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必ずうまくいく!!一般的衛生管理(その3)
1.洗浄方法の考え方
 食品製造において洗浄は中心的な手段になります。食品7Sでは、洗浄は7Sの最終到達目標である微生物レベルでの清潔な衛生状態を確保するために行うものと考えられています。前号では清掃について述べましたが、洗浄前に正しい清掃を行うことにより洗浄の効果が期待できます。さらに正しい洗浄を行うことによりその後の殺菌では最大限にその効果が発揮されます。その結果、最大限に殺菌の効果が発揮されることにより微生物レベルでの清潔を達成することが可能となります。
 洗浄方法を考える場合、いきなり設備・機械・器具の検討から取り組んでしまうことがありますが、微生物レベルでの清潔を確保するためには製品に直接接触する部分(フード・コンタクト・サーフェイス)を基点に計画をすることが大切です。初発の菌数が少なければ少ないほど殺菌に要する時間が短時間でできるようになりますので、これを達成するには、製品や食材に直接接触する部分である設備・機器・器具が正しく洗浄されていることが大きく影響してきます。
2.洗浄の三要素
 洗浄により良好な衛生状態を確保するには、(1)洗浄剤(2)物理的な力(3)温度の三要素を組合わせることが重要です。 
3.洗浄力と界面活性剤との関係

 洗剤に用いられる界面活性剤は、水の中で一定の濃度を超えるとミセルという集合体をつくります。界面活性剤の濃度が高まると表面張力は低下していき、ある濃度で一定値に達し、それ以上は濃度が高まっても表面張力の変化はほとんどありません。この表面張力が一定になる点が臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)といいます。界面活性剤が洗浄に作用する場合には、汚れに対して界面活性剤を吸着させることが必要ですが、汚れを基質から剥がしたり、汚れを微細に分散させると、汚れの表面積が増大するため、汚れの程度に応じて新たに界面に吸着させるための界面活性剤を補給する必要が生じてきます。十分な洗浄効果を得るには、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度以上であることが必要です。また計量ミスのような人的ミスにより洗浄効果の不足や洗浄剤の残留の問題が発生しないよう、現場で希釈方法が人目で確認ができるよう見える化などの仕組みを導入することも大切です。

4.洗浄方法の種類について
(1)ブラッシング洗浄
 汚れをかき取り、洗い流すという点では洗浄方法の中で最も確実で効果的ですが、人の手で洗浄する場合、時間と労力がかかります。また機械で洗浄する場合、機械の保守点検と管理が必要です。
(2)高圧洗浄
 ノズルから高圧で噴射されるため、人の手で洗浄し難い箇所を行うことや洗浄作業時間の短縮が可能です。ただし、近距離から実施した場合に汚れや洗浄剤が飛散するという欠点があります。
(3)泡洗浄
 泡やゲルを被洗浄面に付着させ、汚れを分解する方法です。
(4)定置洗浄(CIP:Cleaning In Place)
 設備や配管等の器具を分解せずに洗浄液を循環することにより、汚れを除去する方法です。洗浄機構としては、スプレーノズルや散水ノズルなどによる回転や洗浄ヘッダーにより洗浄液を噴射させたり、配管内で洗浄液を乱流させたりすることにより汚れを除去させています。分解や組み立て時間が短縮できるだけでなく、目視での確認がし難い箇所や人の手で洗浄し難い箇所を洗浄することができるという利点があります。このような利点もありますが、接続部のような箇所はパッキン等が劣化している可能性もあり、異物混入対策ということで定期的に確認を行っておくことも重要です。
5.手洗いについて
 食品衛生では、洗浄や殺菌と並んで手洗いが大切な行為であることはいうまでもありません。手指が最も汚染を受けやすく、手指を介した食中毒が多く発生していることから手洗いを適宜行い、手指を清潔に保つことが重要であります。
5-1.従業員の衛生管理ポイント
 従業員の衛生管理ポイントは、手の衛生、身嗜み、健康管理ですが、このうち手の汚れはどこからくるかを以下に示します。
(1)外部から付着する汚れ
 ・埃、土、動植物、腐敗物、排泄物など
(2)体から出る汚れ
 ・皮脂、汗など
(3)微生物
 ・大腸菌群、大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオなど
5-2. 衛生的な手洗いのタイミング

 手洗いのタイミングも正しく行われないと食中毒の原因につながります。チェックすべきポイントを以下に示します。
(1)作業開始前
(2)作業が変わる時(生食材の取扱から別作業に変わる時、品出しから調理に変わる時)
(3)汚物(ゴミなど)を触った時
(4)用便後

5-3.手洗い設備のチェックポイント

 手洗い設備でチェックすべきポイントを以下に示します。
(1)必要な場所に設置されているか?
(2)蛇口のセンサーは正常に作動しているか?
(3)洗浄液供給センサーは正常に作動しているか?
(4)爪ブラシが設置されているか?
(5)ペーパータオルが補充されているか?
(6)ペーパータオルを捨てるゴミ箱には足踏みペダル等、手を触れずに開閉できるフタがついているか?

5-4.手指消毒設備のチェックポイント

 手指消毒設備でチェックすべきポイントを以下に示します。
(1)必要な場所に設置されているか?
(2)消毒液供給センサーは正常に作動しているか?
(3)消毒液は補充されているか?

6.不十分な手洗いによる食中毒発生
 衛生的な手洗いが不十分な場合に食中毒が発生することがあります。最近の冬の食中毒の主原因であるノロウィルスについて言えば、感染した人が十分に手洗いをせずにウィルスが手に付着したまま製造や調理を行い、手に触れた場所を通じて施設内で感染を拡大させてしますことがあります。またノロウィルスには症状が現れない不顕性感染(ふけんせい)」というケースがあります。不顕性感染者は症状に自覚が無いため、二次感染は有症感染者だけでなく、不顕性感染者の手指を介して拡大させることもあり、常日頃から手洗いを決められた手順どおり行うことが重要です。症状の消失後、2週間程度はウィルスの排泄が続くのでこの間は製造室内や調理室内での業務に就かないことが基本です。  
 ノロウィルスに限らず、不特定多数の手指が接触することにより、一般的に汚染を受けやすいため、常に清潔にしておくことが必要な箇所を以下に示します。
(1)冷凍庫・冷蔵庫・ショーケースの取っ手
(2)手洗い蛇口
(3)機器のスイッチ
(4)ドアノブ(特にトイレや現場への入出口など)
(5)アルコールスプレーの取っ手
(6)スイングドア
まとめ

 異物混入のような物理的危害は目に見えるものも多く、整理・整頓・清掃・躾を実践し確認することで危害を低減させることができますが、微生物が原因で発生する食中毒のような生物的危害は目に見えないため、洗浄・殺菌・躾・清潔を実践し、その効果を検査により確認していくことが必要です。また食物アレルゲン物質のような化学的危害が残存する場合には洗浄不足が原因であることが考えられますが、これについても同じく目視で確認することができないため、洗浄・躾をきちんと実践し、検査により確認していくことが必要です。いずれの場合もまず正しい洗浄をきちんと手順どおり行うことが前提条件になります。
 従来のやり方で行っているとポイントを外して折角の作業も意味がないものになって仕舞いかねません。サナテックでは、専門スタッフが食品製造における5Sは元より7Sの洗浄・殺菌についても指導を行い、その効果検証のための検査のサポートも行っています。

参考文献
1)米虫節夫、角野久史、冨島邦雄 監修
ISO22000のための食品衛生7S実践講座
(第1巻)食の安全を究める食品衛生7S(導入編)
(第2巻)食の安全を究める食品衛生7S(洗浄・殺菌編)
(第3巻)食の安全を究める食品衛生7S(実践編)
日科技連出版、2006.02.20 発行、A5版
2)米虫節夫ほか著:「HACCP実践講座 第3巻 こうすればHACCPシステムが実践できる」日科技連出版,2000.
3)新名史典、村松寿代、田原美恵子:第20回ノロウィルス〜現場対策〜月刊HACCP,2007年12月号
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