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水溶性ビタミン(3)

今回は水溶性ビタミンのうちナイアシン、パントテン酸、ビオチンを紹介します。
【ナイアシン】
(歴史)
 ニコチン酸の発見は1867年にHuberによってタバコに含まれる有害物質のニコチンを硝酸の酸化によりニコチン酸を精製したことに始まります。ニコチンを酸化して得られた酸なのでニコチン酸と命名されました。1935年にはWarburgが赤血球から脱水素酵素の補酵素のなかにニコチン酸アミドが含まれていることを示しました。1937年にElvehjemによってニコチン酸アミドがイヌの黒舌病(ヒトのペラグラに似たイヌの病気)の治療に有効であることが発表されています。その後、ヒトのペラグラにも有効であることが明らかにされています。

ナイアシンとは

一般的にナイアシンはニコチン酸、ニコチン酸アミドを指します。体内に取り込まれたナイアシンはニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)やニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドリン酸(NADP)に変換され酸化還元反応に関与する酵素の補酵素として働きます。ナイアシンが補酵素として働く酵素は数百種類にも及びます。ナイアシンは糖質や脂肪などからATP(アデノシン三リン酸)としてエネルギーを産出する時に必要なビタミンです。
 ナイアシンはヒト体内で必須アミノ酸であるトリプトファンから生合成されます。トリプトファンからの転換率は重量比で1/60と言われています。栄養表示基準ではナイアシン当量はニコチン酸、ニコチン酸アミドと1/60トリプトファンの合計値とされています。
 ナイアシンは栄養学的な意味合いのほか薬理学的な作用にも注目されています。ナイアシンは脂肪代謝に関与しますので中性脂肪やコレステロールの低減作用があるとされています。
 ニコチン酸とニコチン酸アミドはビタミンでありヒトに対して害のあるものではありませんが、食肉などには使用が禁止されています。これは、古くなった肉にニコチン酸やニコチン酸アミドを塗ることにより鮮やかな赤色になるため、新鮮な肉に見せかけることができるからです。

欠乏症と過剰症

ナイアシンが不足するとペラグラといわれる皮膚疾患や下痢、中枢神経障害になります。アルコール依存の人はアルコールの分解にナイアシンが消費されるので欠乏状態になりやすいといわれています。過剰症は大量の摂取により体の火照りや痒みがでるといわれています。

ナイアシンを多く含む食品

ニコチン酸は植物性、ニコチン酸アミドは動物性食品に含まれます。魚、肉、豆、きのこなどに多く含まれます。カツオやマグロには多く含まれタンパク質含量も多いことからトリプトファンとしての摂取も期待できます。

食事摂取基準

尿中に排出されるナイアシン代謝物量から必要量が推定され、ナイアシン当量の推奨量として成人男性(身体活動レベルⅡ)で14〜15mg/日、成人女性(身体活動レベルⅡ)で11〜12mg/日となっています。
【パントテン酸
(歴史)
 パントテン酸はWildiersらが1901年に酵母の成長促進因子群の発見に始まったとされています。この物質は『ビオス』と呼ばれ、1933年にWilliamsらにより、ビオスの中の一物質が酵母の生育促進因子として働くことがわかりました。この物質は微生物や植物、動物に広く存在していることから、"至るところに存在する酸"の意味でパントテン酸と命名されました。1938年にWilliamsらによりパントテン酸カルシウムが単離され、1940年にはStillerにより構造決定されました。

パントテン酸とは

パントテン酸は名前の由来の通り生物界には色々なところに存在します。パントテン酸は体内でコエンザイムA(CoA)やホスホパンテテインなどの補酵素の構成成分として働いています。TCAサイクルや脂質代謝に深くかかわっているので、エネルギー代謝とは密接な関係にあります。

欠乏症と過剰症

パントテン酸が欠乏すると細胞内のCoA濃度が低下し、エネルギー代謝異常を起こすため、成長停止や抹消神経障害など身体のあらゆるところに障害が発生します。しかし、パントテン酸は様々な食品に含まれるため、通常の食生活をしていれば不足することは無いと言われています。パントテン酸の大量摂取による健康障害の報告は無いので過剰症は無いとされています。

パントテン酸を多く含む食品

パントテン酸は様々な食品に含まれますが、各食肉類のレバーに多く含まれます。それ以外では魚卵やきのこ類に比較的多く含まれます。

食事摂取基準

パントテン酸摂取の目安量として成人男性(18歳以上)で5〜6mg/日、成人女性(18歳以上)で5mg/日とされています。妊婦や授乳婦には+1mg/日付加され、成長期の男女も多めの目安量になっています。
【ビオチン】
(歴史)
 パントテン酸の発見と同様に1901年にWildiersらによって発見された『ビオス』がビオチン発見の始まりとされています。ビオスは幾つかの化合物の混合物であったため、それぞれの物質に単離されました。まずビオスTとビオスUに分けられ、さらにビオスUはビオスUaとビオスUbに分けられました。その中のビオスUbが1936年にKoglによってビオチンと命名されました。一方、1931年にGyorgyは卵白摂取による皮膚炎予防因子を動物の肝臓中に発見し、この因子をビタミンHと命名していました。1940年にはビタミンHとビオチンが同一物質であることが証明され構造決定もされています。

ビオチンとは

ビオチンはヒトでは生合成が出来ませんが、腸内細菌によって合成されます。しかしながら、腸内細菌による合成量だけでは生体における必要量を賄うことは出来ませんので、食事により摂取しなければなりません。生体内でビオチンは4種類のカルボキシラーゼの補酵素として働いています。これらのカルボキシラーゼは糖新生やアミノ酸合成、脂肪酸合成に関与しています。ビオチンはアレルギー症状を緩和するとの説もあり、最近ではアトピー性皮膚炎の治療補助剤として使用されているとの報告もあります。

欠乏症と過剰症

生卵白を大量に摂取すると、生卵白に含まれるアビジンというタンパク質がビオチンと強固な結合をつくり消化管でのビオチン吸収を阻害するため、ビオチン欠乏症を発症します。ビオチンが欠乏すると皮膚炎や白髪化、脱毛、筋肉痛、結膜炎などの症状が表れるといわれています。ビオチンは多量に摂取しても速やかに尿中に排泄されるため過剰症はありません。

ビオチンを多く含む食品

ビオチンは卵黄に多く含まれますが、生卵ではアビジンが吸収を阻害しますので過熱するなどしてタンパク変性をさせて摂取するのが効果的です。牛レバーにも多く含まれ、大豆などの穀類にも比較的多く含まれます。

食事摂取基準

ビオチンは腸内細菌でも合成されるため、推定平均必要量を算出するデータがありませんので、食事調査の結果を参考にして目安量が決められています。目安量は成人男女で50μg/日とされています。
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