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第9版食品添加物公定書について

静岡県立大学食品栄養科学部
特任教授 米谷民雄

1.はじめに

5年を目処に改定するのが建前の食品添加物公定書ではあるが、第6版以降は前版刊行後の7〜8年後に刊行されている。作成作業をする検討会が日本薬局方の委員会のような常設委員会ではなく、改定のたびに検討会委員が委嘱され、そこから新に検討が始まることが延びる理由の一つである。
 今回は平成22年7月に第1回の第9版食品添加物公定書作成検討会が開催され、その後3カ月に1回開催し、平成24年3月に報告書を取りまとめ、その後、食品安全委員会への諮問と答申、薬事食品衛生審議会への諮問と答申を経て、平成25年3月に官報告示の計画となっている。第8版は平成19年に刊行されているため、計画の段階から前版から6年後が目処になっている。なお、細かい調査・検討を行うために、その下に作業部会が設けられ、検討が急がれている。
 以下に、検討会で合意された第9版食品添加物公定書作成の基本方針等について、簡単に説明させていただく。

2.第9版公定書作成の基本方針

次の第9版においては、既存添加物における微生物限度試験法の国際的整合化1),2)や複数の基原から得られる酵素品目の新規収載3)が重要課題であると、以前から認識されていた。現在、検討会において、以下のような方針が合意されている。
○第8版公定書発刊以降に新規指定された添加物の規格を収載すること。
○既存添加物の規格を積極的に掲載すること。
 ・酵素規格の収載、酵素以外の規格未設定品目も可能なものは積極的に収載
○第8版公定書の問題点等を見直すこと。
○JECFA、日本薬局方などの他規格との整合を図ること。
 ・重金属規格から鉛規格(必要に応じカドミウム規格)への変更
 ・微生物限度試験をできる限りJECFA規格に準拠した試験法に改正 など
 以下に、順不同で説明させていただく。
1)新規指定される食品添加物については、指定時に成分規格が設定されるため、新たに規格が設定され新規収載される品目は、既存添加物の未収載品目が主となる。一方、変更に関しては、既収載品目の規格変更や一般試験法及び試薬・試液の変更など、多くの変更が予定される。
2)第9版の基本方針として、JECFA規格や日本薬局方との整合性をはかることがあげられる。しかし、3.に記すように両者の内容が異なる場合には、どちらか一方を選択する必要がある。
3)ご存じの方も多いと思われるが、第16改正日本薬局方において医薬品各条の「精製水」が改正され、「試験に用いる水」についても、以前の「精製水」から「試験を妨害する物質を含まないなど、試験を行うのに適した水」に改められた。これまで公定書では「試験に用いる水」については、「別に規定するもののほか、精製水とする」とされており、精製水とは公定書の試薬・試液の部において、「日本薬局方精製水」とされていた。そこで、公定書においても何らかの対応が必要となる。文章的には小さい変更で済むが、試験全体に係ってくる問題である。
4)最近の版における方針と同じく、JECFAの方針にあわせ、鉛の規格における重金属試験から鉛単独試験への移行や、JECFAで規格が設定されている水銀やカドミウム等の個別金属規格の導入が考えられる。以前に筆者が調査した品目では、たとえばアナトー色素の市販品では、現在のJECFA規格(1 mg/kg)の2倍を超える水銀が検出されたこともある4)。なお、鉛に関する規制強化については、Sunatec e−Magazine vol.056(2010/11/01)の拙文を参考にされたい。

3.微生物限度試験の見直し

微生物限度試験法は、第7版公定書(平成11年作成)において、既存添加物である増粘安定剤や酵素の規格を新たに収載するために導入された。公定書の一般試験法を作成する際には、日本薬局方の一般試験法がよく参考にされるが、本試験法においても同様に日本薬局方に準拠している。
 その後、平成14年にフェロシアン化物をはじめとする未指定添加物の使用が社会問題となり、それに対応するため、国際的に安全性が確認され、かつ、汎用されている添加物(国際汎用添加物)については、国(厚生労働省)が主体となり指定していく方針が打ち出された。新規指定される品目にJECFA規格が設定されていれば、国内規格はそれを採用することがほとんどであるが、微生物試験が日本薬局方に準拠した公定書とJECFA規格で異なるため、これまでもしばしば頭を悩ませてきた。今回の公定書作成方針においては、できる限りJECFA規格に準拠した試験法に改正する方針とされている。
 たとえば国際汎用添加物としては、平成18年12月26日にアルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウムが新規指定されたが、微生物の規格としてはJECFA規格にある細菌数、真菌数、大腸菌群が採用され、第8版公定書にも収載されている。細菌数と真菌数は微生物限度試験法が用いられているが、大腸菌群の試験法は各条の中に具体的に示されている。

4.酵素品目の新規収載を推進

既存添加物である酵素品目の成分規格は、第7版公定書から収載されている。既存添加物名簿では、酵素はその機能が品目名となっている。そのため、同じ品目であっても複数の基原からの酵素タンパクが含まれてくることになる。
 これまでに公定書に規格が収載された酵素は、第7版でトリプシン(基原は、動物のすい臓、若しくは魚類又は甲殻類の臓器)、パパイン(パパイヤの果実)、ブロメライン(パイナップルの果実)、ペプシン(動物胃粘膜又は魚類)、第8版でリゾチーム(卵白)の5品目である。市販のトリプシンとペプシンはほとんどが哺乳動物臓器由来であるため、これまでに収載された品目は、基原による差をあまり考慮する必要のない品目のみであった。そこで、複数の基原をもつ酵素が、未収載のまま多く残されている。
 平成20年10月に発行された日本食品添加物協会の第4版既存添加物自主規格には、新たに酵素が46品目収載され、計62品目が収載されている。新規収載83品目中の半数以上が酵素であり、これでほとんどの酵素について自主規格が出来上がったことになる。第9版公定書にこれら酵素品目の規格を収載していくことが基本方針の1つとして打ち出されている。なおJECFAでは、同じ酵素名でも基原別に規格が設定されている。

5.試薬・試液の部について

試薬・試液については、JISの動向による影響をもろに受ける。JIS K8005:2006で規定されている容量分析用標準物質の純度試験を実施してきた(独)製品評価技術基盤機構が、この純度試験を終了するともいわれている。国内の動きからは、当然ながら、JCSS制度(計量標準供給制度)に基づく認証標準物質の収載も必要となるであろう。そうなれば、これまで金属分析で懸案であったヒ素標準として、JCSSヒ素標準液が利用可能になるかもしれない。

6.おわりに

以上、第9版食品添加物公定書作成における検討会で合意された基本方針について、若干の説明を加えさせていただいた。当初の計画通りに刊行されることが期待されるところである。
引用文献

1)米谷民雄:食品添加物および食品の規格に係わる微生物試験 食の安心科学フォーラム第9回 セミナー講演要旨集p.1(2010)

2)北村 智:食品添加物規格における微生物試験の考え方 ibid. p.2 (2010)

3)浅田 敏:酵素品目の第4版既存添加物自主規格収載と第9版食品添加物公定書移行の課題   月刊フ-ドケミカル 24(12),57-61 (2008)

4)T. Maitani et al. : Contents of mercury and cadmium in commercial annatto extracts, Jpn. J. Food Chem., 5(2), 226-229 (1998)

著者略歴

京都大学(薬学)で学部からD4まで10年間学ぶ。環境庁国立公害研究所での研究を経て、国立医薬品食品衛生研究所に勤務。食品添加物部室長・部長および食品部長として、既存添加物制度や農薬等ポジティブリスト制度の確立に研究者サイドの中心として対応。2008年4月同研究所名誉所員。現在、静岡県立大学食品栄養科学部・大学院生活健康科学研究科特任教授。 (e-mail:maitani@u-shizuoka-ken.ac.jp)

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