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食品のオフフレーバー問題
東京家政大学家政学部栄養学科教授
佐藤吉朗
近年、我が国では食品安全基本法が制定され、内閣府食品安全委員会の設置、さらに消費者庁の設立などの社会状況により、消費者の食品の安全に対する関心は高まる一方である。その関心の中身をみると、ここ一年間は放射能汚染に関してであった。放射性セシウムが○○食品から1kg当たり△△ベクレル検出されたという情動に不安を感じ、ベクレル、シーベルトという、一般消費者にとって聞きなれない言葉が氾濫した。震災以前では消費者の関心は、無添加・無農薬食品といった点に集中しているのが現状であった。しかし、食品添加物・残留農薬によって食中毒を起こしている例を見つけることは難しい。安心という面に目を向けると、消費者と食品製造業者は異なっており、食品製造業者にとって大きな位置を占めるのは、品質それも異臭(オフフレーバー)による問題である。健康に直接影響はなくとも、消費者がオフフレーバーから感じる食品へのイメージは大きく、消費者への対応如何によっては、商品への大きなダメージとなる場合がある。このオフフレーバーについて製造から流通・販売において正しい共通の認識を持つことは非常に重要であると考える。
 オフフレーバーはごく微量で効果を示すこともあり、究明には長い経験と多額の投資を必要とする。個人での追求には限界があり、多くの知識を集結して追求することが肝要である。
 まず、オフフレーバーとは具体的にどのような臭いを指していうのかを考えてみたい。「その食品にもともと存在していない臭気成分の付加や、食品が有している一部の臭気成分の増加や減少、ないしは臭気成分全体のバランスの変化により感じられる『におい』であり、食品についての各人の経験や期待に基づく各人の『潜在的な基準』から、臭質や濃度が逸脱していると判断された場合に顕在化する『におい』」のように定義できるのではないか。
 このようなオフフレーバーを以下のように発生要因及び分析法について考えてみる。
 大きく2つの要因に分けることができる。
(1)食品自体から発生する場合
 @食品の原料素材に起因するもの
 A食品成分の酵素的変換によるもの
 B食品成分の化学的変換によるもの
(2)環境からの移香(移り香)する場合
まず、(1)-@の場合から考えてみる。食品の原料として最も重要なものに水が挙げられるが、この水が放線菌や藍藻が産生する異臭物質、即ち2-メチルイソボルネオール(2-MB): 図-1やジオスミン:図-2によって汚染され、土臭やカビ臭、墨汁臭といった臭いが感じられることがある。原因は、貯水池あるいは貯水槽、給水塔に原因菌や藻類が繁殖することによって産生されるわけであるが、最近普及しつつある給水器の特にパッキング部分にこういった菌が繁殖することにより汚染物質が産生される例も散見される。もうひとつの例として、穀物のカビによるカビ臭汚染が挙げられる。これはPenicilliumやAspergillusなどのカビが産生する異臭物質で1-オクテン-3-オール:図-3や3-オクタノン:図-4である。
 (1)-Aの場合において、飲料の製造について考えてみる。様々な飲料に含まれる微量のリノール酸などの不飽和脂肪酸が原料中に含まれるリポキシゲナーゼなどの酸化酵素の影響を受け、中間体のヒドロペルオキシドを経由して(E)-2-ノネナール:図-5を生成し、脂肪臭を発生する場合などがある。他の発酵食品においては硫化水素やジアセチル:図-6といった化合物が発酵中に産生されることはよく知られている。
 続いて加工食品に微生物が汚染することによって発生する異臭の例を紹介する。加工食品に薬品臭がしたという例であるが、これは加工食品に含まれる香料成分のバニリン:図-7が汚染菌である好熱性好酸菌Alicyclobacillusなどにより異臭物質であるグアイヤコールに変換され、発生したものと推察される。
 次に(1)-Bの場合であるが、食品製造工程の加熱工程中において過加熱によりロースト様、火打石様の臭気成分が発生する場合である。原因物資としては2-フルフリルチオール:図-8、ベンゼンメタンチオール:図-9などが同定されている。また、牛乳やビールなどの飲料が日光などの光に長く曝されると異臭物質が産生される。牛乳中のメチオニンが3-メチルプロパナール:図-10に、ビール中の苦味成分イソフムロンが3-メチル-2-ブテン-1-チオール:図-11に変換されて異臭を発する。
 次に、(2)の場合であるが、しばしば食品が薬品臭がするという消費者からの申し出がある。最近では記憶に新しいものとして、カップ麺への防虫剤パラジクロロベンゼン図-12の移香の問題があった。他にも、ナフタレン図-13(同様の防虫剤)も検出された。
 また、包材の印刷に使用されている溶剤の乾燥不良等によりm-クレゾールやフェノキシエタノールが検出された例もある。しかし、移香としてこれまで最大の問題はトリクロロアニソールによる汚染と言ってよいだろう。鶏舎をはじめとした木材を使用する構造物に防黴剤としてトリクロロフェノールが使用されてきた。同様に、食品をはじめとした多くの輸送物資のフォークリフト等による移動の際に使用される木製パレットにもトリクロロフェノールが使用された。この木材にTrichoderma、Fusariumuといったカビが繁殖し、このトリクロロフェノールを代謝して、最強の異臭物質である2,4,6-トリクロロアニソールを生成した(図-14)。木製パレット上で生成されたトリクロロアニソールは、食品原料、包材、加工食品などのあらゆる物資を汚染した。その閾値は水中で1pptといった極低濃度で感じられる臭気のため食品業界では大きな打撃を受けた。従って、現在使用されているパレットはほとんどがプラスチック製である。
 ここまで、オフフレーバーの発生要因について述べてきたが、まだまだ他にも多くの要因が考えられるが、ここではここまでにとどめる。また、こういった要因を追求していくには、食品を良く理解し、官能評価と組み合わせることが重要である。官能評価できないものを追求してゆくことは不可能に近い。要因は、食品の内なのか外なのかを的確に判断する。食品中の成分バランスに偏りが生じたために臭気と感じる場合もあるので、それを念頭に置くことも必要である。これらを踏まえ、機器分析によって原因物質を特定してゆく。
 我々は、こういったオフフレーバー問題を食品に携わる人間の共通認識とし、共に考えてゆく場を作ることを考え、オフフレーバー研究会を立ち上げた。さらに、昨年7月22日にオフフレーバー研究会主催の第1回勉強会を東京家政大学において開催した。食品企業を中心に、図-15のような方々に参加頂いた。参加者の方々の現在のオフフレーバーに対する関心事は、以下のような点であった。(1)原因の特定:物質、経路 (2)分析法 (3)移香 (4)カビ臭、穀物臭、加熱臭、貯蔵劣化臭、レトルト臭 (5)パネルの教育:官能評価 (6)濃度とにおい:閾値などである。
 実際に、参加された方々にとって参考になった事は、(1)消費者クレームの例 (2)製造工程における問題点 (3) 分析事例 (4) データベースの重要性 (5)官能評価の重要性 (6)閾値の考え方 (7)トリクロロアニソール関連(同定法、対策) (8)オフフレーバーへの取り組み などの点である。
私どもの設立いたしました「オフフレーバー研究会」は活動内容をホームページで紹介しております。オフフレーバーの発生要因の検討についても詳細がございます。ぜひ一度アクセスをしていただきたいと思います。アドレスはhttp://www.fofsg.jp/ です。



















オフフレーバー研究会第2回勉強会のご案内

オフフレーバー研究会第2回勉強会を開催いたします。ご興味のある方は是非ご参加下さい。

日時

平成24年7月20日(金) 午前10時30分より(受付10時00分より)

会場

東京家政大学板橋キャンパス 三木ホール    
  東京都板橋区加賀1−18−1 (JR埼京線十条駅下車徒歩5分)

定員

200名  

内容

(1)お金をかけない分析法   
    公益財団法人 サントリー生命科学財団 小村啓氏
  (2)異臭食品のサンプリングと注意点
    財団法人 兵庫県予防医学協会 伊藤光男氏
  (3)分析をする前に 〜感覚を利用した検査と注意点〜     
    エスビー食品株式会社 佐川岳人氏
  (4)醤油のオフフレーバーとその防止策     
    財団法人 日本醤油技術センター 中台忠信氏
  (5)オフフレーバー分子の特徴と最近気になるオフフレーバー事例     
    大和製罐株式会社 加藤寛之氏
  (6)パネルディスカッション
  (7)情報交換会 (学内カフェテリア ルーチェ)

参加費

勉強会 4000円
 情報交換会 4000円

申し込み先

http://www.fofsg.jp/

略歴

1979年3月東京大学農学部農芸化学科卒業
1981年3月東京大学大学院農学系研究科農芸化学専攻修士課程修了
1984年3月東京大学大学院農学系研究科農芸化学専攻博士課程修了
1984年3月農学博士学位取得
1984年4月明治乳業株式会社入社
2010年3月明治乳業株式会社退職
2010年4月東京家政大学短期大学部栄養科教授着任
2012年4月東京家政大学家政学部栄養学科教授(所属変更)
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