財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >第1回 法令規制要求事項の遵守及び活用の考え方

第1回 法令規制要求事項の遵守及び活用の考え方

湘南ISO情報センター
矢田 富雄
法令規制要求事項の利用者は大きく二者に分かれる。法そのものに直接かかわる主体者である法執行者及び法受益者(法遵守をする者)並びに法関連事項を情報として活用するユーザーである。ユーザーは、直接、法執行や法遵守には係らないが、自らの業務の正しさの裏づけ資料として法令規制要求事項に示される基準値などを活用する者である。例えば、食品安全の仕組みを作る際に、法令規制要求事項の認める基準値から、食品安全の水準となる値を知る者である。
 この連載は食品関連法のトピックスを提供することで、法関連事項のユーザーあるいは法受益者の業務になんらかの役に立てればと考えて記述を進めていきたいと考えている。
 今回は第一回目であり、法遵守と法活用の考え方を述べてみたい。
食品衛生法第24条の規定によれば、各都道府県等では厚生労働大臣及び内閣総理大臣の定めた指針に基づき、毎年、食品衛生監視指導計画を立案し、実施しなければならないことになっている。その東京都の食品衛生監視の結果がインターネットに公表されている(東京都食品衛生監視結果)。まず、平成19年度から平成22年度までの都内製造業者及び輸入業者の取り扱う製品での違反件数に関して、その内容を引用し、そのデータを加工して示すと下表のようになる。表示違反がダントツの首位を占めている。以下()内の数値は全体に対する該当項目の比率である。
  平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度
総違反件数 448件 459件 497件 557件
表示違反件数 229件(51%) 225件(49%) 195件(39%) 311件(56%)
第2位項目 農薬等 64件(14%) 細菌 66件(14%) 添加物 84件(17%) 細菌 59件(11%)
一方、表示に的を絞った食品製造業者、食品流通業者及び食品販売業者等の監視結果を、同じく、東京都の食品衛生監視資料から引用し、そのデータを加工すると下記のとおりであり、高い違反数が示されている。ただ、改善の傾向は見られるのは東京都の関係各位の努力の賜物であろう。
年度 食品衛生法 JAS法
  抜き取り数 違反数 比率 抜き取り数 違反数 比率
H19年度 645,839 件 2,652 件 0.4% 140,378 件 1,245 件 0.9%
H20年度 643,433 件 2,146 件 0.3% 147,734 件 1,317 件 0.9%
H21年度 722,636 件 1,615 件 0.2% 279,799 件 991 件 0.4%
H22年度 694,534 件 929 件 0.1% 271,800 件 768 件 0.3%
これは何を意味するかというと、表示は大変重要なものであるが、その決めごとがいかに難解かということであると考えられる。
 食品表示の主要な法律は食品衛生法、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)があり、さらには健康増進法、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)、計量法などがある。現在は、消費者庁が設置され、表示に関しては食品衛生法、JAS法、健康増進法及び景品表示法は,その企画立案及び執行が同庁に移管されたので、今後は、より統一された考え方で企画立案及び運用がなされ、わかりやすいものになっていくことが期待される。ただ、現状では、表示に関する法令規制要求事項が変動期にあるといえる。
語るまでもなく、自社に関連ある法令規制要求事項は遵守しなければならない。しかしながら、そのために自社に法令規制要求事項の専門家を置いて対応しようと考えても、これはなかなか大変なことである。もちろん、法対応の窓口担当者あるいは製品開発担当者は法に関する基礎知識を持つ必要があることは言うまでもない。その食品レシピを決めてからあるいは表示デザインが出来上がってから、それは法に適合しないといわれたら、それまでの業務が徒労に終わる。現在は、インターネットで法に関するわかりやすいパンフレットがたくさん提示されているので、それら資料を入手して勉強することは大切なことである。しかしながら、自分の知識を過信して、法の専門家であるかのごとく思ってはいけないと言いたいのである。法律には、その解釈があり、その内容が通知されている場合がある。法に適合するかしないかの決定権は法遵守側にはなく、法執行側にある。
 表示に関する法令規制要求事項が変動期にある現在においては、社内に専門家を置いたとしても対応しきれず、むしろ、外部の専門家に聞くというのがよいのである。専門家というのはコンサルタントではない。ずばり、法令規制要求事項の自社管轄保健所等の担当者である。その担当者が主担当でなかったら、主担当者を教えてくれるはずであり、その主担当者の指導を受けながら法の対応をしていくということが最も良い選択である。表示以外でも、新製品の導入とか新設備の導入とか食品にかかわる法に関しては何でも相談すればよい。フローダイアグラム、設備配置図、製品レシピ、製品一覧表などをを持参して相談すれば適切な答えが得られる。このように考えれば、社内では法担当窓口を明確にし、必要に応じて、その窓口担当者が管轄保健所等の専門家を訪ね、自社の実態を率直に説明して指導を受け、必要な対応をしていけば良いのである。
「食品安全基本法」という日本の食品安全の基本をつかさどる法律がある。内閣府が主管していたが消費者庁に移管された。この食品安全基本法に「食品関連事業者の責務」が規定されている。第8条である。その第3項に以下のような規定がある。
食品関連事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、国又は地方公共団体が実施する食品の安全性の確保に関する施策に協力する責務を有する。
上記の基本理念とは、国が定める食品の安全性の確保の基本的な考え方のことである。国が定めた法令規制要求事項に協力するために自社の新製品や新設備に関して情報を提供しながら、専門家の指導を受けることは、その事業活動に関し、国又は地方公共団体が実施する食品の安全性の確保に関する施策への協力につながるのである。
既に述べたが、法令規制要求事項に関しては、確実に遵守していくという立場と、それを有用情報として活用していくという立場がある。今回記述したものは主として法遵守の立場から述べている。一方、食品安全のシステム構築などでは法令規制要求事項を活用して管理手段注1−1)、許容限界注1−2)あるいは許容水準注1−3)を設定する裏付け資料として活用できるし、前提条件プログラム注1−4)の裏づけ資料として活用できるものが多い。以降は、法遵守の立場からのトピックスや、食品安全のシステム構築の裏付け資料として活用できる情報などのトピックスを織り交ぜながら連載を進めていきたいと考えている。

注1−1;管理手段:食品の製造、調理過程で危害要因を削減あるいは許容水準まで低減できる手法のこと 

注1−2;許容限界:食品の製造、調理過程で危害要因を削減あるいは許容水準まで低減する際の管理手段の管理値のこと

注1−3;許容水準:この値以下の数値であれば人の健康に危害を与えることがない危害要因の安全限界値のこと

注1−4;前提条件プログラム:調理、加工工程全体に共通する衛生管理の手法や基準のこと

他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.