財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME > 新しい年を迎えて
新しい年を迎えて
(社)全国はっ酵乳乳酸菌飲料協会 専務理事 森田邦雄
 新年明けましておめでとうございます。
 新しい年を迎え、今年が皆様にとって良い年になることを心からお祈りいたします。
 昨年の夏はかってなく暑い日が続き、秋がこないのではないかと思われたところでしたが、季節は正確なものでその後秋がきて冬となり新年を迎えることができました。
 食品業界を見ますと、昨年は特に大きな事故もなく経過したと思われますが、食中毒の発生状況を見ますと、事件数は猛暑の割には多くなかったかもしれませんが、その原因物質を見ますと、カンピロバクターとノロウイルスによるものがその多くを占め、依然、食中毒に対する基本的な対策の必要性が改めて示されたものといえる年でした。
 行政の動きを見ますと、一昨年9月に設置された消費者庁の動きが特に目につきました。その中で「トランス脂肪酸に関する指針(案)について」(以下指針(案)という)が昨年10月に示され、パブリックコメントを求めた事例が消費者庁の考え方をよく示しているものと思われます。
 トランス脂肪酸の摂取により心疾患のリスクが高められるとの報告があることからWHOは「トランス脂肪酸の平均摂取量は総エネルギー摂取量の1%未満にすべき」と勧告しています。
 我が国のトランス脂肪酸の摂取状況について、食品安全委員会は総エネルギー摂取量の0.6%である(平成19年ファクトシート)としています。
 これに対し、消費者庁は最近の研究では若年層や女性などに摂取量が1%を超える集団があるとの報告があるとして、トランス脂肪酸を含む脂質に関する情報を自主的に開示する取り組みを進めるよう食品事業者に要請しようとしています。
 トランス脂肪酸については、その定義、分析法など個々の問題点もありますが、今回の指針(案)は栄養表示基準を根拠とする行政指導と思われます。そこで栄養表示基準についてみてみますと、その根拠は「健康増進法」にあります。健康増進法では、厚生労働大臣は生涯にわたる国民の栄養摂取の改善に向けた自主的な努力を促進するため食事による栄養摂取量の基準(食事摂取基準)を定めることになっており、熱量と栄養素の量を定めています。
 栄養素としては、その欠乏が国民の健康の保持増進に影響を与えているもの及びその過剰な摂取が国民の健康の保持増進に影響を与えているものについて厚生労働省令において定めています。
 食事摂取基準が定められた栄養素について消費者庁を所管する内閣総理大臣は栄養表示基準を定めることとなっています。
 これは、食事摂取基準が定められていない栄養素については、健康増進法に基づく栄養表示基準を定めることができないこととなっているのです。
 摂取基準、すなわち、どれだけ摂取すべきか、摂取してはいけないのかの物差しが作られたものについて栄養表示基準が定められるのは、国民がその栄養素についてどれだけ摂取すべきか判断が可能となるからです。
 トランス脂肪酸については、現在厚生労働大臣の食事摂取基準が定められておりません。
摂取の判断基準が定められていないものについて、行政指導とはいえ表示等を指導するのは食品事業者及び消費者の双方がいたずらに混乱するばかりであり、私としては、指針(案)を設定することは反対である旨コメントを提出したところであります。
 仮に、表示が必要であるとしたとしても、その前に、トランス脂肪酸の安全性評価をする必要があります。食品安全委員会において必要があれば耐容一日摂取量(TDI: Tolerable Daily Intake)を設定し(リスクアセスメント)、それに基づき厚生労働省において、必要な食品のトランス脂肪酸の成分規格を設定するか、トランス脂肪酸の多食者に対する食事指導を行う等のリスクマネージメントを検討すべきと思われます。リスクアナリシスに基づく行政を基本としてきた食品の安全確保については、基本を大切にしていく必要があるのではないでしょうか。そのためにも関係する省庁の連携をしっかりしてもらう必要があります。
 今年も、消費者庁は食品の表示についていろいろな動きがあると思います。食品の表示については、単に消費者から要望があるから表示させるということではなく、表示についてその権限が消費者庁に一元化したことを機会に、表示について基本的な考え方を整理する時に来ているのではないでしょうか。
 食品の表示はその情報を多くの方に知らせるための重要な方法であることは言うまでもありません。
 表示については、必ず表示すべきもの、表示をしてはいけないものについて明らかにする必要があります。必ず表示すべきもの、すなわち表示を義務付けるものについて考えますと、何の目的なのか、だれのためなのかを明確に区分し、その必要なものの優先順位をつけることが重要です。
 その目的としては1 人の健康被害を防止するため、2 不正な取引を防止するため、3 品質の確保を図るため、4 消費者の選択に資するため等に分けられると思います。
 1、としては、消費期限、保存条件、アレルギー物質、栄養成分等 2、としては内容量等 3、としては、原材料、原料原産地等 4、としては、使用添加物等が考えられます。
 表示の対象者としては、消費者、食品事業者及び行政機関に分けることができます。消費者及び食品事業者に対する表示は多くのものが共通すると思われますが、行政機関に対して必要なものとしては、食品の分類を明確にするためのもので、それにより、法律に規定される成分規格があてはめられるため必要となります。たとえば加熱後摂取冷凍食品について、凍結させる直前に加熱されたものであるかどうかの別、加熱食肉製品について容器包装に入れた後加熱殺菌したものか、加熱殺菌した後容器包装に入れたものかの別などの表示は消費者にとってあまり意味のない表示となりますが、法律に違反するかどうかの判断にはとても重要な表示となります。
 食品の表示については、表示ができる面積の大きさにより記載する内容も制限されること、あまり多くのことを表示すると何が重要な情報かの判断も困難になること、また高齢化社会において、小さな活字による表示は読むのも大変で大きな活字で読みやすくとの要望も強い今日、食品の表示については、一度すべての表示を白紙に戻し、何を表示すべきかの優先順位に基づき表示義務を課していくことを検討する必要があるのではないでしょうか。
表示を例にしましたが、新しい年が、消費者にとっても食品事業者にとっても、すなわち国民が納得する行政施策が講じられることを期待するものであります。
他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.