食品衛生法制定の目的はその第一条に規定されている。すなわち、「食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ること」とされている。その内容は、まさに、食品飲食に起因する衛生上の危害
注1)を防止するHACCPシステムの目的と一致する。というよりも、HACCPシステムは食品衛生法の目的達成の手段となるということである。このことは、HACCPシステムを構築する組織
注2)にとっては、その取り扱う食品の危害要因
注3)(食品安全ハザード)及びその管理手段
注4)を食品衛生法及びその関連規格基準から選び出していくとよいということである。
HACCPシステムの世界標準としてはCodex HACCPガイドライン注5)があり、HACCPシステムの認証を希望する組織に、その受審を可能にしたものにISO22000注6)がある。
これまでの連載で、食品関連法活用に関して種々のトピックスを提供してきたが、今回と最終回の2回は食品衛生法の規定の中から特に注目されるトピックスを選んで述べてみる。今回は、「食品衛生法第19条」の表示に焦点を当てていく。実は「食品衛生法第19条」に対しては、その表示の具体的内容を示した「食品衛生法施行規則第21条」があったが、その条項は、平成23年8月31日付けで「内閣府令(平成23年内閣府令第45号)」に移され、現在の食品衛生法施行規則にはその規定はない。連載の第1回(2011年10月)で述べたごとく、食品表示は変動期にあるのである。
ここでは、旧食品衛生法施行規則第21条である内閣府令第45号の内容のうち、特に、食品安全危害要因とその管理手段に関連するものをまとめてみた。次表に示す。この表の中での「表示が必要とされる対象食品」とは危害要因が含まれているおそれのある対象食品であり、「表示内容」に示されているものは、消費者に対する危害を防ぐために、組織が対応すべき管理手段である。組織は、その食品を摂取する消費者に対して、該当する食品には、組織が除去できない危害要因が含まれていることを、あるいはそのおそれがあることを、警告表示をもって示すのであり、その取り扱いを消費者にゆだねているのである。その警告表示を受けて危害を避けるための具体的な処置を取るのは、その表示を読む消費者である。
食品安全確保の仕組みである「HACCPシステム」には“From Farm to Table”という思想がある。これは、その食品を最終的に喫食する消費者(Table)を含めて、その原材料を供給する者(Farm)から、製造業者、販売者、関連サービスの提供者など食品流通段階に関与するすべての者が、それぞれの役割に応じて、応分の貢献をすることが求められているのであり、そのことによって、初めて、経済社会において、最終消費者が、安全で妥当なコストの食品を摂取できるのである。
表示は、対応する組織が、それを読み取る人に理解しやすく、誤解がないように、適切に実施することが求められ、一方、活用する消費者は、それを正しく読み取り活用することが求められている。
現在、食品表示の内容のあり方に関しては消費者庁が中心となって、検討を進めている。
平成23年内閣府令第45号(旧食品衛生法施行規則第21条)での食品安全に係る主な表示内容
(危害要因;生物:生物学的危害要因、化学:化学的危害要因、物理:物理的危害要因)
表示が必要とされる対象食品 |
危害要因 |
表示内容 |
特定原料(えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生)を含む加工食品(抗原性が認められないもの及び酒精飲料を除く) |
化学 |
これらの原料を含む旨 |
特定原料に由来する添加物を含む食品(抗原性が認められないものと香料を除く) |
化学 |
当該添加物を含む旨及び当該食品に含まれる添加物が当該特定原材料に由来する旨 |
保存方法及び使用方法の基準(法第十一条第一項)が定められた食品及び添加物 |
化学
生物 |
基準に合う方法 |
特定原料に由来する添加物 |
化学 |
「食品添加物」の文字及び当該特定原材料に由来する旨 |
タール色素の製剤 |
化学 |
製剤の文字を冠した実効の色名 |
表示量の規定(法第十一条第一項)がある添加物 |
化学 |
その重量% |
アスパルテーム又はこれを含む製剤若しくは食品 |
化学 |
L-フェにールアラニン化合物である旨又はこれを含む旨 |
ミネラルウォーター類(水のみを原料とする清涼飲料水をいう)のうち、容器包装内の二酸化炭素圧力が摂氏二十度で九十八kPa未満であつて、殺菌又は除菌(ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を除去することをいう)を行わないもの |
生物 |
殺菌又は除菌を行つていない旨 |
食肉であつて、刃を用いてその原形を保ったまま筋及び繊維を短く切断する処理(テンダライズ処理)、調味料に浸潤させる処理(タンブリング処理)、他の食肉の断片を結着させ成形する処理(結着処理)その他病原微生物による汚染が内部に拡大するおそれのある処理を行つたもの |
生物 |
そのような処理をした旨、及び飲食に供する際には十分に加熱する必要がある旨 |
非加熱食肉製品(食肉を塩漬けした後、くん煙し、又は乾燥させ、かつ、その中心部の温度を摂氏六十三度で三十分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法による加熱殺菌を行つていない食肉製品であつて、非加熱食肉製品として販売するものをいう。ただし、乾燥食肉製品を除く) |
生物 |
非加熱食肉製品である旨並びに水素イオン濃度(pH)及び水分活性(aw) |
特定加熱食肉製品(その中心部の温度を摂氏六十三度で三十分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法以外の方法による加熱殺菌を行つた食肉製品をいう。ただし、乾燥食肉製品及び非加熱食肉製品を除く) |
生物 |
特定加熱食肉製品である旨及び水分活性(aw) |
加熱食肉製品(乾燥食肉製品、非加熱食肉製品及び特定加熱食肉製品以外の食肉製品をいう) |
生物 |
加熱食肉製品である旨及び容器包装に入れた後加熱殺菌したものか、加熱殺菌した後容器包装に入れたものかの別 |
食肉製品、鯨肉製品、魚肉ソーセージ、魚肉ハム、特殊包装かまぼこのうち気密性のある容器包装に充填した後、中心温度を120℃4分又は同等以上の効力のある方法で殺菌したもの(缶詰、瓶詰めのものを除く) |
生物 |
その殺菌方法 |
魚肉ソーセージ、魚肉ハム、特殊包装かまぼこのうちその水素イオン濃度(pH)が4.6以下のものあるいは水分活性(aw)が0.94以下のもの(缶詰、瓶詰めのものを除く) |
生物 |
水素イオン濃度(pH)又は水分活性(aw) |
製造し、又は加工した食品を凍結させたもの |
生物 |
飲食に供する際に加熱を要するかどうかの別 |
加熱後摂取冷凍食品(製造し、又は加工した食品を凍結させたものであつて、飲食に供する際に加熱を要するとされているもの) |
生物 |
凍結直前に加熱されたものであるかどうかの別 |
切り身又はむき身にした鮮魚介類を凍結させたもの及び生かき |
生物 |
生食用であるかないかの別 |
切り身又はむき身にした鮮魚介類であつて生食用のもの(凍結させたものを除く) |
生物 |
生食用である旨 |
放射線照射食品 |
化学 |
放射線を照射した旨 |
容器包装詰加圧加熱殺菌食品(缶詰又は瓶詰めのものを除く) |
生物 |
食品を気密性のある容器包装に入れ、密封した後、加圧加熱殺菌した旨 |
鶏卵の殻付き卵(生食用のものに限る) |
生物 |
生食用である旨、10℃以下に保存することが望ましい旨及び賞味期限経過後は飲食に供する際に加熱殺菌を要する旨 |
鶏卵の殻付き卵(生食用のものを除く) |
生物 |
加熱加工用である旨及び飲食に供する際に加熱殺菌を要する旨 |
鶏の液卵(鶏の殻付き卵から卵殻を取り除いたもの)で殺菌したもの |
生物 |
その殺菌方法 |
鶏の液卵で、殺菌したもの以外のもの |
生物 |
未殺菌である旨及び飲用に供する際には加熱殺菌を要する旨 |
生かき(生食用のものに限る) |
生物 化学 |
採取された海域又は湖沼 |
ゆでがに |
生物 |
飲食に供する際に加熱を要するかどうかの別 |
即席めん類のうち、麺を油脂で処理したもの |
化学 |
油脂で処理した旨 |
作物である食品(大豆、とうもろこし、ばれいしよ、菜種、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤ)並びにその作物からなる加工食品で遺伝子組み換え作物を使用したもの |
化学 |
遺伝子組み換え作物である旨あるいは加工食品が遺伝子組み換え作物を使っている旨 |
作物やその加工食品原料が遺伝子組み換え作物と遺伝子組み換えされていない作物が分別されていないもの |
化学 |
遺伝子組み換え作物が分別されていないものである旨あるいは加工食品原料が遺伝子組み換え作物と分別されていないものを使っている旨 |
作物(大豆、とうもろこし、ばれいしよ、菜種、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤ)のうち分別非遺伝子組み換え作物を原料としたことが確認された加工食品 |
化学 |
その作物の名称 |