財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >水溶性ビタミン(2)

水溶性ビタミン(2)

今回は水溶性ビタミンのうちビタミンB6、ビタミンB12、葉酸を紹介します。
【ビタミンB6
(歴史)
 1934年にGyoergyは、すでに発見されていたビタミンB1、B2を添加したビタミン欠乏食でラットを飼育するとペラグラ様皮膚炎を発症する事を発見し、この抗皮膚炎因子をビタミンB6(この時すでにB1からB5までが埋まっていました)と呼ぶようにしました。1938年には米ぬかや酵母からビタミンB6塩酸塩の結晶化が相次いで報告され、1939年には構造が明らかとなりピリドキシンと呼ぶように提唱されました。

ビタミンB6とは

ビタミンB6はピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンとこれらのリン酸エステルの総称です。ビタミンB6は他のB群ビタミンと同様に補酵素として体内で働きます。ビタミンB6の補酵素としての関与は多岐にわたり、タンパク質、脂質、炭水化物の代謝の補酵素として働き、それ以外にも神経伝達物質の合成やホルモンの調節にも関与しています。ビタミンB6の新しい機能として近年では疫学調査やマウスによる投与実験から大腸がんの予防因子として注目されています。

欠乏症と過剰症

ビタミンB6の欠乏症は阻害剤などにより引き起こされます。ビタミンB6の欠乏状態の時には他のビタミンも欠乏状態になりますので、症状は多く、湿疹や口角炎から貧血、麻痺性発作、脳波異常、免疫力低下まで多岐にわたります。20世紀の中ごろにアメリカで粉ミルクを飲用する乳児にビタミンB6欠乏症の一つである痙攣発作が起きた事例があります。これは、添加されたピリドキサールが製造中の加熱工程により変性した事が原因とされました。この様な特殊な場合を除き、通常の食生活をしていればビタミンB6欠乏の心配はないとされています。過剰症は大量摂取時に感覚神経障害や筋肉の脆弱、精巣萎縮などの症状がでると報告されているため食事摂取基準では上限値が定められています。

ビタミンB6を多く含む食品

ビタミンB6はいろいろな食品に含まれています。とくに肉類、野菜、ナッツ類、穀類(全粒)に多く含まれます。ピリドキシンは植物性食品にピリドキサールやピリドキサミンは動物性食品に含まれています。

食事摂取基準

ビタミンB6の栄養学的指標であるピリドキサール‐リン酸の血漿濃度とタンパク質当たりの摂取量が相関することから、食事摂取基準はタンパク質当たりで策定され、タンパク質の摂取基準を乗じてビタミンB6の摂取基準にしています。成人男性(18歳以上)で1.4mg/日、成人女性(15歳以上)で1.1mg/日となっています。ビタミンB6は大量摂取により過剰症のリスクが伴いますので、成人男性で50〜60mg/日、成人女性で40〜45mg/日に上限値が設定されています。
【ビタミンB12
(歴史)
 1926年にMinotとMurphyによってヒト悪性貧血に肝臓療法が有効であることが見出され、ビタミンB12の発見の手がかりとなりました。1948年に抗悪性貧血因子としてFolkersらとSmithらそれぞれによって牛の肝臓から赤色の結晶として単離され、ビタミンB12と命名されました。1956年にはHodgkinらがX線解析により化学構造が明らかにされました。後にBarkerらやLindstrandらによってアデノシル型やメチル型のビタミンB12が発見されヒト体内での補酵素としての働きも明らかになっています。

ビタミンB12とは

ビタミンB12は中心にコバルトを含む化合物で化学名はコバラミンと言い、幾つかの類縁体が存在します。代表的なものはヒドロキソコバラミン、アデノシルコバラミン、メチルコバラミン、シアノコバラミン、スルフィトコバラミンがあります。ビタミンB12は胃壁の細胞から分泌される糖タンパクと結合し回腸で吸収されます。糖タンパクと結合できなかったビタミンB12は吸収されずに排泄されます。吸収されたビタミンB12はメチルコバラミンやアデノシルコバラミンに変換され補酵素として働きます。ビタミンB12は核酸の合成に関与するため、脊髄の造血細胞などの細胞分裂の活発なところで働きます。このため不足すると悪性貧血などを引き起こします。その他、神経にも作用し末梢神経の破損の修復を促進するといわれています。

欠乏症と過剰症

ビタミンB12は野菜には含まれないためベジタリアンは不足しがちになります。ビタミンB12が不足すると巨赤芽球性貧血や神経障害、感覚異常などになります。ビタミンB12は吸収の過程で糖タンパクと結合できないものは吸収されないため過剰症はないとされています。

ビタミンB12を多く含む食品

ビタミンB12は植物体では合成されないため植物性の食品にはほとんど含まれず、含まれるのは動物性の食品に偏ります。例外的に植物体でも根粒菌などからの移行する一部植物や海苔などには含まれることがあります。ビタミンB12は微生物によって合成されるため納豆や味噌などの発酵食品には含まれています。多く含まれる食品は肝臓や青魚、貝などです。

食事摂取基準

ビタミンB12の食事摂取基準は血清中のビタミンB12濃度により決められました。成人男女の推奨量として2.4μg/日となっています。過剰に摂取しても排出されるため過剰症はありません。
【葉酸】
(歴史)
 1931年にWillsによって悪性貧血に酵母エキスや肝臓エキスが有効であることを見出したことが葉酸の発見の始まりといわれています。その後、この抗悪性貧血因子をビタミンMと命名されています。1941年にはホウレン草の抽出物から乳酸菌の生育因子が発見され、ラテン語の葉(folium)と酸(acid)から葉酸(folic acid)と命名されました。一方、1944年には家禽であるヒナの成長が遅く、悪性貧血の発症に対し乳酸菌の生育因子であったビタミンBcにより改善することが報告されました。乳酸菌の生育因子が悪性貧血の回復に有効であったことから、ビタミンMとビタミンBcが同一であるとされました。1946年にはAngierらによって構造が決定(プテロイルモノグルタミン酸)されました。

葉酸とは

葉酸は狭い意味ではプテロイルモノグルタミン酸ですが、広い意味ではプテロイルポリグルタミン酸をさします。食品には主にプテロイルポリグルタミン酸型で存在し、食事として摂取されると酵素によってプテロイルモノグルタミン酸型に分解され吸収されます。吸収された葉酸は補酵素としてヌクレオチド類の生合成、アミノ酸の代謝、タンパク質の生合成などに関与しています。葉酸の重要な働きのひとつにプテリン核やピリミジン核の合成に補酵素として関与していることがあげられます。これらは核酸合成に必要なものであり、細胞の分裂や機能を正常に保つために重要な役割を果たしています。つまり、葉酸は細胞分裂に関与するビタミンといえます。また、葉酸は胎児の神経管の成育に影響しますので、妊娠前や妊娠初期には十分な葉酸摂取が必要とされています。

欠乏症と過剰症

普通に生活をしている分には葉酸の欠乏症は起こらないとされていますが、現代の食生活では慢性的な葉酸不足とも言われています。抗がん剤や免疫抑制剤の使用により欠乏症状を起こします。葉酸の欠乏状態では造血機能に影響を及ぼすため巨赤芽球状貧血や神経障害などになります。妊娠中も葉酸が不足しがちになるとも言われています。一方過剰症は、葉酸の大量摂取により発熱や蕁麻疹、呼吸障害を起こすことが知られています。また、葉酸は亜鉛の吸収阻害を起こすことも指摘されています。

葉酸を多く含む食品

葉酸は豆類や緑色野菜に多く、ブロッコリーやほうれん草はよい供給源です。動物性の食品では各種レバーやうなぎなどに多く含まれます。また、ごはんも含量としては少ないですが、摂取量が多いため供給源としては有効との説もあります。

食事摂取基準

食事摂取基準は赤血球中の葉酸濃度と血漿ホモシステインの濃度から推定され、成人男女で240μg/日と推奨されています。ただし、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のため妊娠を計画している女性や妊娠の可能性のある女性には400μg/日の摂取を推奨しています。葉酸の大量摂取には過剰症の危険が伴いますので、上限値(成人男女で1300〜1400μg/日)が設定されています。

次回はナイアシン、パントテン酸、ビオチンを紹介します。
参考文献

・ビタミン総合辞典 朝倉書店

・最新ビタミンブック 主婦の友社

・ビタミンハンドブック水溶性ビタミン 化学同人

他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.