財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >ifia 2011 出展者プレゼンテーション 臭気・異臭分析 〜開発からクレームまで〜

ifia 2011 出展者プレゼンテーション 臭気・異臭分析 〜開発からクレームまで〜

異臭クレームの原因について

1)カビ臭
 カビ臭に関与する化合物には官能閾値が低く、極僅かな量でも違和感を覚えるものが多い。また、カビ臭と表現されるにおいは1種類の物質から成立しているものばかりではなく、アルコール、テルペン、エステルなど多くの化合物の組み合わせにより、カビ独特のにおいがする場合もある。
(1)ハロゲン化アニソール
 2,4,6-トリクロロアニソール(以下TCA)に代表されるハロゲン化アニソール類は、極めて低い官能閾値と昇華性を有するカビ臭の原因物質である。TCAの前駆物質は木材用防黴剤である2,4,6-トリクロロフェノール(以下TCP)を、Fusariumu属などの一部のカビがO-メチル化することにより無毒化して繁殖するが、このTCP のO-メチル化物であるTCAがカビ臭として広く知られるようになった。 最近では、TCPの使用量は減少したが、その代替剤として2,4,6-トリブロモフェノール(以下TBP)が用いられるようになった。TBPは、防黴剤のほかに難燃剤などとしても用いられ、特に防黴剤としてはTCPと同程度の能力を有し、尚且つ毒性が低いため使用が拡大している。TBP はTCAの場合と同じく、同様にある種のカビによりO-メチル化を受け、カビ臭を有する2,4,6-トリブロモアニソール(以下TBA)を生成する。TBAもTCAと同様官能閾値が低く、今後はTBAによるカビ臭汚染についても注意が必要である。
(2)ジェオスミン及び2-メチルイソボルネオール
 水道水の異臭被害において、その表現がカビ臭とされるものが多い。水道水で認められるカビ臭の原因物質は、水源となる水域に生息しているPhormidimu属などの藍藻類や放線菌の代謝により生産されるジェオスミン及び2-メチルイソボルネオール(以下2-MIB)であることが確認されている。ジェオスミンはカビ臭の他に土臭と表現され、また2-MIBは墨汁臭と表現されることもある。
 ジェオスミン及び2-MIBの双方を産生する藍藻類はないが、放線菌は1つの菌体からジェオスミン及び2-MIBを産生するタイプと、どちらかのみ産生するタイプに分類され、環境因子などにより産生する成分や産生量は変化する。水道水におけるカビ臭問題は、水源である湖沼・貯水池などの停滞水域の富栄養化が進行し、藍藻類や放線菌の異常発生、増殖が起きることにある。ジェオスミン及び2-MIBは、先述のTCAと同様に官能閾値が低く、僅かな量でも人が感知し不快感を与えてしまう。
2)腐敗臭
 魚肉、獣肉など動物性食品はタンパク質や遊離アミノ酸など窒素化合物が大部分を占め、炭水化物などは比較的少ないのに対し、穀類や野菜などの植物性食品はデンプンやセルロースなど炭化水素が主成分となるため、両者の腐敗現象と発生する臭気は異質なものとなる。
(1)動物性食品
 動物性食品でよく認められる腐敗生成物のうち、臭気に関与する成分としては、まずアミノ酸に起因するアンモニアが挙げられる。アンモニアは、アミノ酸からの脱アミノ作用により生産されるが、微生物の殆どが複数存在するアミノ酸の分解経路の少なくともいずれかを有していることから、微生物の増殖に伴いアンモニア発生量も増加し、臭気として感じられるようにもなる。そのため、タンパク質を含む食品については、産生されたアンモニア量を腐敗の指標とする場合が多い。鮮度の指標として用いられる揮発性塩基窒素(VBN)も、その大部分はアンモニア性窒素である。
 また、畜肉などにおいて、腐敗臭または糞便臭を伴う異臭クレームが報告されており、その原因物質としてp-クレゾール、インドール、スカトール等が同定されている。これは、芳香族系アミノ酸のチロシンや、複素環系アミノ酸のトリプトファンなどが細菌による脱アミノ、転移アミノ、脱炭酸および脱水酸基反応を受け、フェノール系物質及びインドール系物質が生成されることによる。
 そのほか、変敗による動物性食品からの臭気成分としては腔腸動物、棘皮動物、多くの甲殻類及び硬骨魚類の大部分など海産魚介類に特異的に含まれるトリメチルアミンオキシドに起因するトリメチルアミンや、卵などではメチオニン、システイン、シスチンなど含硫アミノ酸から生成される硫化水素、メチルメルカプタンなどの硫黄化合物などが認められる。
(2)植物性食品
 植物性食品では炭水化物の分解による生成する糖や、アミノ酸が更に分解して生じたギ酸、酪酸、酢酸など各種の有機酸などが腐敗産生物として認められる。また、酵母やヘテロ発酵型乳酸菌により産生されるエタノールなどのアルコール類も腐敗産生物の一つといえる。
 炊飯がいたむとにおいを発する。Bacillus属菌や酵母などが炭水化物を消化する過程で、菌体内でピルビン酸からα-アセト酢酸が生成する。生成したα-アセト酢酸の一部は非酵素的に分解してジアセチルまたはアセトインが生成し、これが特有の発酵臭の原因となる。米飯、惣菜などからシンナー臭、セメンダイン臭と表現される異臭が発生し、その原因が酵母汚染であった例が散見される。これは、アルコール製剤を使用した包装や工場内で使用する殺菌剤にエタノールを使用している場合、このエタノールを一部の酵母が資化し、酢酸エチルを生成するためである。
3)薬品臭
 薬品臭に関わる原因について、微生物汚染の他に原材料の運搬工程や製造工程などでの不適切な管理により、環境または原材料自体が薬品汚染している場合が挙げられる。環境からの汚染例としては、原材料の運搬・保管時に薬剤との同時保管したことによる汚染、製造機器・工場内の壁・床・天井などの塗装に用いた塗料由来の揮発成分が製造品への移行、製品を防虫剤などと同一容器内で保管したことによるもの、製品を包装した容器の接着剤成分の気散不十分により製品に成分が移行したものなど、製造環境、取扱いの違いにより様々であるが、いずれの場合においても、製造環境や原材料の適切な管理が重要となる。
4)石油臭
(1)石油成分由来
 石油製品のにおいは「石油(灯油)臭い」「薬品臭」などと表現され、一種独特なにおいがするが、実際にそれが灯油や軽油など、石油製品による汚染より起因するものであるか、それとも別の要因であるのかを官能分析のみでは判断が難しいが、機器分析を行うことにより判断が可能となる。複雑な組成である石油製品をガスクロマトグラフ-質量分析計(GC/MS)にて分析すると、非常に特徴的なクロマトグラムが得られます。例えば軽油のクロマトグラムでは多数の成分が含まれることが確認される。
 石油製品の特徴として、軽油や灯油など、その種類により含まれる炭化水素の炭素数の分布に違いはあるものの、いずれにおいてもアルカンが複数含まれる点があります。アルカンの各成分のマススペクトルは、メチレンに相当する14質量単位ずつ離れてピーク群が現れるという規則性を有している。GC/MSにて測定した場合に多数の成分が認められた際には、この規則性の有無が石油製品による汚染か否かの判断基準のひとつとなる。
(2)非石油成分由来
 官能評価において「石油臭い」と表現される異臭クレームであっても、石油製品による汚染が原因ではない場合がある。これは、天然由来の保存料であるシナモン抽出物を使用している製品において散見される例です。この場合の原因は、シナモン抽出物の主成分であるケイ皮酸が、酵母により脱炭酸されてスチレンを生成することにある。スチレン自体も特異な薬品臭を有しており、また石油製品にも含まれている。石油製品による汚染であればスチレンのほかにも上述のようにパラフィン系炭化水素や芳香族炭化水素類が多数認められるので、検出される成分は石油製品で示されるクロマトグラムとは明白に異なる。
5)劣化臭
 牛乳に関して、度々「段ボール臭」「紙臭」などと呼ばれる異臭クレームが発生するが、この原因の一つがn-ヘキサナールである。この場合の発生機構は生乳が集乳・加工・貯蔵される間に乳脂肪に含まれるリノール酸が酵素反応、或いは光酸化を受け、n-ヘキサナールをはじめとするアルデヒド類が発生し、通常の牛乳とは異なる臭気を有するようになるものと考えられている。

他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.