食品事業者にかかわる食品関連法活用へのトピックス
第5回 衛生規範と前提条件プログラム 湘南ISO情報センター
矢田 富雄 わが国には「衛生規範」がある。食品衛生法にもとづく安全で衛生的な食品を提供するためのものであるが、現在の言葉でいえば「前提条件プログラム」の一つである。「前提条件プログラム」とはわかり難い言葉である。prerequisite programmeの訳語であり、訳としては原語に忠実であるといえるが、直感的にはわりやすい訳語とはいえない。
そもそも、この原語はカナダが作り出した言葉である。1995年に自国のHACCPであるFSEP(Food Safty Enhancement Programs)を制定した際に、その前提として必要なものがあるとして導入した言葉である。HACCPを有効に活用するには、衛生管理を中心とした、その前提として支えるものがなければいけないとの考え方からである。それらをprerequisite programと呼んで導入した。大変適切な考え方であり、その思想は、瞬く間に、HACCPの世界に広まった。
日本においては、そのHACCPである総合衛生管理製造過程の導入の際に厚生省(現厚生労働省)がこのprerequisite programを「一般衛生管理プログラム」と称していた。しかしながら、ISO22000を導入した時に、日本規格協会の訳本では直訳的な「前提条件プログラム」を使用したのである。 このprerequisite programの“program”は米国系英語であり、英国系英語では “programme”である。本来はカナダが導入した言葉であるから“program”なのであり、国連WHO/FAOの下部団体で、食品に関連する規格基準を制定する機関であるCodex(Codex Alimenntarius Commission(CAC;FAO/WHO合同食品規格委員会))では“program”を使用しているが、ISO22000が使用しているのは“programme”である。
食品業界における衛生管理の規範という考え方は、1969年の米国における「Current Good Manufacturing Practice in Manufacturing, Processing, Packing or Holding Human Food, Code of Federal Regulation Part 110」公布に始まる。食品のGMPである。cGMPと“c”がつくことが多いが、“c”はCurrentの略であり、最新版という意味である。同国では良質な医薬品を確保する規範としてのGMPが法制化されており、これを食品に応用したものである。カナダのprerequisite programはこの食品GMPの考え方を受けたものである。 日本では食品の衛生管理を推進するため、昭和47年(1972年)に「管理運営基準準則(現;食品事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン))」を導入し、各都道府県等に具体的な条例を導入させ、次いで、「衛生規範」というより具体的なものを導入したのである。主題の「衛生規範」である。最初の規範は昭和54年6月29日(1979年)に通知された「弁当及びそうざいの衛生規範」である。その後、平成3年4月25日制定の「生めん類の衛生規範」まで、「漬物の衛生規範」(昭和56年9月24日)、「洋生菓子の衛生規範」(昭和58年3月31日)、「セントラルキッチン/カミサリー・システムの衛生規範」(昭和62年1月20日)の5規範が導入された。
なお、本衛生規範は食品衛生関連法改定に連動して、関連箇所の改定が通知されており、昨年(平成23年)には3月28日付けの通知で即席めん類の成分規格に規定する酸価及び過酸化物価の測定法が改定されたが、それに伴い「弁当及びそうざいの衛生規範」及び「洋生菓子の衛生規範」での酸価及び過酸化物価の測定方法が変更された。 2009年に、「ISO(国際標準化機構)」ではISO/TS22002-1;「食品安全のための前提条件プログラム−第一部;食品製造」を発行した。ISO22000「7.2」の「前提条件プログラム」をより具体的内容に規定したものである。そもそもISOがこのISO/TS22002-1を発行した狙いは世界の食品小売業界の団体にISO22000を採用してもらうためである。この団体は、ISO22000はその前提条件プログラムが具体的でないという理由でISO22000を適切な食品安全の規格としては認めていなかったのである。そこで、ISOでは、英国でISO22000と併用して活用していたPAS220を参考にしてISO/TS22002-1を制定した。これをもとにして、オランダの会社がISO22000とISO/TS22002-1とを合体させたFSSC22000注1)という規格を制定し、そのFSSC22000が世界の食品小売業界の団体に採用され、ISO22000も間接的にこの団体に採用されたという経緯がある。もっとも、このISO/TS22002-1はFSSC22000として活用するのみでなく、ISO22000のシステム導入の際にも大変役立つものである。
実は、このISO/TS22002-1はISO22000「7.2」の「前提条件プログラム」を具体的内容として規定したものであるとはいうものの、要求項目が具体化されているのみであり、いざ、企業が採用しようとなると、具体的な基準値がないことに戸惑うことになるのである。その際に大変役立つのが、実は、日本の各種「衛生規範」なのである。この規範は、特に、施設、設備に関する基準が大変具体的である。以下、その規範の要点を述べてみる。
この衛生規範発行の狙いは「弁当及びそうざいの衛生規範」の通知によれば下記のようにまとめられている。
これら規範を「大量調理施設衛生管理マニュアル」と比較すると、その食品の調理における製造工程管理の具体性は劣が、施設・設備及びその管理に関する規定はこの規範がより具体的で、はるかに優れた内容を備えているといえる。例えば、製造室の内壁と床面床との境界に丸みを持たせるとよいといわれているが、この規範では、その丸みを半径5cmがよいと具体的に示している。
この衛生規範の、特に、優れていると考えられ特徴的な記述内容の概要を以下に示す。 (1)施設・設備の構造
(2)施設設備の管理
下記のものに分けて、望ましい清掃頻度が明示されている。その有効性を見るための指標の一つとして、
落下菌の指標が明示されている。
これらは当然のことながら、対象となる製品やその製造量あるいはそのプロセスと密接に関連を持つものであるが、考え方の基礎となる数値として大変役立つものである。
上記の内容は主として「弁当及びそうざいの衛生規範」をもとに見てきたが、他に、「漬物の衛生規範」、「洋生菓子の衛生規範」、「セントラルキッチン/カミサリー・システムの衛生規範」及び「生めん類の衛生規範」があるわけで、該当する製品にとっては直接参考になる。また類似する製品はその内容を参考にすればよいわけで、施設・設備の導入や改造並びに管理の際には参考にするとよいものであり、ぜひとも紐解いて欲しい資料の一つである。
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