財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
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新しい年を迎えて
愛知学泉短期大学食物栄養学科 内藤茂三
1.はじめに
 焼竹輪は魚肉に食塩、でん粉、調味料等を加え、らい潰、成型後加熱して製造されるが、高水分のため非常に腐敗・変敗し易い食品である。そのため焼竹輪の保存性向上を図るためには、より衛生的な管理の下で製造する必要がある。加熱後の微生物の変化を検討すると塩すり身を加熱することにより製品の中心部の温度が75℃以上になると球菌等の芽胞非形成菌は全く検出されなくなる。従って加熱後の製品の変敗は芽胞形成菌又は二次汚染菌に由来する。竹輪の変敗菌は圧倒的に、製造工場での二次汚染菌に由来する。
2.竹輪製造工場の空中浮遊菌の制御
 焼き竹輪製造工場のほとんどは簡易包装製品を主として製造しているため、加熱後の冷却工程中の二次汚染や包装時の従業員による手による汚染がある。従って、加熱処理後に生残した芽胞形成菌以外に製造環境からくる二次汚染による変敗を生じる場合がある。各工程別の空中浮遊菌数をピンホールサンプラーを用いて測定した。らい潰、成型、ばい焼、冷却、包装の各工程の空中浮遊菌数は一般細菌数がそれぞれ0.95、1.20、1.00、2.62、2.30/L(空気)、カビ数が0.10、0.10、0.12、0.05、0.43/L(空気)であった。これらの微生物による変敗を防止する目的で各工程をオゾン処理し、空中浮遊菌数の変化を検討した。検査した工場は各工程が部屋して仕切られていたので各部屋別にオゾン処理を行った。夜間のみのオゾン処理を行い、オゾン処理開始1ケ月後より経時的にこの工場内の30地点のオゾン濃度を測定した結果、各測定地点間における差異は認められず、全て0.02〜0.08ppmの範囲であった。
 オゾン処理によりらい潰、成型、ばい焼、冷却、包装の各工程の空中浮遊菌数は一般細菌数がそれぞれ0.50、0.60、0.50、0.26、0.28/L(空気), カビ数が0.05、0.05、0.10、0.02、0.02/L(空気)となった。いずれの工程においても空中浮遊菌はオゾン処理により減少したが、特に菌数の多い冷却室と包装室において一般細菌数の減少が著しいことが分かった。シャーレ5分間解放法で測定した結果は、ピンホールサンプラー法による結果よりもオゾン処理による空中浮遊菌数の減少は著しかった。これらの原因を検討するため、各工程のオゾン処理前後の空中浮遊菌叢の変化を調べた。
 工場内殺菌のためのオゾン処理は、各部屋にオゾン発生機(無性放電プレート式、空気原料)を設置し、そこから配管を分岐させ、天井からオゾンを放出させ、工場環境を0.02〜0.08ppmオゾン濃度を保つ方法で行った。
最も空中浮遊菌数の多い冷却室の場合、その菌叢はMicrococcus 92%,Bacillus 3%, Corynebacterium 1%, その他4%であった。オゾン処理によりその菌叢はMicrococcus 72%,Bacillus 14%, その他14%と変化した。また対照区のMicrococcus roseus, Micrococcus luteus, Micrococcus flavus, Micrococcus colpogensの菌数はそれぞれ16,19,20,21、/53L空気であったが、オゾン処理区はそれぞれ3,5,1,1/53L空気と著しく減少した。その他の工程においてもMicrococcusについてはほぼ同様の傾向が認められた。Bacillusの場合、らい潰、成型、ばい焼、冷却、包装の各工程の空中浮遊菌数はそれぞれ5,5,15,5,4/53L空気であったが、オゾン処理区はそれぞれ2,2,7,1,1/53L空気に減少した。このようにオゾン処理によるBacillusの殺菌効果はMicrococcusに比較して低いことを認めた。
3.竹輪原材料の菌数の制御
 焼竹輪の菌数及び菌叢は各製品間でかなりバラツキがあることは、従来より知られてきたが、その原因は原材料の差異にある。一般的な焼竹輪原材料の菌数を菌叢を表1に示す。
表1 竹輪原材料の微生物菌数と菌叢
原材料 細菌(/g)  酵母(/g)   カビ(/g)
冷凍スリミ 2.8×105 2.1×102
馬鈴薯でん粉  1.1×103 1.0×10
小麦でん粉 3.0×102 1.0×10
蜂蜜 5.6×102 1.0×10
砂糖 1.6×103 1.3×10
味醂 1.2×10
食塩 1.5×10
グルタミン酸ソーダ 1.8×10
大豆タンパク質 1.0×10
―:検出せず
焼竹輪の原材料は大部分が細菌であり、1g当たりに冷凍スリミ 2.8×105、馬鈴薯でん粉 1.1×103、砂糖 1.6×103検出された。酵母は1g当たりに冷凍スリミ 2.1×102 、蜂蜜 1.0×10、砂糖 1.3×10検出された。カビは1g当たりに馬鈴薯でん粉、小麦でん粉にそれぞれ1.0×10検出された。原材料より検出される細菌は圧倒的にMicrococcusが多く、次いでBacillusである。酵母ではSaccharomyces, カビはAspergillusRizopusが多い
4.竹輪製造工程の菌数の制御
製造工程別の微生物菌数の変化を測定した。工場をオゾン処理する前に製造した時の微生物の変化を表2に示した。また工場を1ケ月オゾン処理後に製造した時の微生物変化を表3に示した。製造工程は、らい潰、成型、ばい焼、冷却、包装の5つの工程の菌数を検討した。
表2 焼竹輪製造工程中の微生物の変化
製造工程 細菌(/g)  酵母(/g)   カビ(/g)
らい潰 1.6×106 1.5×102 1.1×10
成型 2.6×106 2.1×102 1.2×10
ばい焼 7.6×102
冷却 1.7×104 2.8×10  1.0×10
包装 3.7×104 2.0×10  1.0×10
―:検出せず
表3 工場のオゾン処理後の焼竹輪製造工程中の微生物の変化
製造工程 細菌(/g)  酵母(/g)   カビ(/g)
らい潰 2.5×105 1.8×10 1.0×10
成型 1.7×106 2.6×10 1.1×10
ばい焼 1.2×102
冷却 1.9×102
包装 2.5×102
―:検出せず
 対照区の細菌数はらい潰、成型、ばい焼、冷却、包装工程でそれぞれ1g当たり1.6×106、2.6×106、7.6×102、1.7×104、3.7×104となった。オゾン処理の細菌は1g当たりそれぞれ2.5×105、1.7×106 、1.2×102、1.9×102、2.5×102となった。ばい焼後の冷却、包装、包装工程において菌数の増加が少ないのは二次汚染菌が減少したものと考えられる。対照区でばい焼工程以降の冷却工程、包装工程において1.0〜2.8×10/g検出された酵母及びカビはオゾン処理区の同工程において全く検出されなかった。工場内のオゾン処理により空中浮遊菌が減少し、その結果、二次汚染菌が減少したと考えられる。
5.工場の衛生管理
 水産練製品の多くは加熱後包装する製品であり、製品の保存性の向上をはかるためには加熱後の二次汚染が主として問題となる。このため、各製品の製造工程について汚染源及び汚染微生物菌叢を明らかにし、その二次汚染菌を減少させるための対策を行う必要がある。焼竹輪製造工場の空中浮遊微生物は各工程により著しく異なり、特に成型、冷却、包装工程に多い。冷却工程の菌叢はMicococcus 92%, Bacillus 3%, Coryneform 1%,その他4%であった。カニ蒲鉾、焼竹輪、焼蒲鉾製造工場の空中浮遊菌はらい潰工程に多く、Micrococcus 22%,Bacillus 19.5%,Coryneform 11%, Stahylococcus 10%, Pseudomonas 7.5%,その他30%との報告もある。
 焼竹輪専用工場であるため上記の測定結果とは若干異なったが、いずれにしても水産練製品工場はMicrococcusが主要菌種である。Micrococcusが主要菌種である焼竹輪製造工場内をオゾン処理することにより空中浮遊菌を著しく減少させることができた。
 この原因は主要菌種であるMicrococcusの減少に起因し、冷却工程のMicococcus 92%, Bacillus 3%, Coryneform 1%,その他4%がオゾン処理によりMicococcus 72%, Bacillus 14%, その他14%と変化した。Micrococcusの菌種について検討してみるとMicrococcus roseus, Micrococcus luteus, Micrococcus flavus, Micrococcus colpogenesの空中浮遊菌数がそれぞれ16,69,20,21/53L空気であったがオゾン処理によりそれぞれ3,5,1,1/53L空気と著しく減少した。Micrococcusはオゾン耐性がないのでオゾン殺菌が容易であることに起因する。
エタノール、有機酸、ヨード、次亜塩素酸ナトリウムによる工場殺菌も有効であるが、これらは多量に散布すると工場内に残存して耐性菌を作る原因となるので注意することが大切である。
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