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脂溶性ビタミン(1)

今回は脂溶性ビタミンの中でビタミンAとビタミンDを紹介します。
【ビタミンA】
(歴史)
 1915年にE.V.McCollumが、牛乳中にネズミの成長に必要な脂溶性と水溶性の未知の栄養素を見出した後、脂溶性因子が欠乏すると成長障害が起こることのほか、眼病になることがわかりました。1922年には脂溶性因子の中の一つをビタミンAと呼ぶようになりました。1931年にはP.C KarrerによりビタミンAの化学構造が明らかにされました。また、β-カロテンが動物の体内でビタミンAに変わることがわかったのもこの時期です。

ビタミンAとは

ビタミンAは、動物の成長や視覚への作用のほか、細胞の正常な分化に必要な化合物です。ビタミンAはビタミンA1系とA2系に大別されますが、普通ビタミンAと言うとA1系のレチノールを指します。ビタミンAはアルコール型のレチノールの他、アルデヒド型のレチナール、カルボン酸型のレチノイン酸があります。これら類縁体を総称してレチノイドとも言われています。また、ビタミンAにはプロビタミンA(吸収の過程でレチノールに変換するもの)としてβ−カロテンなどカロテノイドの一部があります。β-カロテン以外にはα-カロテン、γ-カロテン、クリプトキサンチンなどがあります。β-カロテンはレチノール2分子がくっついた構造をしていますが、吸収の過程では必ずしも2分子分のレチノールになるわけではなく、作用としては重量当たりで1/12しかレチノールに変換されません。しかし、カロテノイドの中では最も変換率が高く、α-カロテンやクリプトキサンチンの倍の変換率です。このことを勘案し、食品成分表や栄養表示ではレチノール1μgは12μgのβ-カロテン、24μgのα-カロテン、クリプトキサンチンに相当するとされています。カロテノイドと聴きなれない言葉が出てきましたが、にんじんやトマトの赤色、みかんの黄色、紅鮭のオレンジ色などがカロテノイド色素といわれています。

欠乏症と過剰症

ビタミンAの欠乏症で有名なのが夜盲症です。夜盲症は俗に鳥目といわれるように暗いところでの視力が著しく低下する暗順応障害です。これは、網膜の視細胞でレチノールが関与するロドプシンという物質の不足が原因です。さらに進むと角膜の障害等が起こり、失明に至ります。夜盲症以外では、皮膚乾燥や粘膜異常があげられます。これらの上皮組織の異常になると抵抗力が低下し感染症にかかりやすくなります。
 一方、過剰症は頭痛や嘔吐、めまいなどの急性症状のほか、皮膚の剥離や肝臓障害などの症状があげられます。これらの症状になるには、相当多量のレチノールを摂取しないとならないといわれています。レチノールは体内で肝臓に蓄積されるため、海産物の肝臓を多量に摂取したときに食中毒として報告されています。海獣の肝臓を食べた探検隊が過剰症になったとの報告もあります。このように過剰症は極端なレチノール摂取によるもので、通常の食生活では起こらないとされています。また、カロテン類は過剰に摂取しても体内に必要量蓄積されるだけで、過剰な分は排出されるので過剰症はないとされています。

ビタミンAを多く含む食品

ビタミンAを多く含む食品は、動物性の食品ではレバー、うなぎ、卵、牛乳、チーズなどの乳製品や魚に含まれるレチノールです。植物性の食品ではにんじん、かぼちゃやほうれん草などの緑黄色野菜に多く含まれるカロテン類です。カロテン類は油によく溶けるため、ほうれん草やにんじんの油いためなど、油と一緒に摂取すると吸収がよくなるといわれています。

食事摂取基準

ビタミンAは欠乏しても過剰に摂取しても健康に害が及ぶため、食事摂取基準で上限値や推奨量が定められています。成人(18歳以上)のビタミンA摂取推奨量は男子で800〜850μgRE/日、女子で650〜700μgRE/日と定められ、上限値は2,700μgRE/日です。(RE:レチノール当量)
【ビタミンD】
(歴史)
 1919年にE.Mellanbyは仔犬を日のあたらない室内で脱脂乳とパンだけで飼育すると、くる病になることを示し、その仔犬に肝油を与えることにより改善することを報告しました。最初それは脂溶性因子と思われていましたが、ビタミンAを分解してもこの効果が失われないことから、この因子をビタミンDと呼ぶようになりました。これとは別にHuldshinskyらはくる病の子供を日光に浴びさせるとくる病が改善したり予防できることを見出していました。

ビタミンDとは

ビタミンDは側鎖の異なるビタミンD2からD7までの6種類があります。D1はD2と不純物(ミステロール)との混合物であることが後に明らかになり現在は欠番となっています。6種類のビタミンDのうち、D4からD7は自然界での存在が少なく生物学的効力も弱いことからビタミンDといえば、ビタミンD2とD3を指します。ビタミンD2は別名をエルゴカシフェロール、ビタミンD3はコレカシフェロールといいます。ビタミンDには前駆体であるプロビタミンDが存在します。ビタミンD2の前駆体はエルゴステロール、ビタミンD3の前駆体は7-デヒドロコレステロールといいます。これらのプロビタミンDは紫外線の照射によりそれぞれビタミンD2とD3になります。7-デヒドロコレステロールは高等動物の皮膚に存在し、紫外線によりビタミンD3に転換し吸収されます。エルゴステロールは紫外線の照射によりビタミンD2になりますが、エルゴステロールで摂取されても体内でビタミンD2に転換されることはありません。つまり、紫外線照射によりビタミンD2に転換されたあとに摂取しなければなりません。
 体内に吸収されたビタミンDは肝臓と腎臓で活性型の1,25-ジヒドロキシビタミンDに代謝されます。この活性型ビタミンDはカルシウムの吸収を高めたり骨の形成を助ける作用があります。また、ホルモン分泌の調節や免疫調節などもあります。

欠乏症と過剰症

ビタミンDは骨の形成作用があるため、不足すると子供ではくる病に大人では骨軟化症が起こるといわれています。適度に日に当たる生活をしている場合はビタミンDの欠乏は起こりにくいですが、屋内や地下などの日に当たらない場所で生活している人や日照に恵まれない地域にいる人はビタミンDの摂取不足による欠乏症が心配されます。高齢者などで屋内での生活が長い場合はビタミンD不足により骨密度が低下し、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まります。
 一方、過剰症は高カルシウム血症、軟組織の石灰化、腎障害があります。サプリメントなどの高含量の食品を多量に摂取すると過剰症になる恐れがありますが、通常の食事をしている分には、ビタミンDの過剰症が起こることはないとされています。

ビタミンDを多く含む食品

ビタミンDを多く含む食品の代表は魚です。かつおは非常に多くビタミンDを含むので、ビタミンDの供給源としては有効です。他、まぐろやしらすにも多く含まれています。また、きのこ類にはプロビタミンDのエルゴステロールが多く含まれますが、摂取前に紫外線照射によりビタミンD2にしておくことが必要です。したがって、干ししいたけは熱風乾燥よりも天日干しのしいたけがよいビタミンDの供給源になります。

食事摂取基準

ビタミンAと同様に脂溶性ビタミンであるビタミンDは上限値や目安量が食事摂取基準で定められています。成人では5.5μg/日が目安量として定められ、上限値は50μg/日です。また、適度に日照を受ける乳児は2.5μg/日、日照を受ける機会が少ない乳児には5.0μg/日が目安量となっています。このことからも乳児の日光浴は大切であることがいえます。

 次回は脂溶性ビタミンのビタミンEとビタミンKを紹介します。
参考文献

・ビタミン総合辞典 朝倉書店

・最新ビタミンブック 主婦の友社

・ビタミンハンドブック脂溶性ビタミン 化学同人

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