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バイバイ!フードチェーンの悪用!

北海道大学大学院水産科学研究院
一色賢司
「サバイ・サバイ」は、「ゆったり、気持ち良く」という意味だそうである。洪水に苦しむタイ王国から、食品安全セミナーでの講演を依頼された。バンコクの街には土のうが積まれていたが雨季が終わったせいか、皆さん明るかった。写真は、暁の寺への渡船場であり、あふれそうになった痕跡が見られた。

<写真:チャオプラヤ川の渡船場>
我が国の食料調達はタイの方々にもお世話になっている。我が国のフードチェーンにつながって、支えていただいている。我が国の地震・津波・原発事故からの復旧も支えていただいている。
食品の原材料の生産から、流通、加工、販売、消費の各現場での「良い仕事」のバトンタッチが必要である。フードチェーンの全容が透明化され国民から容易に見えるようになることが必要であり、国際的な理解と信頼を得る事にもつながる。国民が自ら見て、聞いて、触って、考えることのできるリスクコミュニケーションも必要である。安全な食品の安定供給・調達には、フードチェーンの各段階と、それをつなぐプロセス管理が大事である。原材料の一次生産から最終消費までを視野に入れたリスク管理の実現に向け資源、特に人材を育成し、ヤル気も維持していくことが大事である。各担当者が一隅を照らし続け、フードチェーン全体が明るく透明になるべきである。
消費者にも、一隅を照らし続ける人たちの苦労・努力を理解することが求められる。農業や漁業が種々の不安定要因を抱えていることを知るためにも、生産・加工現場等を見ていただくことが必要である。フードチェーンを見せずに悪用することで、不透明になり、見えにくくなっている場合もある。納入業者には情報開示を求め、自らは開示しない悪用者は排除されるべきである。
食品の安全性確保は、科学的かつ客観的に評価することができる。安心は個々人の心の中の問題であり、個人に任せるべきものである。フードチェーンで為すべきことは、「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」に科学的な安全性確保に取り組み続けることである。プロとしての自覚と誇りを持って、フードチェーンへの貢献を続けることである。明治時代に、理解できない不思議の国とされていた日本への国際的理解を促すため新渡戸稲造は、「Bushido: The Soul of Japan」を英語で書いた。その中で、「義、勇、仁、礼、誠、克己」等を日本人の特質と明示した。これらの良いところを胸に、我が国のフードチェーンの透明化に努めていただきたい。
我が国は国際的な食料需給の中で食べ続けなければならず、国際的に理解され得る行動や言葉で示す事が必要である。国際的な注目を集める中、目先の利益のために食べられる物まで食べられない物として優良誤認させる行為は国の恥である。ガンジーの「道徳なき商業」に対する戒めにも通じる。我々は、命をいただいて食べている。食品衛生は、食生活の安全性確保を達成する手段である。食料の一次生産から消費までの全ての過程における連続した衛生管理(フードチェーンアプローチ)が重要である。現代の食料調達は高度に分業化され、全容を理解することは困難であり、「道徳なき商業」も紛れ込み易い。
フードチェーンは地球全体に伸びている。持続的に安全性の高い食料を調達するためには、科学的なリスク分析とともに農場や漁場から食卓までを汚さない取り組みが必要である。言い換えれば、現場で実行できる科学的な取り組みが必要であり、リスク分析とフードチェーンアプローチは切り離すことはできない。平常時におけるリスク分析とフードチェーンアプローチが、緊急時にも役に立ち、現場の混乱を最少化できる。フードチェーンアプローチを無視したリスク分析は、机上の空論としての無理や無駄をもたらす。リスク分析のないフードチェーンアプローチは、科学性や持続性のない食料調達となる。国民全員の理解と実践が大切であり、嘘や偽り等はあってはならない。リスク分析とフードチェーンアプローチは、消費者を含む食品関係者全てが、安全で価値のある食品を持続的に供給し、調達する責任を分かち合う取り組みである。我が国の食文化、特に生食文化を他国や国際機関に説明する時にも必要である。
微量感染を起こす腸管出血性大腸菌問題や冷蔵庫でも増殖するリステリア食中毒菌問題、さらには見えない放射性物質問題等々、多くの悩みを食料供給や調達は抱えている。リスク分析とフードチェーンアプローチを忘れると、未然防止どころか再発をくり返すことになる。知恵を出し合って、「サバイ・サバイ」と言いながら、明るく仕事に取り組みたいものである。「ヤバイ・ヤバイかも知れない」を利用して、食べられるものまで食べられなくしたり、金儲けのためにハザードとリスクを混同させたりすることは慎むべきである。「道徳なき商業」は恥ずべき行為である。日本語訳でも構わないので、「武士道Bushido: The Soul of Japan」を、一度読んでいただきたいと思っている。
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