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この法律による事業者の要件は、大きくわけて、「記録の作成・保存」と「産地情報伝達」の2つである8。 |
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事業者は、対象となる米や米加工品を入荷したときに、品名・数量・入荷年月日・取引先、搬入した場所を記録する。「加工用米」「飼料用米」のように、政府が用途を限定した米については、その「加工用米」「飼料用米」である旨を記録する。産地情報伝達が実施される2010年7月以降は、米の産地も記録する(ただし、米穀・米菓生地・米こうじ以外であって、最終的な一般消費者販売用の容器包装に入れられ、かつ、当該容器包装に原料米の産地が印刷等により表示されているものについては、産地の記録は必要ない。記録省令第2条第1項第2項)。また、対象となる米や米加工品を出荷したときは、品名・数量・出荷年月日・取引先、搬入した場所を記録する(法律第3条)。
そして、それらの記録を、原則として3年間保存する(法律第6条、記録省令第7条)。保存する媒体は、納品伝票のような書類でもよいし、受発注や物流管理のための情報システムでもよい。
米トレーサビリティ法が検討されはじめたとき、「トレーサビリティには膨大なコストがかかる」「生産者ごとに分別管理しなければならないなら大変だ」といった懸念を受けた。しかし実際には、この記録の作成・保存の部分については、後に産地情報伝達の要件のところで述べる産地情報の記録を別にすると、「膨大なコストが生じている」という声をきかない。
事業者間の取引において、品名・数量・年月日・取引先といった基本的な情報は、もともと記録されていることが多い。しかも、「税法上の証憑書類として、もっと長い期間、税務署に求められている」という事業者も少なくないだろう。 |
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図1 入出荷の記録の作成 |
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この法律では、対象となる米や米加工品を、最大限どういう単位で把握すべきか(識別単位の定義)についての要求がない。例えば牛肉トレーサビリティ法は、飼養段階では1頭単位で識別し記録することが求められており、加工・流通の段階でも、1つのロットとして扱えるのは、最大50頭分までと決められている(ひき肉等を除く)。米トレーサビリティ法には、こうした識別単位の定義がない。それにともなって、「ロット番号」のような識別記号を原料や製品に表示したり記録したりする義務もない。
また、「入荷したものと出荷したものの対応関係を明らかにするための記録」、いわゆる内部トレーサビリティについても、努力義務に留められている。 |
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米の産地情報伝達は、法律の対象となる製品に使われた米の産地の情報を消費者に伝達するよう販売者に対して義務付ける。表示だけでなく、店頭に掲示したり、電話・webで問い合わせに応えたりするなど、手段を選択することができる。外食のような、製品への表示が困難な場面でも、消費者への産地情報伝達が実現することが意図されている。産地は基本的は国名であり、国内産については県名など知られた地名でもよい。 |
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図2 一般消費者への産地情報伝達の手段 |
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出典:農林水産省「<パンフレット>米トレーサビリティ法の概要(平成22年3月版)」、2010年2月。
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/keikaku/kome_toresa/pdf/pmh-1021.pdf |
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この産地情報伝達の実行を巡っては、事業者の業種や取り扱い品目にもよるが、新たな負担を生じさせがちである。この産地情報伝達にともなう事業者の負担については別稿9で記したが、以下、代表的な負担について述べる。
加工食品の原料として使われた米の産地が決まっていて変更が生じないならば、包装資材にあらかじめ産地を印刷しておくことにより、対応できる。しかし、特に米菓では、もともと国産米・輸入米の両方を使ってきた事業者が少なくない。同一の製品であっても、製造する時期によって米の産地が変わることがある。あらかじめ容器・包装に産地を印刷しておくわけにはいかないので、賞味期限日表示と同じように、製造ラインに印刷機を取り付けて、包装の直前または直後に印刷することになるだろう。この場合は、印刷機の導入と、日々の設定確認が必要になる。
最終製品に産地表示をするのではなく、問い合わせ先やロット番号等を製品に明記したうえで、webで情報開示をする、または電話で問い合わせに答える、といった方法を取ることもできる。この場合は、製造業者がwebや電話問い合わせ窓口を設け、回答するための情報を用意する必要がある。そのうえ、製造業者が出荷する際に、産地(または産地がわかる記号)を記録しなければならない。卸売業者や小売業者も、最終製品に産地表示がない場合には、入荷・出荷のたびに産地(または記号)を記録しなければならない。 |
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8 法律の対象品目や要件についての詳細は、農林水産省が作成し広報に用いている以下の資料を参照いただきたい。
農林水産省「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律、政省令の概要」2009年12月。http://www.maff.go.jp/j/soushoku/keikaku/kome_toresa/pdf/seisyou_rei_gaiyou.pdf
9 酒井 純「米トレーサビリティ法実施の負担と効果を考える」、「農業と経済」2010年11月号。 |
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