財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >AOU研究会の活動について

AOU研究会の活動について

AOU研究会 事務局 山ア 光司
(太陽化学株式会社勤務)
我々ヒトをはじめとする好気性生物は、酸素を利用してエネルギー代謝をおこなっている。平常時、通常体内に取り込まれる酸素の数%程度は、活性酸素種(一重項酸素、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル)となることが知られている。これらの活性酸素種は生体防御として、細菌などから身体を守る働きがあることが知られている。一方で、ストレスや紫外線、喫煙などにより過剰に生成する活性酸素種は生体内でDNAや細胞膜などに酸化的障害をもたらし、老化、発ガンや生活習慣病などの原因の一つとなると考えられている。
 生体内では過剰の活性酸素種から身体を守るため、SODやカタラーゼなどの酵素や、ビタミンCやビタミンEなどの低分子化合物を用いた、活性酸素種消去機構がある。
図1 生体内での活性酸素種の発生と消去
しかし、この消去機構を上回る活性酸素種が発生した場合、食品より摂取した抗酸化物質によって過剰な活性酸素種が消去されると考えられている。
食品中の抗酸化物質は、緑茶のカテキンやブルーベリーのアントシアニン、タマネギのケルセチンなどのポリフェノール類、トマトのリコペン、ニンジンやカボチャのβ−カロテン、イクラのアスタキサンチンなどのカロテノイド類、その他にはタンパク質やアミノ酸、ビタミン類がある。
 米国では、サプリメントを中心にORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)法を用いた抗酸化値の商品表示が行われており、米国農務省(USDA)ホームページでは326品目の野菜・果物の抗酸化値リストが公開されている。このORAC法は、標識物質のFluoresceinが、AAPH由来のペルオキシラジカルで分解される過程を経時的に測定する。抗酸化物質存在下では、Flueoresceinの分解が抑制されるため、抗酸化物質が無い場合(blank時)のグラフに比べてFluoresceinの分解が遅延したグラフとなる(図2)。
 この抗酸化物質存在下とblankのグラフよって囲まれた部分の面積(net AUC)を求め、濃度既知のTroloxでのnet AUCの比を取り、Trolox濃度当たりに換算したものが、抗酸化物質のORACとなる。
図2 Fluoresceinの蛍光強度減少曲線
我が国では、古くから抗酸化性に関する研究が活発に行われ、ORAC以前の多種多用な抗酸化能測定法を用いた評価が数多く行われており、その蓄積は米国よりも多い。しかし、異なる分析法で得られた測定値を比較することはできない。また、抗酸化物質の摂取量と健康影響に関した学術研究が不足している。そこで、我が国においても、適切な食品の抗酸化能指標を目指し、食品の抗酸化力に対する統一した指標「Antioxidant Unit」の確立とその表示の検討を行い、食品における抗酸化物質の普及を通じて国民の健康に寄与することを目的として、2007年に「AOU研究会」を発足した。当研究会は、産(114社(2011年2月現在))、学(6大学以上)、官((独)国立健康・栄養研究所、(独)農研機構等)の連携により運営しており、理事長には大澤俊彦愛知学院大学教授(名古屋大学名誉教授)が選出されている。
図3 AOU研究会理事
抗酸化物質による活性酸素種消去反応機構は、抗酸化物質の種類によって反応機構が大きく二つに分かれる。
一つの反応機構はラジカル捕捉反応で、カテキン、アントシアニジン、クロロゲン酸、などのポリフェノール類や、ビタミンC、ビタミンEで生じやすい。詳細には、HAT(Hydrogen Atom Transfer)とET(Electron Transfer)機構がある。HATは、抗酸化物質が活性酸素種へ水素原子を与えることで活性酸素種を消去する。ETは、抗酸化物質から活性酸素種へ先ず電子の移動を行い、次にプロトンを与えることで活性酸素種を消去する。
 もう一つの反応機構は一重項酸素消去反応で、β−カロテン、リコピン、アスタキサンチンなどの、カロテノイド類で主に生じる。この反応は、物理的消去(Physical Quenching)と化学的消去(Chemical Quenching)の2つが存在するが、主には物理的消去に基づいて発揮される。物理的消去反応では、一重項酸素(1O2)がその励起エネルギーを抗酸化物質へ移すことにより基底状態(通常の酸素:3O2)に戻る。励起エネルギーを受けた抗酸化物質はそのエネルギーを熱として放出し、基底状態に戻る。
 このような抗酸化物質による反応機構の違いから、AOU研究会では抗酸化物質を、ポリフェール系抗酸化物質とカロテノイド系抗酸化物質に分けている。
抗酸化物質の反応機構
米国ではORAC法のみの評価を行っているが、この測定法ではカロテノイド類を測定できず、食品の抗酸化能を完全に評価できていない。また、この二つのグループを同様に評価可能な抗酸化能測定法が無い。そこで、AOU研究会では、それぞれの抗酸化物質に応じた分析方法の確立を行っている。
AOU-P分析法は、ポリフェノール系抗酸化物質を対象とした抗酸化能測定法であり、ORAC法を用いる。USDAの研究者であるPriorらの報告に基づいた測定方法では分析精度が低かったため、AOU研究会では、分析精度をより高めた測定方法を用いている。
 一方、AOU-C分析法は、カロテノイド系抗酸化物質を対象とした抗酸化能測定法であり、SOAC(Singlet Oxygen Absorption Capacity)法を用いる。この抗酸化能測定法は、AOU研究会理事の徳島大学・寺尾純二教授、愛媛大学・向井和男名誉教授、カゴメ株式会社が中心となり開発したものである。測定における反応機序はORAC法と同様で、Endoperoxide(EP)より発生した一重項酸素によって、標識物質である2,5-diphenyl-3,4-benzofuran (DPBF)が分解される過程を経時的に測定する。標準物質はα-tocopherolを用い、抗酸化物質と標準物質のIC50から、標準物質当たりのSOAC値を求める。
 AOU研究会では、AOU-P分析法、AOU-C分析法より得られた値を、それぞれAOU-P値、AOU-C値とし、これらの和をAOU値としている。異なる分析法で得られた値を足し合わせる理由として、実際に商品へ表示された場合、AOU-PとAOU-Cの二つ値が存在すると、消費者を混乱させる可能性が高いためである。しかし、AOU-PとAOU-Cでは値が全く異なるため、AOU-Cに係数をかけることで、AOU-Pと同等の値を示すよう検討中である。
 このようなAOU値を得るための分析法確立と並行し、抗酸化能表示に関した意識調査結果を得ている。これは、太陽化学株式会社が事業主体となり、農林水産省平成21年度新需要創造フロンティア育成事業で行った、日本人1000人を対象とした抗酸化能表示に対する意識調査である。7割以上の方が食品への抗酸化能表示を希望しており、その関心の高さが明らかとなった。
 今後、AOU表示については、関係機関と連携して進める予定である。
著者略歴
京都大学大学院生命科学研究科修士課程修了。生命科学修士。2005年太陽化学株式会社へ入社。2007年3月AOU研究会事務局に所属し、主にAOU分析法確立に関わる。特に、AOU-P分析法の中心となる、H-ORAC分析法の妥当性確認試験に参加、学会発表を行う。
他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.