1975年、米国産レモンからポストハーベスト農薬として使用された防かび剤オルトフェニルフェノール(OPP)が検出されました。当時、日本ではOPPは農薬等その使用が食品に認められておらず、厚生省は一部を廃棄処分にしました。ポストハーベスト農薬が認められているアメリカとそういった仕組みのない日本の矛盾が起こした事件です。米国側はOPP等の使用を認めるように強く要求し、押し切られる形というか調整する形で厚生省はOPP他ジフェニル、チアベンダゾール(TBZ)、イマザリルを農薬ではなく食品添加物として認可されました。
収穫後の使用目的が防かび剤は食品の保存の目的と解釈され、農薬ではなく食品添加物という範疇で判断されることになりました。その結果「防かび剤」という言葉が添加物基準の中に登場し、ジフェニル、OPP、TBZ、イマザリルの使用がかんきつ類(イマザリルはみかん除く)、バナナ(TBZ,イマザリル)を対象に認められ使用基準ではなく、残存量基準が設定されています。通常食品添加物はバラ売りでは表示をしませんが、防かび剤の場合は通知により表示が必要となり店頭でレモンやオレンジが売られているコーナーには品名とともに「防かび剤(OPP,TBZ)使用」等の表示を見られた方も多いと思います。
米国では、どのように防かび剤は使用されているのかを簡単に紹介します。15年ほど前、ロサンゼルス郊外のかんきつ類のPacking Houseを見学した時の話で大きくは変わっていないと思いますが。大型トレーラーで運ばれてきたかんきつ類は、腐ったものやへたを取った後、大型のラインの中次亜塩素酸ソーダの水洗、OPP溶液のシャワーをかけた後、長いトンネルのようなところを通る間に、TBZとイマザリルが含まれたワックスがコーティングされます。その後人の手で選別され、等級の良いものが日本に輸出されていました。ちなみに米国のさまざまな基準を決めているCFR40の180番台にチアベンダゾールCitrus fruits(POST-H) 10ppm、Bananas(PRE- and POST-H) 3ppm の様にPOST-Hと明確に設定されています。
以上述べた歴史を経て、今の食品添加物の防かび剤があります。しかし、少し事情が変わってきました。上記の4者に殺菌剤フルジオキソニルがポストハーベスト使用で食品添加物防かび剤として登場する予定となっています。従来のかんきつ類、バナナに加えてアンズ、かんきつ類、キウィー、びわ、西洋なし、モモ、リンゴ等計12種類の食品に認められるという予定になっています。フルジオキソニルは1996年農薬(殺菌剤)登録され水稲及び野菜類の種子消毒、各種野菜類への茎葉処理剤として使用されています。事業者からのポストハーベスト使用適用拡大の要請があり、2008年より殺菌剤及び防かび剤としての使用を想定して、食品安全委員会で食品健康影響評価がなされ、1日摂取許容量が0.33mg/kg/日と設定されました。それを受けて、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会で添加物(防かび剤)として指定することが認められています。それに基づき農薬基準及び添加物の基準が併記された案が出されています。さらに、食品表示に関わる権限が消費者庁に移管されたため、ポストハーベスト農薬の表示について食品表示部会で審議されています。変な言い方ですが本格的な収穫後使用農薬の登場という感じです。
このフルジオキソニルの防かび剤としての指定について、消費者グループ等から批判、反対の意見も出ています。従来にない防かび剤の追加のために色々と波紋を呼んでいます。一般の新聞での報道も少なく、知っている人は知っているが、知らない人は知らないという状況です。賛成反対は別として、もう少し皆が関心を持っていもいい問題とだと思います。一つの角を曲がろうという問題ですから。
個人的には、そもそも論に戻るべき事柄と考えています。というのは、やはり食品の保存に使用するから食品添加物の防かび剤にするというところが、やはり無理がきているのだと思います。フルジオキソニルはどう見ても立派な農薬です。適切に使用されれば効果のある殺菌剤です。その使用方法の拡大として収穫後の殺菌効果を狙った使い方をしたものです。ですから、そろそろ農薬の適用範囲として収穫後使用というものもあることを明記していき、それに基づく化学的評価をきちんと行い、圃場での使用に比べれば当然残留値が高くなる可能性はありますから、モニタリングはきちんと行いながら適宜摂取量調査評価を行い公表し、その安全性を担保していく仕組み作りの方が大切と思います。「防かび剤」は食品添加物の一般の人への印象を悪くすることはあっても、添加物の評価をあげることには全くなっていないカテゴリーだと思います。 ポストハーベスト農薬はやはり食品添加物ではなく農薬だと思います。 |