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A型肝炎ウイルスの予防策

愛知医科大学
客員教授 西尾 治

はじめに

A型肝炎ウイルスは飲料水や食物を介して経口的に侵入し、肝臓に達する。糞口感染で伝播するので、患者の発生は衛生環境に影響されやすい。A型肝炎は発展途上国では蔓延しているが、先進国では上下水道等の整備により感染者は激減している。
 わが国ではA型肝炎ウイルスは存在しないと考えられているが、A型肝炎ウイルスの蔓延国から食品を介して、あるいは海外渡航で感染することが多い。ウイルス性食中毒ではノロウイルスに次いで重要である。

A型肝炎ウイルスの概要

A型肝炎ウイルス はピコルナウイルス科のへパトウイルス属に所属する。ウイルスの形態はエンベロープを持たない直径27nmの球形粒子である。
 A型肝炎ウイルスの遺伝子型は4種類(T〜W)に分けられているが、ヒトのA型肝炎ウイルスはT型(TA、TB)、U型(UA、UB)、V型(VA、VB)の3種類に分けられている。中和に関与する血清型は1種類である。
 A型肝炎ウイルスは経口的に侵入し、潜伏期間は2〜6週間で、平均して約1ヶ月である。A型肝炎ウイルスは腸管組織を経て肝細胞に達する。肝臓では肝細胞質内、クッパー星細胞内での増殖が認められている。
 増殖したウイルスは初期には血清中にも認められる(ウイルス血症)。また、増殖したウイルスは胆汁と共に胆管系を経て、腸管内に達し、糞便と共に体外に排出される。糞便からのウイルス排出は潜伏期から発症の間に認められ、発症後にA型肝炎ウイルス遺伝子は、 短いもので発症〜32日目まで、 最長で77日目(平均50日)まで患者の糞便から遺伝子が検出された報告もある。
 A型肝炎ウイルスは酸耐性で、pH 3に安定、室温(25℃)に4週間完全に不活化されない。不活化には、85℃1分間以上の加熱が必要で、乾燥にも強い。高圧蒸気滅菌、UV照射、ホルマリン処理、塩素剤処理などで不活化する。培養細胞液中のA型肝炎ウイルスは遊離塩素200ppmで不活化されるが、実用では塩素濃度200〜1,000ppmを用いる。

臨床症状

A型肝炎は発熱、倦怠感等の風邪様症状に続いて、食欲不振、嘔吐等の消化器症状を伴うが、典型的な症例では黄疸、肝腫脹、黒色尿、灰白色便等を認める。まれに劇症化し死亡する例を除き、1〜2カ月経過の後に回復する。肝硬変、肝癌に進行することはない。合併症としては急性腎不全、貧血、心筋障害等を起こすことがある。
 小児の感染は多くが不顕性である。感染年齢が上がるにつれ、臨床症状も肝障害の程度も強くなり、高齢化する程、劇症肝炎の危険が高くなり、注意が必要である。

免疫

なお、わが国の血清疫学調査から、50年以前はA型肝炎ウイルスが濃厚に侵淫していたが、50年前以降ではA型肝炎ウイルスは常在していないために、50歳以下の人は多くが抗体を保有していない。

A型肝炎患者発生状況

A型肝炎の発生は、食品の汚染、貝類の生食に関連し、飲食店を介した集団感染がみられる。A型肝炎ウイルスが常在している発展途上国等で感染し帰国後発症する海外感染例は年により10〜30%を占める。盛んになる国際交流、発展途上国からの輸入食料品の増加等、A型肝炎の感染予防対策は社会的に重要な問題として認識されるようになってきた。
 A型肝炎は、1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下感染症新法)」において、全臨床医に届け出義務のある4類感染症として位置づけられた。医師は本症を診断後、直ちに保健所に届け出なくてはならないことになった。
 A型肝炎患者は図1に示したように2001年から2002年は約500名と多く、近年では300名以下となっていたが、2010年は8月15日までに、286名と再び増加した。
 国外例の主な推定感染地は、アジア、アフリカ地域である。また、国内感染例患者の約60%は身の周りにA型患者がおらず、感染源が不明となっている。
 患者の感染した原因は多くが海産物と推定されているものの、A型肝炎ウイルスは潜伏期間が長いために、特定された例は極めて少なく、感染源、原因食材が不明となっている。
 なお、昨年にA型肝炎が多発した要因には韓国で大流行した株が日本に侵淫してきたと推定されている。韓国流行株と日本での分離株との関連について解析を進めることが望まれる。

食品を介する感染

発展途上国では依然としてA型肝炎ウイルスが常在しており、近年、そのような国でA型肝炎ウイルスに汚染された生水あるいは生野菜の喫食による感染事例が発生している。
 わが国においても、海外からの帰国後、国内で発症し、発症者からの二次感染も起きている。海外では二枚貝(イガイ、ハマグリ等)の他に、野菜や果実が洗浄等の際にA型肝炎ウイルスに汚染され、冷凍イチゴ、ブルーベリー、フルーツジュース、ネギ等による食中毒事件が起きている。

わが国におけるA型肝炎の食中毒事件

2000年以降、8件の食中毒事件が発生している(表1)。そのうち、原因食材が明らかになっている事例はNo.2とNo.3のみであり、この2事例は共に中国産のウチムラサキ貝(通称大アサリ)によるものでる。なお、大アサリは同一のものであった。その他の事例では原因食材は明らかとなっていなのは潜伏期間が2〜6週間と長いことが大きな原因となっている。
 注目されるのは寿司店を含む調理従事者が原因となっていることである。特に生鮮食品を扱うヒトが感染し、そのヒトを介して客、従業員、家族に感染させていることである。以下に述べるが輸入生鮮二枚貝類にはA型肝炎ウイルスに汚染されているものが存在することから、それらを大量に処理する際に調理従事者が感染していると推測される。それゆえに、生鮮二枚貝はノロウイルスのみならず、A型肝炎ウイルス汚染の可能性も考慮して、衛生的に取り扱う。また、生鮮魚介類を取り扱う人は自らが感染源とならないためにもA型肝炎のワクチンの接種を受ける。

輸入生鮮魚介類のA型肝炎ウイルス汚染状況

われわれが厚生労働科学研究で行った、輸入生鮮魚介類のA型肝炎ウイルスの汚染実態調査の研究で、2001年から2007年に、主に中国、韓国、北朝鮮からの二枚貝(アサリ、ハマグリ、アカガイ、シジミ等)におけるA型肝炎ウイルスの汚染状況を1,196件について調べたところ、7件(0.6%)からA型肝炎ウイルスを検出している(表2)。生産国は中国、韓国で、貝種はアカガイ、ハマグリ、ウチムラサキ貝(通称大アサリ)であった(表3)。また、表には示していないが二枚貝から検出されたA型肝炎ウイルスの遺伝子型はいずれもTA型であった。
 このことから、わが国には輸入生鮮魚介類と共にA型肝炎ウイルスが侵入しており、その遺伝子型はアジアで広く侵淫しているTA型であった。また、わが国における食中毒事件から検出されたA型肝炎ウイルスはTA型であり、関連性が強く示唆されている。

予防

 1.ワクチン接種:食中毒事件でも、調理従事者がA型肝炎に感染し、同僚、家族、客に感染させているので、生鮮魚介類を取り扱う人はA型肝炎ワクチンの接種を受け、自らが感染源となることを防ぐ。A肝炎ワクチンは3回の接種が必要で、必ず3回受ける。また、渡航3ヶ月前には1回目の接種を行ない、その後2回行う。
 2.食品:二枚貝が入っていた容器の水にもウイルス汚染の可能性があ、他の食材を汚染しないように注意深く容器から取り出す。二枚貝の調理は最後にし、調理後は使用した調理器具、シンク等は塩素濃度200ppmで消毒後、水洗する。また、二枚貝は十分な加熱(85℃、1分間以上)を行なう。A型肝炎ウイルスは発病前からウイルスを排出しているので、感染していることに気づかず、汚染させてしまうことがあるため、調理従事者は常に衛生管理に努める。
 3.小児:小児によるA型肝炎感染者は不顕性なことが多く、保育園、小学校等では不顕性感染が多く、ウイルス感染に気がつかず、家庭内への持ち込み、成人への感染を起す可能性があるので、注意する。
 4.海外渡航者:アジア諸国等の開発途上国では、A型肝炎ウイルスが今なお常在伝染病となっており、そのような国では生水、生野菜などの非加熱食品は取らないようにする。
 5.感染・食中毒の発生:幸いなことに、わが国では衛生環境が良好であり、散発的に発生しており、大流行する可能性は少ないといえる。しかしながら、患者が多発すると、50歳以下のヒトは抗体を保有していないので、感染・発病する危険性が高く、大流行となることが予測される。さらに患者からのA型肝炎ウイルスを大量に含むふん便により、河川水、海水を汚染すると二枚貝による食中毒が多発する可能性がある。厄介なことに発病までに2〜6週間を要することから予防対策が非常に遅れ、流行の終息までに数ヶ月を要する。したがって、衛生管理に努め、患者の発生を防ぐことが肝要である。
 6.情報の収集:昨年のように、近隣国でA型肝炎ウイルスが流行したときにはわが国に持ち込まれる危険性があり、常に近隣国におけるA型肝炎の流行状況を把握し、当該国に出かける際には飲食に注意すると共に、当該国からの食品は加熱する。
文献

1.西尾治:"3 Hepatitis A virus,HAV(A型肝炎ウイルス)" 仲西寿男,丸山務監修.食品由来感染症と食品微生物.p.546-556,中央法規出版、2009

2.内閣府食品安全委員会:健康影響評価のためのリスクプロファイル〜二枚貝のA型肝炎ウイルス〜
http://www.fsc.go.jp/senmon/biseibutu/risk_profile/havirus.pdf

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