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最近のカビに関する苦情相談と話題

大阪府立公衆衛生研究所 久米田裕子
NPO法人カビ相談センター  水ト 慶子

はじめに

「カビによる生活環境の問題は私たちの生活に密着しており、切実である。とりわけ食品は生産する側、消費する側にとって重要な問題である。食品とカビの相談はおそらく公的な機関でも多く寄せられている。問題はその相談に対する回答である。相談に対してどのように回答すればよいか悩んでいるのが現状である。消費者のカビに対する見方はさまざまである。だからこそ、納得できる回答が求められる。そのような相談に対してどのように接したらよいか今回NPO法人カビ相談センターからその事例を紹介する。
 2008年に創立された当センターには、個人(一般消費者)、公的機関、民間企業から多くの相談が寄せられている。そこで、2010年7月発行のSunatec e-Magazine vol.052に引き続き、今号では寄せられた相談をもとに、それぞれがカビに対してどのような疑問を持ち、問題をかかえているか、またその解決に向けて必要なことは何かについて述べていきたい。
 また、平成23年3月31日には、厚労省から各都道府県あて、食安発0331第5号「アフラトキシンを含有する食品の取扱いについて」の通知が出されたので解説する。

1)相談者の内訳と相談内容

2008年から2010年までの3年間で、NPO法人カビ相談センターに寄せられた相談件数及び検査依頼件数は総数800件を超えた。電話相談・メール相談では、相談者は企業・行政と個人がほぼ半数ずつで、このことは、個人もカビに関する悩み・苦情・疑問を抱え、その問題を解決できる場所を必要としている一方、企業・行政も、消費者からカビの苦情を受けたがどう返答していいか分からず混乱しているケースが多いことを示している。最近はインターネットなどから多量な情報が得られるため、その結果、アレルギー疾患やカビ毒などに対する不安も増大し、本当に正しい情報を知りたいと考えて相談されるケースも多い。個人からは生活環境のカビと健康に関わる素朴な疑問や苦情などの相談が多く、公的機関からは個人から受けたカビ相談への対応の仕方、試験依頼の相談と講演依頼が多かった。民間企業からはカビ種の同定検査、検出されたカビのカビ毒の有無、有害性や安全性に関する情報、カビの制御方法、消費者からの苦情に対する対応の仕方などの相談が多く寄せられた。

2)相談内容及び業種別相談割合

図1に示したように、電話及びメール相談のあった業種別割合では、もっとも相談が多かったのは住宅関連の問い合わせで全相談の52%(内、企業・行政23%、個人29%)を占めた。次いで食品関連24%(内、企業・行政16%、個人8%)、衣料関連9%(内、企業・行政4%、個人5%)であった。
 相談としてもっとも多い住宅関連は生活する上で切実な問題であり、この対応をする機関が少ないことで当センターに相談がくることが多かった。これに対し食品は、保健所や苦情となった食品会社へ直接相談するケースが多い。いずれにしても当センターでの食品に関する相談も決して少なくない。
 一方、電話及びメール相談だけではなく、実際に検査依頼のあった業種割合をみると、図2に示したように食品関連企業からのものが最も多く、全体の30%を占めた。これは食品分野では、製品のカビは消費者により発見されることが多く、直接口にするものであるため、健康被害や安全性に関して消費者からの苦情や問い合わせが多いためと思われる。また、企業もその対応や対策を求められる場合が多いためと予想される。
図1 電話相談・メール相談業種別割合(総数681件)
図2 検査依頼のあった業種別割合(総数175件)

3)食品関連の相談内容内訳と相談事例及び回答

図2で示した検査依頼のうち、食品関連の検査相談内容の詳細をみていくと、(1)菌数測定・同定をしてほしい(39%)、(2)検出されたカビの有害性・安全性情報が知りたい(28%)、(3)、検査の際の試験方法・評価の基準・同定するポイントなどを知りたい(14%)(4)カビの発生原因の推測及び今後の対策方法を知りたい(12%)の順となっていた。
 この中で、依頼が多かった上位2つ(菌数測定・同定依頼、検出されたカビの有害性・安全性情報)に関する問い合わせの事例をあげる。
[質問1]
消費者からカビが生えたお菓子を子供が食べておなかをこわしたとクレームがあった。そのカビ種を特定し、健康被害について知りたい。(相談者:食品企業)
[質問2]
子供がカビの生えたお菓子を食べてしまった。カビ毒には発癌性があるらしいので心配だが大丈夫か。(相談者:一般・主婦)。
[回答]
カビを少しでも口にするとすぐに嘔吐、下痢、腹痛など健康被害をおこしてしまうと考える消費者は多いが、カビが少量生えただけの食品を1回食べただけでそのような食中毒様症状をおこすことは考えられない。食中毒をおこす微生物は主に細菌やウイルスであり、カビでは知られていない。
 カビというとカビ毒を出し、カビ毒というと発癌性があると連想して心配する消費者が多いが、カビがすべてカビ毒を出すわけではないし、カビ毒はすべて発癌性があるわけでもない。わが国のような温帯地域では、アフラトキシン(発癌性カビ毒)産生カビに当たる確率は低いし、万が一、同時にアフラトキシンを食べてしまったとしても、黄疸を伴う急性肝障害(致死率の高いアフラトキシン中毒)を引き起こす可能性はほとんどない。なぜなら、アフラトキシンによる急性食中毒が発生するのは、かなり高濃度のアフラトキシンB1を少なくとも数週間以上にわたって食べ続けた場合に生じているからである。アフラトキシンB1の慢性毒性については、ヒトの疫学調査の結果から、「体重1kgあたり1 ng/日の用量で生涯にわたり経口暴露した時の肝臓癌が生じるリスクは、B型肝炎キャリアーで0.3 人/10 万人/年、B型肝炎非キャリアーでは0.01 人/10万人/年(不確実性の範囲0.002〜0.03 人/10万人/年)」と推定されている。
 元来ヒトの体は有害なものが入って来た時、解毒や排泄で健康を保つしくみが備わっているので、他のカビ毒であっても、1、2回の微量摂取で健康を害する心配はない。
しかし、現実に健康被害の心配がほとんどないからといって、食品にカビが生えてもいいというわけではない。食品は「安全性」と同時に「高度な品質」が求められる。「カビ」は「異物混入」として食品衛生法においては販売してはならないものとなっているだけではなく、衛生管理の指標とも見なされている。
食品のカビ汚染を考える時には、3番目、4番目に相談の多かったものとしてあげたように、正確な試験法で評価を行い、カビの発生原因を推測し、今後の対策をたてることが重要である。カビ発生時にしっかりした対策をたてなければクレームは繰り返され、結果として事故に至る可能性もある。
 次にカビに関する相談があった時にどう回答するか、また回答する時の大切な考え方をまとめる。以下の点について注意すると発生原因が分かり対応がしやすい。
(1) 製造日、賞味・消費期限の確認、発見時・持ち込み時の情報、健康被害の情報など相談の具体的状況の把握をする。
(2) 話を聞くだけではなく、写真または実物を見る。
(3) 原因食品、原料、製造工程などを確認し、原因はどこにあるか、またカビが原因であるのかどうかを判断する。
(4) カビの種類を知る。防除は全てのカビに共通するわけではなく、検出されたカビによって対策が異なってくるからである。
食品事故は企業の信用低下を招き、企業の存続に影響を与える問題にもなりかねない。HACCPの導入により、食品衛生管理に関する意識も向上してきてはいるものの、カビ発生を未然に完全に防ぐことは不可能であり、非現実的である。またコスト面などでも問題が残されている。しかしながらカビを正しく理解し、カビが発生した時に実施するべきことをおさえておくことで、食品衛生面での対応の向上を図れるということを頭にいれておくことが重要である。

4)総アフラトキシン規制は本年10月1日から適用

2010年7月発行のSunatec e-Magazine vol.052で、名古屋市衛生研究所生活環境部の中島正博氏が、「総アフラトキシン規制値設定について」解説された。その中で方向性として述べられていたように、食品安全委員会の食品健康影響評価、国際動向及び国内流通食品中の含有実態を踏まえ、食品中のアフラトキシンの指標を、総アフラトキシン(アフラトキシンB1、B2、G1及びG2の総和)に変更することが適当であると結論づけられた。食品衛生法第6条第2号において全ての食品を対象に総アフラトキシン量として10 μg/kgが設定されたということは、今まではB1に対してのみ10 μg/kgであったことと比較すると、実質的には規制は強化されたことになる。
 また、アフラトキシンの指標以外にサンプリングプランも変更となった。抜き取りサンプルが粒状であった場合は、その粒数は分析値のばらつきに大きな影響を与えることが知られている。国立医薬品食品衛生研究所が検討した結果、アフラトキシンの検査結果の判定には、粒状食品では1,000粒以上の試料が必要であり、10,000粒以上で精密度が高まることが報告された。そのため、1粒が0.1g以上の検体では、おおむね10,000 粒である5 kgを、0.1g以下の検体では1kgをサンプリング量として定めることとした。
平成23年3月31日に食安発0331第5号の通知内容は、厚生労働省HP(http://www.mhlw.go.jp/)内、関連ページ(http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2010/)参照のこと。

おわりに

現在の日本の食品において、カビについてもカビ毒についても、現実的な健康被害の心配はほとんどない。しかし、それは、製造企業も行政も、一貫してリスクを軽減するような方策にチャレンジしてきた成果である。モニタリング検査や基準値設定、違反食品の回収・廃棄、衛生指導や防止策の徹底、それらが現状の安全性を担保していることを忘れてはならない。
著者略歴

久米田裕子(くめだゆうこ)
大阪府立公衆衛生研究所感染症部細菌課長。NPO法人カビ相談センター副代表。北海道大学獣医学部卒。
食品にかかわる食中毒をはじめカビ苦情について府民の相談業務に携わる。また近年文化財のカビ問題も手掛ける。内閣府食品安全委員会かび毒自然毒専門委員。

水ト慶子(みうら・けいこ)
NPO法人カビ相談センター業務課長。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科ライフサイエンス専攻修士課程修了。
食住を含めた生活環境中の真菌の生態や制御研究などを行う。現在カビ相談センターにて専門相談員として相談業務を担当する。

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