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米国食品安全強化法の概要
日本貿易振興機構(ジェトロ)シカゴ事務所
古城 大亮
2011年1月4日に成立した食品安全強化法(Food Safety Modernization Act)は、食品医薬品化粧品法など諸法律を改正し、連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)の権限を多岐にわたり強化するものである。輸入食品に関する規制強化も多数含まれているが、その中で最も注目すべき規定は第1に、輸入食品の製造などを行う施設において、責任者が食品への危害を評価し、リスクに応じた予防的管理措置を計画し、実行することを義務付ける規定。第2に、米国の輸入業者に対し、輸入食品が安全であることの検証を義務付ける規定である。今後、食品安全強化法に基づく各規定は、それぞれ法律に定められたスケジュールに従って施行され、詳細はFDAの規則で定められていくこととなる。
同法は、食肉、卵製品を所管する農務省(USDA)の権限や、同省とFDAの権限関係には変更を及ぼさない。以下、食品安全強化法の主要な規定内容を概観する。 ※食品安全強化法については、ジェトロがより詳細なレポートを公表しているので、こちらもご覧いただきたい。

(1) FDAへの食品関連施設の登録の更新制の導入(食品安全強化法第102条)

現在、米国内で消費される食品を製造、加工、包装、保管するすべての施設(以下「食品関連施設」)は、バイオテロ法の規定に基づいて、FDAに登録をしなければならない(注1)。今後は、偶数年度の10月1日から12月31日の間に登録を更新することが義務付けられる(初回は2012年)。
また、本法は、健康への甚大な脅威や、致命的な危険の合理的な可能性がある場合、施設の登録を一時停止する権限をFDAに付与する。仮に登録が一時停止されれば、輸入が不可能となるという点で、登録の意義に実質的な変更をもたらすこととなる。

(2) 登録施設に対してHACCP手法を取り入れた措置を義務付け(食品安全強化法第103条)

さらに、食品安全強化法は、バイオテロ法の規定に基づき登録した米国内・米国外の食品関連施設(以下「登録施設」)に対し、HACCP手法を取り入れ、食品への危害評価と予防的管理措置の計画の策定・実行を義務付けている。(本規定は、HACCP「認証」を取ることを義務付けているわけではなく、あくまでHACCP手法を取り入れた計画の策定と実行を義務付けていることに注意願いたい。)
この規定は、食品安全強化法で義務付けられる諸規定のうち、最もインパクトのある規定である。なお、本規定は、水産物HACCP(注2)、ジュースHACCP義務付けの対象となる登録施設には適用されない(低酸性缶詰食品については、微生物危害に関してのみ措置済みとしての扱い)。これらのプログラムは、既に類似の予防的管理措置が義務付けられているからである。また、本規定は、栄養補助食品の製造・加工・包装・保管施設については適用されない。さらに、FDAは、飼料の製造施設、さらなる加工を目的とした農産物(果実・野菜を除く)の貯蔵施設、既に包装された食品で周辺環境にさらされていないものについて、適用除外や義務の内容の変更を行うことができる。
まず、登録施設を管理する所有者・運営者・または代理人は、既知あるいは合理的に予見可能な危害(生物学的、化学的、物理的および放射線の危害、自然界の毒、殺虫剤、薬物残留、腐敗、寄生虫、アレルゲン、および未承認食品・色素添加物、自然発生ないし意図せずにもたらされる危害、そして意図的にもたらされる危害を含む)を確認し、評価しなければならない。
その上で、各登録施設は、確認された危害が最小限に抑えられ、予防されること、そして食品が意図的に汚染され、不正表示されないことを保証するための予防管理措置(重要管理点があれば、そこにおける予防管理を含む)を確認・実施することが、義務付けられる。
予防管理措置とは、危害を最小限に止めたり、防止するためのリスクに基づいた妥当な適正手続・慣行・手順を意味し、衛生手続、訓練、環境監視プログラム、アレルゲン管理プログラム、リコール計画、現行の適正製造規範(cGMP)、供給業者を検証する活動を含む
登録施設はこの義務を順守するために、当該施設によって使用される手続を説明した計画書および関連文書を作成しなければならない。また、登録施設は3年ごとに再分析しなければならず、新たな危害が発生し、もしくは以前に確認された危害を増大させるような施設における活動の変更がある場合、その時点で再分析をすることが義務付けられる。
今後、FDAがこの規制を実施するための最低限の基準を2012年7月4日までに策定することとなる。規則を待たなければ、具体的に義務付けられる内容は明らかにならないが、法律上、当該規則においては、予防管理措置を確認・実施・証明・監査するためにコンサルタント、あるいはそのほかの第三者を雇用することを、施設に義務付けてはならないこととされている。
今後、対米輸出を行う日本国内の食品関連施設については、少なくとも、上記のようなHACCP手法を取り入れた措置を実施しなければ、輸出ができなくなることが確実で HACCP手法の導入をしていない食品関連施設は、厚生労働省、業界団体、地方自治体または民間から、HACCP手法導入について指導を仰ぐ実際上の必要性が発生すると考えられる。 ただし、現時点ではFDAの規則における最低基準の内容が明らかになっていないことに加え、意図的な食品汚染の防止対策も新たに義務付けられるため、既存のHACCPの認証を受けていることをもって、FDAの基準を自動的に満たすことにはならない点は注意が必要である。
一方で、既存の食品衛生に関する認証団体では、対米輸出を行う食品関連施設のニーズに応えるため、FDAの基準を満たすHACCP手法の導入の指導およびその認証サービスの提供が、今後求められることとなるだろう。

(3) 米国の食品輸入者に輸入食品の安全検証を義務づけ(食品安全強化法第301条)

米国へ輸出を行う食品関連施設に対するHACCP手法の導入義務付けに次いで、米国への輸出に最もインパクトがあると考えられる規定は、外国供給業者検証プログラム(Foreign Supplier Verification Program)の導入である。
本プログラムは、輸入業者(輸入時における米国内の食品の所有者、代理人)に対して、次の事項についてリスクに応じた外国供給業者の検証を行うことを義務付ける。輸入食品が(a)HACCP手法を取り入れた措置を導入した上で製造されたか、(b)不良(adulterated)ではないか、(c)不当表示(misbranded)ではないか。
食品安全強化法において例示される検証活動としては、出荷情報のモニタリング、ロットごとの法令順守の証明、毎年の実地検査、外国供給業者のHACCP手法を取り入れた措置の計画のチェック、出荷の定期的な試験・サンプリングなどがあるが、現時点ではFDAの規則が制定されておらず、義務付けの内容は明らかでない。
FDAは、2012年1月4日より規則を施行する予定であり、2013年1月4日より各輸入業者は、外国供給業者の検証活動を実施することが義務付けられる。水産物HACCP、ジュースHACCPプログラムの対象食品は適用除外となる(低酸性缶詰食品については、微生物危害に関してのみ措置済みとしての取り扱い)。

(4) 食品の輸入迅速化の任意プログラムも導入予定(食品安全強化法第302条)

食品安全強化法は、任意のプログラムに参加した輸入業者による、輸入食品の迅速な手続きを行う任意適格輸入業者プログラム(Voluntary Qualified Importer Program)を導入する。このプログラムの参加は、FDAに認証を受けた第三者監査人の証明を受けた食品関連施設からの輸入に限定される。本プログラムは、2012年7月4日から施行され、本プログラムの参加にあたっては手数料を徴収される。
現時点では、本プログラムへの参加手続き、参加のメリット、手数料負担の額など、詳細は明らかではない。

(5) FDAに輸入食品に対する証明書要求権限を付与(食品安全強化法第303条)

食品安全強化法は、FDAが必要と認めるときは、食品の輸入に際し、政府または認証を受けた第三者監査人の証明書を要求する権限を、FDAに与える。本規定は、2011年1月4日より既に施行されている。証明書を要求するかどうかは、FDAが食品のリスクや、生産地のリスクなどを考慮して決定することになるが、今後対象となる食品としては、現在インポート・アラート(輸入警告)が出されているようなリスクの高い食品が考えられる。

(6) 高リスク食品のトレーサビリティーの強化(食品安全強化法第204条)

2013年1月4日より、FDAは、パイロット・プロジェクトの結果などを踏まえ、高リスク食品に対するトレーサビリティー強化のため、2年間の記録保存の義務付けを実施する。記録保持義務の対象となる高リスク食品が具体的に何であるかは、FDAが食品に関する既知のリスクなどを勘案して、2012年1月4日までに定めることとなっている。

(7) 第三者監査制度の立上げ(食品安全強化法第307条)

食品安全強化法は、上記の輸入時の証明や、任意適格輸入業者プログラムに参加するために必要な証明を行う第三者監査制度を創設する。第三者監査人は、外国政府、外国の協同組合、個人などの第三者がなることができる。第三者監査人の認定は、FDAが承認する認定機関が行う。
FDAは、これらの者の認定のための基準を2012年7月4日までに作成する。対米輸出を促進する観点から、食品衛生に関する認証団体は、第三者監査人の認定を受けることを検討することが望ましい。

(8) FDAによる試験検査機関の認定制度の立上げ(食品安全強化法第202条)

2013年7月4日より、食品の試験検査は、FDAの認定試験検査機関により行われなければならなくなる。すなわち、この規定が施行されれば、インポート・アラート(輸入警告)によりFDAに試験結果を出さなければならない場合は、認定試験検査機関の試験結果でなければならなくなる。認定は5年ごとに更新が必要で、試験検査機関の認定を行うプログラムは、2013年1月4日までにFDAが立ち上げる予定である。
対米輸出を促進する観点から、食品の試験検査機関は、試験検査機関の認定を受けることを検討することが望ましい。

(9) FDAによる外国施設の検査強化(食品安全強化法第201条、第306条)

食品安全強化法は、FDAが初年度600件の外国施設を検査し、その後、2015年まで毎年倍増し、年間9,600件へ増加させることとしている。米国連邦議会において財政削減の動きが強まっており、法律で定めた件数を実施するための予算が確保できるかは不透明であるが、FDAは、日本を含めた外国施設への検査強化を図っていくことを目指している。
また、食品安全強化法により、FDAによる検査を拒否した外国施設からの輸入は禁止されることとなる。FDAによる施設の再検査には手数料が徴収される点にも注意が必要である。

(10)FDAによる手数料の徴収

食品安全強化法は、FDAに、施設や輸入食品の再検査、リコール・任意適格輸入業者プログラムに係る手数料を徴収する権限を与えている。この規定に基づき、FDAは、2012会計年度(2011年10月1日〜)の手数料規則を公布し、再検査・リコールについて1時間あたり224ドル、外国出張が伴う場合は335ドルの手数料を徴収することとした。ただし、FDAは、2012年1月1日までの分は請求しないと表明している。
注2 食品医薬品化粧品法においては、FDAが所管する食品のうち、水産物、果汁はFDAのHACCP規制を順守して製造することが義務付けられている。現在、対米輸出を行う日本国内の水産物の製造・加工施設については、厚生労働省もしくは(社)大日本水産会のHACCP「認証」、または輸入業者がHACCP計画を策定の上実行し、輸入業者がHACCP計画を確認することなどのFDAの定めるいずれかの措置が必要となっている。
著者

古城 大亮(こじょう だいすけ)
日本貿易振興機構(ジェトロ)シカゴ事務所

略歴

農林水産省環境バイオマス政策課専門官(国産バイオ燃料振興担当)
同省協同組織課総括課長補佐を経て、2010年8月より現職。
ニューヨーク州弁護士。

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