であるかという情報をご提供する「異物検査」を実施しております。この豆知識コーナーでは、今後6回にわたり、異物検査の概要、実際の検査事例についてご紹介いたします。まず、第1回目の本稿では、異物の定義や規制、検査の重要性について説明いたします。

1.異物の定義と分類

厚生労働省監修の食品衛生検査指針第9章にて、「異物は、生産、貯蔵、流通の過程で不都合な環境や取扱い方に伴って、食品中に侵入または混入したあらゆる有形外来物をいう。但し、高倍率の顕微鏡を用いなければ、その存在が確認できない程度の微細なものは対象としない。」と定義されています。また、以下のように異物は3つに分類されています。

 (i)動物性異物:虫、虫片、体毛、羽毛、哺乳動物や鳥類の排泄物、卵など。
 (ii)植物性異物:植物片、木片、紙片、カビなど。
 (iii)鉱物性異物:鉱物・岩石片、貝殻片、ガラス片、金属片、合成ゴム、合成繊維など。

 一方で、実際に検査したクレーム品のなかには、ワインに析出した酒石酸、海藻に付着したアミノ酸など原料そのものに由来する物質や食品の変色部分などもあり、必ずしも上記の定義に当てはまらないものも「異物」と認識される傾向にあります。

2.異物の規制

食品への異物の混入は、法律により規制されています。
 食品衛生法第6条4号にて、「不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがある食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む、以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。」と述べられています。
 また、1995年に施行されたPL法(製造者責任法)も食品の異物混入規制に密接に関連しています。PL法では、製造物の欠陥により、人の生命、身体又は財産に損害を被ったことを証明した場合に、被害者は製造会社などに対して損害賠償を求めることができると定められています。対象となる製造物とは、「製造又は加工された動産」と定義されており、食品も対象となります。たとえば、金属片やガラスなど鋭利な異物やカビなどの微生物の混入が消費者の健康を脅かした場合、その責任を製造者などに求めることができます。実際に、異物混入による被害が訴訟につながったケースも報告されています。

3.異物検査の重要性

異物混入は、商品の価値を低下させるだけでなく、人の健康を損なう原因となり得る異物であった場合、上記で説明したように食品衛生法やPL法違反となり法的な処罰を受ける可能性があります。さらに、企業のイメージダウンや商品の回収問題による賠償金負担により、企業活動の継続に甚大な悪影響を及ぼすことも想定されます。したがって、食品・食物を製造・加工・流通・販売・サービス等を行う企業は、各工程において常に異物混入防止に目を光らせておく必要があります。しかしながら、万が一、異物混入が発生した場合は、異物が何であるかを最優先で確認した上で、混入原因の推定及び再発防止策の構築を速やかに行わなければなりません。
 異物を正確に特定するためには、顕微鏡観察や機器分析などによって得られたデータから客観的に「異物が何であるか」を判定することが非常に重要になります。
 たとえば、写真は、「髪の毛が混入していた」と消費者から販売店に届けられたクレーム品です。確かに外見上は髪の毛のようですが、実際に検査したところ、「ナイロン製合成繊維」であることが確認されました。髪の毛であるか、ナイロン製合成繊維であるかによって、推定される混入原因やその後の対策は大きく異なります。異物が「髪の毛」であると誤って判断してしまうことで、実際の混入原因とは全く無関係の対策をとってしまうことになります。実際、この事例の場合、検査結果をもとに混入原因を検討したところ、製造工程で使用されているホウキの穂先の繊維が混入源である可能性が高いことが判明し、その後の対策を適切に且つ迅速に講じることができました。
 このように、外見だけで異物が何であるかを判断するのは、間違った答えを導きやすく、的外れな再発防止策を講じる危険性も含んでいます。異物クレームが発生した際は、適切な対応の第一歩を踏み出すために、まずは、異物の特定を専門検査機関に委託することを強くお勧めいたします。

写真



次回以降は、異物検査の流れと各種事例について説明いたします。
参考文献
・厚生労働省 監修, 社団法人 日本食品衛生協会 発行, 食品衛生検査指針 理化学編(2005)
・国民生活センターHP http://www.kokusen.go.jp/pl_l/index.html
他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.