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食品事業者にかかわる食品関連法活用へのトピックス
第4回.食品添加物等の規格基準
湘南ISO情報センター
矢田 富雄
 この規格基準は、食品衛生法に係る厚生労働省の告示集である。そこには全般的なあるいは個別的な食品、添加物、器具及び容器包装、おもちゃ及び洗浄剤の成分規格及びその分析法が定められており、さらには、関連ある製造、加工、調理あるいは保存の基準が定められている。本規格基準に適合しない食品等は一部の例外注1)を除いて不良品とみなされて、販売等が禁止される。昭和34年12月28日に厚生省告示第370号として示されたことから、単に告示370号とも呼ばれている。この告示の前身は以下のものであるが、本告示が発行されたことにより廃止された。
・食品、添加物、器具及び容器包装の規格及び基準(昭和23年7月厚生省告示第54号)
・食品衛生試験法(昭和23年12月厚生省告示第106号)
この規格基準制定の根拠は食品衛生法にあり、食品、添加物等の規格基準に関しては食品衛生法第十一条一項(旧食品衛生法第七条第一項)の規定による。さらに、器具及び容器包装の規格基準に関しては食品衛生法第十八条一項(旧食品衛生法第十条一項の規定)の規定によっている。また、おもちゃの規格基準制定の根拠は食品衛生法第六十二条一項(旧食品衛生法第二十九条一項)によっており、洗浄剤の規格基準制定の根拠は食品衛生法第六十二条二項(旧食品衛生法第二十九条二項)の規定によっている。
本規格基準でも規制され、別法規でも規制されるものとしては以下のものがある。
・乳酸飲料、乳及び乳製品:本規格基準に加えて、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令により規制される。
・酒類(乳及び乳製品を除く、アルコール分が1度以上の飲料):本規格基準に加えて、酒税法及び国税庁所定分析法に従った成分測定が必要である。
この食品添加物等の規格基準には、食品における農薬等注2)の残留基準(いわゆるポジティブリスト)などの食品全般の規格基準、清涼飲料水、食鳥卵、食肉類、魚介類、穀類、生あん、豆腐、即席めん類、冷凍食品等の個別食品規格基準及び食品添加物の試験法、成分規格、使用、製造、保管等の基準が設定されている。直近では、生食用食肉の規格基準が追加されている。また、食品に使用可能な器具あるいは容器包装の材質基準等、こどもが接触することによりその健康を損なうおそれがあるおもちゃの規格、さらには、野菜や果物の洗浄に使用できる洗剤の規格が規定されている。
また、この規格基準の特徴的な内容を拾ってみると、食品全般の規格基準の中には下記のものも規格されている。
(1)抗生物質及び抗菌性物質の使用基準
(2)放射性物質の使用基準及び食品への放射性物質の照射の基準
(3)遺伝子組み換え製品の取り扱い及び遺伝子組み換え微生物利用の基準
(4)生乳や生山羊乳の殺菌の基準
(5)食品に添加し又は調理に使用できる乳の基準
(6)血液、血球や血漿使用の使用基準
(7)卵使用の基準
(8)BSE発生地域の牛からの食肉採取基準
一方、この規格基準には、食品に使用される“飲用適の水”の基準が規定されている。これは清涼飲料水の項に出ているのであるが、食品の原料として使用される水、あるいは食品と接触する可能性のある水は、食品衛生法では“飲用適の水”しか使えない。この“飲用適の水”は水道法の水質基準に適合している水か、清涼飲料水の項に示されている水質基準に適合したもののみである。清涼飲料水の項に出ている水の水質基準は、現水道法の第4条で規定される水質基準と比較すると、その項目数は少なく、その基準値は緩やかなものが見られる。水道法の水質基準が50項目(平成23年4月1日現在)であるのに対して清涼飲料水の項にでてくる水質基準は26項目と少ない。
ここで、この規格基準の有用な活用例を示す。本規格基準は食品安全システム構築に大変有用なのである。食品安全システムであるHACCPシステムでは、その構築に際して危害要因を分析し、その物質を除去し、あるいは許容される水準(許容水準注3))までに低減していく仕組であるが、まず、その許容水準が明確にならないと先に進めないのである。その水準が、この「食品添加物等の規格基準」に示されている成分規格なのである。一方、その危害要因を許容水準までに低減していく手段が必要であるが、これがこの規格基準に示されている製造基準等である。これら製造基準等には、危害要因を、どのようにして許容水準まで低減するかが明確にされており、これが、HCCCPでの管理手段注4)と許容限界注5)に相当する。
ここでは、この規格基準における「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」を例にしてその活用方法を解説する。
「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」の成分規格及び製造基準は下記のとおりである。
成分規格 当該容器包装詰加圧加熱食品中で発育しうる微生物が陰性である。
製造基準 pHが4.6を超えかつaw(水分活性)が0.94を超えるものの加熱は、中心部の温度が120℃で4分間か、これと同等以上の効力のある方法であること。
上記で想定している危害要因物質は耐熱芽胞菌であるボツリヌス菌である。ボツリヌス菌は、その毒素は世界最強であるといわれており、バイオテロなどにも使われる恐れがあり、大きな危害が想定される物質である。その毒素は芽胞が発芽する際に産生されるといわれている。しかしながら、pHが4.6以下あるいは、awが0.94以下では、その芽胞が発芽できず、毒素を産生することがないので殺菌の対象とする必要がない。このpHあるいはawはボツリヌス菌に対する管理手段であり、許容限界値はpH4.6あるいはaw0.94である。
一方、食品物性値がpH4.6を超えかつaw0.94を超える場合には、上記食品の安全性を確保するために、その食品の温度を120℃4分に相当する加熱が求められる。この条件ではボツリヌス菌は芽胞も含めて殺菌できるので、加熱は、芽胞を含めたボツリヌス菌に対する管理手段であり、120℃4分はその許容限界である。実は、この加熱条件では、すべての菌が殺菌できるわけではない。しかしながら、そのような条件で残存する菌は、一般的には、常温では生育できず、製品に悪影響を及ぼすことはないので、この熱量を基準としているのである。これ以上の熱量をかけると食品としての価値が失われ、商品とはならない。この加熱は、製品の中心での熱量を規定しているので、製品の周りの熱量はこれより相当高くなると推定され、実際は、実験をしながらその加熱条件を決めていかねばならない。しかしながら、食品に必要な成分規格が明示され、製造基準が明らかにされているということは、食品安全システムであるHACCPシステム構築に大変役立つものなのである。大いに活用していきたいものである。
注1)例外
食品衛生法第十三条第一項の承認のよる総合衛生管理製造過程を経た食品の製造又は加工については、第十一条第一項の基準に(適合しなくとも)適合した方法による食品の製造又は加工とみなすと規定されている。
注2) 農薬等
農薬取締法第1条の2第1項に規定する農薬,飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律第2条第3項の規定に基づく農林水産省令で定める用途に供することを目的として飼料に添加,混和,浸潤その他の方法によつて用いられる物又は薬事法第2条第1項に規定する医薬品であつて動物のために使用されることが目的とされているもの。
注3) 許容水準
この値以下の数値であれば人の健康に危害を与えることがない危害要因の安全基準値のこと。
注4) 管理手段
食品の製造、調理過程で危害要因を削減あるいは許容水準までに低減できる手法のこと。
注5) 許容限界
食品の製造、調理過程で危害要因を削減あるいは許容水準まで低減する際の管理手段の管理限界値のこと。
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