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水溶性ビタミン(1)
今回は水溶性ビタミンのうちビタミンCとビタミンB1、B2を紹介します。
【ビタミンC】
(歴史)
 ビタミンCの歴史は有史以来の壊血病との戦いとも言われています。15世紀の大航海時代になると多くの船乗りたちが壊血病の犠牲になりました。船員の壊血病対策が必須であったイギリス海軍はさまざまな取り組みをしオレンジなどのかんきつ類が壊血病の予防と治療に効果的であることを見出しました。
 1919年にJ.C.Drummondによって壊血病予防因子をWater-soluble Cと命名され、後にビタミンCと呼ぶように提唱されました。1928年にS.Gyorgyiによってウシの副腎から強力な還元作用を持つ物質が単離されました。この物質をヘキスロン酸と命名しました。1932年にはC.G.Kingによりレモン果汁から単離された物質がS.Gyorgyiによって単離されたヘキスロン酸と同一であり、抗壊血病作用を有することが示されました。1933年にW.N.Haworthらによって構造が決定され抗壊血病因子としてのビタミンCの研究が一段落しました。その後、ビタミンCは抗酸化ビタミンとして生理学的や栄養学的な研究が盛んに行われ、現在でも研究が続けられています。

ビタミンCとは

ビタミンCの常用名はアスコルビン酸と言います。これは抗(anti)壊血病作用(scorbutic)を有する酸(acid)に由来しています。
 ほとんどの哺乳類はビタミンCを体内で合成できますが、ヒトなどの霊長類やモルモットはビタミンCを合成する酵素が遺伝的に欠損しているため合成できません。このため食物により摂取しないとビタミンCの欠乏状態となり壊血病を発症することになります。
 ビタミンCの生理作用は壊血病予防のほかに、コラーゲンの合成や体内での抗酸化作用に関与しています。ビタミンCは発癌物質であるニトロソアミンの生成抑制やその抗酸化作用による老化抑制など色々な薬理効果も報告されています。1970年代にL.PaulingがビタミンCの大量摂取が風邪や癌の抑制効果があると発表しましたが、その効果には疑問もあるもののビタミンCの薬理効果が認知には貢献しました。

欠乏症と過剰症

欠乏症は発見の由来であるように壊血病があります。欠乏状態になると細胞と細胞をつなげているコラーゲンの生成がされなくなくなることにより、毛細血管の結合組織が脆くなり歯肉や筋肉からの出血症状が起こります。過剰なビタミンCは吸収されずに排泄されるため過剰症はないとされています。

ビタミンCを多く含む食品

ビタミンCは野菜や果物に多く含まれますが、穀類や肉、魚にはあまり含まれませんので極度の偏食になると不足しがちになります。また、喫煙者はビタミンCの消費量が多いといわれていますので積極的なビタミンCの摂取が必要です。

食事摂取基準

ビタミンCは推奨量として成人男女で100mg/日とされています。また、喫煙者はビタミンCの消費が35mg/日多いとされていますので、この分の上乗せが必要と考えられています。
【ビタミンB1
(歴史)
 ビタミンB1の歴史は1897年にEijkmanによって白米を飼料として与えていたニワトリに多発していた神経症(鳥類白米病)が、米ぬかを与えることにより改善することの発見したことが始まりとされています。1910年には鈴木梅太郎教授が米ぬかから脚気予防因子の抽出に成功し、1912年にオリザニンと命名しました。一方、Funkは米ぬかから結晶状の抗鳥類白米病因子の単離に成功し、1911年にビタミン(vitamine)としました。これは、この化合物がアミンであることから「生命に必要なアミン」(vita-amine)という意味から名づけられました。現在はアミンでないビタミンも多数発見されているのでvitaminとなっています。1926年にはJansenらによって純粋なビタミンB1が分離、1936年にWilliamsにより構造決定がなされチアミンと命名されました。

ビタミンB1とは

ビタミンB1は天然にはチアミンと3種類のリン酸エステル(チアミン一リン酸、二リン酸、三リン酸)として存在します。食品としてヒトが摂取するとリン酸エステルは切断されチアミンとなり吸収されます。B群ビタミンの一種であるビタミンB1は他のB群ビタミンと同様に体内では補酵素として働きます。ビタミンB1の関与する代表的な作用は糖類の分解があります。解糖系で働く酵素の補酵素として作用します。他には神経系の働きを正常に保つ役割があります。

欠乏症と過剰症

欠乏症は末梢神経異常の脚気と中枢神経異常のウェルニッケ脳症があります。脚気は白米を食べる東洋人に多く、ウェルニッケ脳症はアルコール摂取の多い西洋人に多いとされています。糖代謝に関与するビタミンB1は糖質の多い食事やアルコールの多飲により普段より多く消費され不足しがちになります。
 ビタミンB1は多量に摂取しても尿中に排泄されるため過剰症はないとされています。

ビタミンB1を多く含む食品

ビタミンB1の多い食品は、その発見が米ぬかから連想されるように玄米や小麦胚芽に多く、その他の穀類や豆類にも比較的多く含まれます。動物性食品ですと鶏卵やうなぎに多く含まれますが、摂取量も多い豚肉が最もよい供給源になります。

食事摂取基準

尿中に排出されるビタミンB1量から必要量が推定され、摂取基準として成人男性(18〜29歳、身体活動レベルU)で1.4mg/日程度、成人女性(18〜29歳、身体活動レベルU)で1.1mg/日となっています。
【ビタミンB2
(歴史)
 E.V.McCollumが、牛乳中にネズミの成長に必要な脂溶性と水溶性の未知の栄養素を見出し、後にFat-soluble A,Water-soluble Bとされました。その後の研究でWater-soluble Bの中には熱に不安定な物質と熱に安定な物質があることがわかりました。1926年にこの二つの物質の分離に成功したShermanは熱に安定な物質をビタミンGと呼ぶことを提案しましたが、翌年にビタミンB2に改称されました。1933年にKuhnらによって単離された物質がビタミンB2であることが証明され、翌1934年には構造も決定されました。1937年にはリボフラビンという名称が採用されています。

ビタミンB2とは

ビタミンB2(リボフラビン)は体内に吸収されるとフラビンモノヌクレオチド(FMN)とフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)に変換され脱水素酵素や酸化酵素の補酵素としての役割をしています。FMNやFADは補酵素として糖質、脂質、タンパク質の代謝に関わっていますので、成長には不可欠なビタミンとなっています。ビタミンB2は成長促進のほか皮膚や粘膜の保護といった働きもあります。

欠乏症と過剰症

欠乏はビタミンB2の摂取量が不足したときのほか、代謝異常などで起こります。症状としては口角炎、口唇炎、舌炎などのほか皮膚炎にもなります。ビタミンB1と同様に多量に摂取しても尿中に排泄されるため過剰症はないとされていますが、ビタミンB2は黄色い色をしているため、尿が黄色くなります。

ビタミンB2を多く含む食品

ビタミンB2の発見が牛乳中からであったように乳製品には比較的多く含まれています。乳製品以外では納豆に多く、緑色野菜にも含まれます。ビタミンB2は光に対して感受性が大きいため、日光などにさらされないようにしておくことが大切です。

食事摂取基準

ビタミンB2もビタミンB1と同様に尿中に排出されるビタミンB2量から必要量が推定され、摂取基準として成人男性(18〜29歳、身体活動レベルU)で1.6mg/日、成人女性(18〜29歳、身体活動レベルU)で1.2mg/日となっています。

身体活動レベル:日本人の食事摂取基準では活動強度に相当する目安として、T(低い)、U(ふつう)、V(高い)の3段階に設定されています。

次回はビタミンB6、B12、葉酸を紹介します。
参考文献

・ビタミン総合辞典 朝倉書店

・最新ビタミンブック 主婦の友社

・ビタミンハンドブック水溶性ビタミン 化学同人

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