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食品衛生7Sの実践事例
大阪市立大学工学部 客員教授
食品安全ネットワーク 会長 米虫 節夫

食品衛生7S

食品衛生7Sは、食品工場において微生物レベルの清潔さを目的とする管理手法の一つで、「食品安全ネットワーク」の活動の中から生まれ、食品安全ネットワークがこれを提唱し普及させてきました。最近は、現場で活用できる実践的な衛生管理手法として、多くの食品企業で導入・推進されています。
食品衛生7Sは、工業分野の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)に「洗浄、殺菌」を加えたものですが、その目的は大きく異なります。工業分野の5Sの目的は「効率」であり、その清潔は肉眼で見た清潔です。ところが、食品衛生7Sでは、目的が「清潔」であり先に書いたように肉眼では見えない微生物レベルの清潔さを追求します。食品衛生7Sでは、5Sで行われる「ほうきで掃く、ウエスで拭く、掃除機で吸う」などの掃除とは異なり、微生物制御をするための洗浄や殺菌が重要な項目になります。
食品衛生7Sの構造は、図1のように示せます。

食品衛生7S導入の3ステップ

食品衛生7Sの導入は、次の3つのステップを踏むのが効率的です。

1)第1ステップ:目に見える汚れ対策

食品衛生7Sの第1ステップは、整理・整頓・清掃です。整理は、必要なものと不要なものとを区別し、不要なものを処分することです。その次が整頓ですが、必要なものを置く場所、置き方、置く量などを決めて識別することです。整理と整頓ができたら、マニュアルを定めて清掃をします。ゴミやホコリがないようにピカピカにすることです。
整理・整頓は、清掃の前提条件です。整理・整頓ができていなければ清掃をすることはできません。この清掃で、目に見える汚れを取り除くことができます。

2)第2ステップ:目に見えない微生物レベルの対策

食品衛生7Sの目的でもある目に見えない微生物レベルの清潔を達成させるステップです。日常的な清掃活動で、目に見えるゴミやホコリを除去することにより、それらに付着している微生物は除去することができますが、微生物汚染をゼロにすることはできません。そのため、微生物汚染対策としての洗浄・殺菌があります。
また、微生物の発育に必須である水分を除去することにより、微生物汚染度を増大させないようにするドライ化が大変大事です。さらに、微生物を外部から持込み、工場内での汚染を拡大させる微小生物の制御・ペストコントロールもこの段階で必要となります。
これらの活動は、実践しやすくかつ効果が大きくなるようなマニュアルの作成が必要です。マニュアルに従って、確実な作業を行い、その記録を文書として残しておくことが大事です。

3)第3ステップ:しつけと清潔

食品衛生7Sは、作り上げたシステム・仕組みを企業のトップが先頭に立ち、まさに率先垂範の雰囲気で頑張ることこそ必要です。企業のトップが、食品企業のミッションの一つが食品安全であることをよく認識し、その遂行のために企業活動の中でISO9001などで提唱されているPDCAサイクルを現場における改善活用に積極的に導入することが必要です。食品衛生7S活動も、PDCAサイクルを基本に企業のトップがこれを推進して、活動しなければなりません。食品衛生7Sでは、小さな失敗は恐れません。規則・ルールを作り、それを実践してもし問題があるのであれば、その問題点を明確にして、どんどん変更すればよいのです。その結果として、発展する企業になるのです。
このためには、企業トップの自覚とともに、従業員、パート、アルバイトなど企業関係者すべての協働が必要になり、PDCAサイクルは、そのような活動を行うためのうまい活動方式です。ここで問題となるのは、PDCAサイクルを回せる仕組みがどのようなものであるかです。結論から言えば、しつけがキチンと出来ており、従業員すべてが自分が何のために仕事をしているかを理解しているかどうかです。食品衛生7Sでいうしつけは、そのような状態を言います。言いかえると従業員のモチベーションがどれ程確立しているかです。自主的な食品衛生7S活動は、そのようなモチベーションに大きく依存しています。そのために必要なのは教育・訓練であり、それを食品衛生7Sでは「しつけ」と表現し、積極的に推進しています。納得の上での行動がなければ食品衛生7Sの成果は見られないでしょう。
これらの活動は、実践しやすくかつ効果が大きくなるようなマニュアルの作成が必要です。マニュアルに従って、確実な作業を行い、その記録を文書として残しておくことが大事です。

継続こそ大事

PDCAサイクルは、一回まわせばよいというものではありません。サイクルは、何回も回すことにより、どんどん効果が上がります。食品衛生7Sも同じです。トップの率先垂範の指揮の基に全従業員が協働して、現場の食品衛生に関連する改善を行うためにPDCAサイクルを回すことこそ意味があります。しつけによる教育訓練はそのために意味を持ちます。
食品工場の衛生管理は、清潔区域への入場時の手洗いから始まるとも云われていますが、製造設備に残存する食品残渣の洗浄はさらに重要です。しかし、いくら良い改善を行ってもそれらが維持できるシステムが構築されていなければ、その維持管理は困難です。システムを運用する主体がヒトであり、しつけによる納得と理解がなければ衛生管理は維持できません。食品衛生7Sは、そのような仕組み作りの手法といえます。
はじめに書きましたが、食品衛生7Sは微生物レベルの清潔を目的としますが、肉眼で見えない微生物を相手とする戦闘においては、それに関係するすべてのメンバーの意識向上と協働無しに達成出来ません。それを、組織的に推進するための一つのドライビングホースが食品衛生7Sであると確信しています。

人つくりとしつけ

企業の発展において最も必要なのは、ISO9001にいう経営資源の一つといわれる"ヒト"です。企業は、ヒトで成り立っています。
ティッシュペーパー大手の事件のように企業の経営者がカジノでの負債を、個人の職責と権威でもって関連企業に負担させるような仕組みでは、食の安全は保証できないでしょう。食品企業において食の安全を確保するためには、会長や社長をはじめ、経営幹部、中級管理職、パートやアルバイトなどすべての従業員の協働こそが大事です。
食品衛生7Sでは、このような仕組みを「しつけ」という語で表現しています。マニュアルやルールを理解し、納得した上でマニュアル通りの作業をする必要があります。率先して改善活動のPDCAサイクルを実践して貰うためには、従業員のモチベーションが必要になります。食品衛生7Sでは、欧米流の上位下達ではない、提案制度などの下意上達のモチベーションこそが必要なのです。現場が力を合わせて、ルールを作り実践する、この方式こそ日本的な管理の基礎です。食品衛生7Sは、そのような管理活動により微生物レベルの衛生管理を達成するとともに、人つくり・仕組み作りにも寄与する管理手法といえます。

実践事例と定石

食品安全ネットワークでは、2008年から年1回、食品衛生7S実践事例発表会を行っている。2011年の発表会で4回となり、この4回の発表食品企業は延べ27社にもなります。それらの発表記録は、「食品衛生7S活用事例集」(Vol.1〜4)として日科技連出版社から出ています。各社の取り組みは、微妙に異なるが、多くの企業に共通する点も大変多いです。各社とも、整理・整頓からはじめ、清掃・洗浄に進み、ドライ化とペストコントロールに注力しています。
食品衛生7SをはじめHACCP、ISO9001、ISO22000などに取り組もうとする時、既にそれらに取り組んでいる他社がどのように行っているかを知ることは、自社の取り組みを考える時に大変役に立ちます。なぜなら、食品衛生7S活動にも定石があるからです。その定石とは、・・・。「食品衛生7S活用事例集3」では、この定石について、金山民生氏が次のように説明されています:
「多くの食品企業が衛生管理活動として食品衛生7Sを活用するようになり、筆者もこれを支援させてもらう立場にありますが、なかには活動がうまく進まない組織を見かけます。その主たる原因として『整理・整頓から始めていない』が挙げられます。どうしても作業現場内のゴミや汚れは視覚的に気になるので『何とか掃除をしてきれいにしなければ・・・ という思いが先に立ち、いきなり『清掃・洗浄・殺菌』から着手してしまうというケースがこれにあたります。
設備の周りに保守用の工具が散乱していたり、過剰に原料をストックしていたりする現場で、果たして隅々までもれなく清掃ができるでしょうか。確実な『清掃』を行うためには『整理』で現場から不要なものをなくし、『整頓』で必要ないものを必要な量だけ配置する環境を作らなければなりません。整理・整頓を確実に行うことは、その後の清掃・洗浄・殺菌を行う前提条件なのです。
また、『整理・整頓』を決められたルールの下で、確実に実施する風土を構築しておかないと、微生物制御にかかわる『清掃・洗浄・殺菌』のルールや、果ては製造手順ですら守られない状況に陥りかねません。ルールをきちんと守るためには、『躾』ができていることが重要です。」

実践事例の効果

「食品衛生7S活用事例集」の各企業は, 食品衛生7Sの実践過程で、(1) 人づくり、(2)ムダの発見・改善、(3)クレームの減少などの効果が上がったと報告されています。
食品衛生7S実践効果について「食品衛生7S活用事例集4」の「事例のワンポイント解説」(角野久史執筆)では、各社の事例をまとめて、次のように述べています:
「食品衛生7Sの構築を導入する食品企業は、確実に増加しています。食品衛生7S構築は、
 ・食品工場のハードの改善などを必ずしもともなうことなく、少ないコストで改善ができる。
 ・取組中の活動を通じて従業員教育となり、ヒューマンエラーが限りなくゼロに近ずく。
 ・異物混入や表示ミスなどが激減して、取引先や消費者から安全な企業と認識される。
 ・結果として利益が出て、企業の継続につながる。
などの効果が出てくることが確認できることで広がっています。」
第5回食品衛生7S実践事例発表会は、2月14日(火)大阪市中央区北浜東のエル・おおさかで行われます。ご興味のある人は是非ご参加ください。

食品安全ネットワーク 第5回食品衛生7S実践事例発表会

日時

平成24年2月14日(火) 午前10時30分より(受付10時00分より)

場所

エル・おおさか (大阪府労働センター)
TEL:06-6942-0001  〒540-0031 大阪府大阪市中央区北浜東3-14

内容

第1部 基調講演会 「ATP測定を有効活用した食品製造業における洗浄の実践ポイント」
      岡山工業技術センター 研究開発部長 工学博士 福崎智司氏
第2部 食品衛生7S実践事例発表会
第3部 講評と表彰
第4部 情報交換会

定員

200名

会費

¥5、000。− (同一企業様の2名様からは、\3,000.-)

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