小袋詰千枚漬が青白色に変色し、さらに粘ちょう物質が生成した原因を検討した結果、この変敗品には優先乳酸菌であるEnterococus feacalisとLactobscillus plantarumが死滅して存在せずpHが上昇し(pH4.9)、淡ピンク色をしたFlavobacterium peregrinumが増殖し、さらにBacillus属細菌が増殖して増加して変敗現象を生成させた。千枚漬の製造には乳酸の原料ともいえる糖を十分漬液の中に浸出させる必要がある。そのため下漬後、本漬けを行なっているが、発酵管理、特に温度、食塩濃度、pHの調整を誤ると乳酸生成量が少なくなりFlavobacterium,Bacillus,Saccharomyces属が増殖して変敗の原因となる。通常低温下で約1週間本漬を行なったものを室漬にしたものが良質の発酵漬物ができるが、本漬期間を短期間あるいは長期間行なった場合には、酸濃度の低い発酵漬物となる。この原因として本漬が短期間の場合は、糖の浸出が不充分な状態下で、次の室漬(発酵工程)に移行するため、乳酸の生成量が不足し、酵母の増殖が活発となり、その結果、酵母による乳酸の消費が進行し、十分な酸量を得ることができないことによる。小袋詰千枚漬より9菌株の微生物を分離し、その内訳はEnterococus feacalisとLactobscillus plantarumの乳酸菌2菌株、Flavobacterium peregrinum、Bacillus5菌株、Zygosaccharomyces rouxiiであった。低pH下で増殖可能な菌株はZygosaccharomyces rouxii(pH4.0〜5.0生育可能)、Bacillus cereus (pH4.2〜5.2生育可能)、その他のBacillus (pH4.4〜5.0生育可能)であった。Zygosaccharomyces rouxiiは酸に耐性がないので小袋詰の中では増殖せず、Bacillus cereusが増殖した。
Flavobacterium peregrinumがはpH4.6以下では増殖せず、乳酸菌以外のその他の菌株が増殖してpHが5.0前後となった後に初めて急激に増殖して色素を生産した。なおBacillus cereusは食塩濃度6%まで生育するため、千枚漬の変敗に関与する役割は大きい。
漬け液の塩分が13%以上になると、乳酸発酵を阻害して褐変の原因となる。またBacillus cereus等の二次汚染菌を防止するためには塩酢漬は衛生的な場所で行なう必要がある。ソルビン酸を用いる場合は、酢酸の添加後では溶解し難いためムラが生じ、基準違反の原因となる。
重要なことは漬込み条件の検討であり、主原料であるカブと副原料及び調味液の混合割合、温度、時間が品質管理に重要な役割を果たす。また管理上は漬け込み程度の確認が必要であり、酸度、pH、塩分等をこまめに測定する。
漬物の衛生規範では、製品の要件として次のことをあげている。(1)カビ及び産膜酵母が発生していないこと、(2)異物が混入していないこと、(3)容器包装に充填後、加熱したものにあっては、カビは陰性であり、酵母は検体1gにつき、1000個以下であること。(4)一夜漬(浅漬)は、大腸菌と腸炎ビブリオは陰性であること。 |