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脂溶性ビタミン(2)

今回は脂溶性ビタミンのうちビタミンEとビタミンKの紹介をします。
【ビタミンE】
(歴史)
 1922年にH.M.EvansとK.S.Bishopらは、脱脂粉乳にすでに知られていたビタミンを添加した合成飼料で飼育したラットに繁殖抑制(不妊症)が現れるが、レタスや牧草を加えることにより改善することを発見しました。このラットの生殖に必要な因子を因子Xとし、後にビタミンEと改称しました。1936年にはO.H.Emersonらが小麦胚芽油などから最も活性のあるビタミンEを単離しトコフェロールと命名しました。トコフェロールの語源はギリシャ語のtocos「子供を生む」、phero「力を与える、獲得する」に由来し、それにアルコールを意味する olをつけています。1937年には別のトコフェロールが分離され、最初に分離されたものをα-トコフェロールと呼び、後ものをβ-、γ-と呼ぶようにしました。その後、いくつかのビタミンEが発見され、現在では8種類の同属体がわかっています。ビタミンEの歴史は発見だけではなく、その抗酸化活性が注目され現在でも盛んに研究が行われています。

ビタミンEとは

ビタミンEの構造はクロマン環に側鎖がついたものですが、側鎖が単結合のみのものをトコフェロール、二重結合が3個あるものをトコトリエノールとよびます。また、クロマン環のメチル基の位置によって、それぞれにα−、β-、γ-、δ-の4種類が存在します。よって、ビタミンEは8種類の同属体が存在することになります。
トコトリエノールは天然に存在する量が少ないため、栄養素としてはあまり重要視されておらず、栄養学的にビタミンEといえばトコフェロールを指すことが多いようです。さらに生理活性はα-を100とするとβ-は40、γ-は10、δ-は1になります。α-トコフェロールに比べ他のトコフェロールの生理活性が低いため、栄養表示基準や食事摂取基準では最も活性のあるα-トコフェロールのみで示されています。
 ビタミンEは栄養学的側面のほか、抗酸化物質としての作用も古くから知られていました。ビタミンEは脂質の酸化を防止するため酸化防止剤としていろいろな油脂物質に使用されています。ビタミンEの酸化防止作用は生体内でも行われ、老化防止に関与しているといわれています。これは、生体膜に存在する多価不飽和脂肪酸は酸化に弱く、酸化されると過酸化脂質を生成します。この過酸化脂質が生体膜を傷つけることにより、細胞が死んだり異常細胞が増えたりします。ビタミンEはこの酸化作用を抑えるといわれています。

欠乏症と過剰症

不妊症の因子として発見されたビタミンEは欠乏症として不妊があげられます。それ以外には溶血性貧血や運動障害や神経障害の症状が出るといわれています。また、ビタミンEの抗酸化作用により維持されていた生体が欠乏することにより細胞の癌化や動脈硬化などの疾病リスクが高くなるといわれています。
 ビタミンEには過剰症がないとされていましたが、サプリメントなどで過剰摂取をすると死亡のリスクが高くなるとの報告があります。ただ、通常の食事をしている限りでは過剰症の心配はありません。

ビタミンEを多く含む食品

ビタミンEは植物油や小麦胚芽、種実類などに多く含まれます。特にアーモンドにはかなり多く含まれていますので少量でもよい供給源になります。

食事摂取基準

2000年版までビタミンEの基準は日本人でのデータが少ないため、アメリカの所要量を参考に作られていました。2005年になると国民健康・栄養調査から摂取量と目安量を導き出しています。目安量は成人男性で7〜8mg/日、成人女性で6.5mg/日となっています。耐用上限値は成人男性で800〜900mg/日、成人女性で650〜700mg/日となっています。
【ビタミンK】
(歴史)
 ビタミンKは1929年にコレステロールの研究をしていたH.Damによって偶然発見されました。コレステロール代謝の研究のため脂質除去をした飼料でニワトリを飼育していたところ、皮下出血などが起こることに気づきました。1935年にH.Damはそれまでに知られていたビタミンを飼料に添加しても出血症状は改善されなかったことから、血液の凝固に関与する新たなビタミンがあると考えビタミンKと命名しました。1939年にアルファルファと腐敗魚肉よりビタミンKの単離にに成功しましたが、粘稠状の前者に対して後者は結晶状であったので別物と考えられ、前者をビタミンK1、後者をビタミンK2としました。

ビタミンKとは

ビタミンKはK1からK7まで7種類が知られていますが、一般的には自然界に存在するビタミンK1とK2のほかに合成物のビタミンK3があげられます。ビタミンK1はフィロキノンと呼ばれ植物の葉緑体で産生されるため緑色植物に多く含まれます。ビタミンK2はメナキノンと呼ばれ細菌によって産生されます。メナキノンには多くの同属体(メナキノン-4〜14)が存在しますが、食品中に多く含まれるものは動物性食品に含まれるメナキノン-4と納豆などに多く含まれるメナキノン-7です。K3はメナジオンとよばれ人工的に合成されたものです。メナジオンは人体に悪影響を与えることがわかっているため食品添加物としての使用は認められていません。
 ビタミンKはその発見からわかるように血液の凝固に関与する因子を持っています。これは血漿中に含まれる血液凝固に関与するタンパク質合成の補酵素(酵素の働きを助ける物質)となっているためです。ビタミンKが不足すると、この血液凝固に関与するタンパク質が作られなくなるため出血傾向になります。ビタミンKは腸内細菌でも十分量産生されるため不足することはないとされていますが、腸内環境が未発達な新生児などは出血傾向や血液凝固の遅れなどの症状が出やすいため、ビタミンKを投与して予防をしています。
 また、ビタミンKは骨にカルシウムが沈着するときに関わるタンパク質の生成に関与します。骨粗鬆症の治療にビタミンK剤の使用やビタミンKを多く含む食事をすすめられるのはこのためです。

欠乏症と過剰症

ビタミンKは広く食品に分布していたり腸内細菌からの供給があるため欠乏症になりにくいとされていますが、新生児ビタミンK欠乏症のほかには長期による抗生物質の投与により腸内細菌が減ったり、腸の手術を受けた人などは欠乏症になりやすいといわれています。慢性的なビタミンK不足は骨粗鬆症を誘発するとも言われています。
 ビタミンK1、K2での過剰症はないとされていますが、ある特定の治療薬については拮抗作用があるため注意が必要です。

ビタミンKを多く含む食品

ビタミンK1は植物の葉緑体で産生されるので、緑色植物や海草などに多く含まれます。緑茶葉にも多く含まれますが、お茶として飲むよりも抹茶として飲むほうがよいとされています。ビタミンK2は発酵食品に含まれるため納豆などはよい供給源になります。

食事摂取基準

成人男性では75μg/日、成人女性では60〜65μg/日とされています。1〜2歳児で25μg/日に対して、乳児(0〜11ヶ月)が4〜7μg/日なのは、新生児消化管出血や突発性乳児ビタミンK欠乏症予防のためビタミンK剤の投与が行われることが考慮されているからです。

次回は水溶性ビタミンのビタミンCとビタミンB1、B2を紹介します。
参考文献

・ビタミン総合辞典 朝倉書店

・最新ビタミンブック 主婦の友社

・ビタミンハンドブック脂溶性ビタミン 化学同人

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