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生めんの微生物変敗と工場衛生管理
愛知学泉短期大学食物栄養学科 内藤茂三
1.はじめに
 生めんは水分含量が36〜38%と比較的高く、保存性も低い食品であり、製造工程、流通過程での適切な処理がなされていないと変敗しやすい食品である。めん類の衛生管理の指標として、1991年4月に「生めん類の衛生規範」が示され、また1996年5月の食品衛生法改正で、総合衛生管理製造過程によった製造の承認制度の導入が盛り込まれ、食品製造の衛生管理におけるHaccp方式が厚生労働省の認知を受け、各分野の製造業者も自主努力をしている。現在、全国に4000〜5000社ある生めん類の製造業者の経営規模は90%以上が月産で小麦粉百袋未満の中小企業であり、衛生管理が不十分なところが多い。生めんの衛生規範では大腸菌、黄色ブドウ球菌が陰性、生菌数が3.0×106/g以下である。生めん製造工場で製造した生めんが、貯蔵流通過程で膨張し、エタノール臭が発生し、更に変色現象が生じている。これは、製造工程で二次汚染した乳酸菌に由来するものである。生めん製造工程中の乳酸菌汚染について調べ、衛生管理について検討した。
2.生めん原材料及び製造工程中の微生物の変化
 生めん工場は比較的乾燥しているため、微生物の増殖は著しくない。しかし小麦粉等の有機物が多く工場内に散乱しているため二次汚染菌や機械等に付着した汚染菌が多い。生めんは製造工程に殺菌工程がないため、原料である小麦粉の微生物及び製造工程中での二次汚染微生物がそのまま最終製品に移行することとなる。また水分が37〜40%と比較的高いため、生めんは非常に腐敗しやすい食品である。生めんの原材料及び製造工程中の微生物の消長を表1に示した。小麦粉には2.0×102/g、食塩水に30以下/gの細菌が検出された。小麦粉に食塩水を添加後の細菌数は、混合して1.2×103/g、複合後に5.1×103/g、圧延後に7.2×103/g、細断後に1.5×104/g、包装後に3.2×104/gとなった。これらの工程の乳酸菌の分布状況を検討した結果を表2に示した。乳酸菌は複合工程以降の工程で検出され、圧延、細断、包装工程で増殖したものと考えられる。製品の乳酸菌汚染は複合、圧延、細断、包装工程からの二次汚染であると考えられたため、製造工程別に落下菌を表3に及び工程からの付着菌を測定した結果を表4に示した。工場全体で細菌の落下菌が10〜20CFU(Colony Forming Unit)/シャーレ5分間解放と比較的多く、特に混合、複合工程に多く認められ、それらのうち約15%が乳酸菌であった。またピンホールサンプラーで測定した浮遊菌も平均して20〜40/53L空気であった。さらに付着菌は製造工程が進むにつれて増加し、特に細断工程で著しく増加した。表5に生めんの膨張変敗品と正常品の微生物菌数及び菌叢を測定した結果を示した。膨張変敗品より5.7×107/g、正常品より6.3×103/gのLactobacillusを検出した。その他の微生物ではBacillusMicrococcusをそれぞれ3.4×103/g、5.1×104/g、正常品より2.8×103/g、5.2×103検出した。なお正常な生めんのpHは5.86、膨張変敗品のpHは5.21であり、水分はいずれも37〜38%であった。
3.生めんの膨張現象と原因微生物
 膨張した生めんよりLactobacillus 2菌株、Bacillus 4菌株、Micrococus 2菌株を検出した。また正常生めんよりLactobacillus 1菌株、Bacillus 3菌株、Micrococus 2菌株を検出した。工場の落下菌よりLactobacillus 2菌株、Bacillus 4菌株、Micrococus 2菌株を検出し、製造工程の付着菌としてLactobacillus 2菌株、Bacillus 2菌株、Micrococus 2菌株を検出した。これらの分離した微生物を生めんの練り水に2.5×105/gになるように添加して生めんを製造して、30℃で7日間保存して膨張経過を検討したした結果を表6に示した。膨張現象を示したのは乳酸菌を添加した製品のみであった。同時に包装内のヘッドスペースガスからエタノール、炭酸ガスを検出した。
 膨張した生めん等より分離した6株の乳酸菌の形態的、生理的性状を検討した。いずれの菌株もグラム陽性の桿菌であり、MRS培地でガスの発生が認められ、5℃では増殖が認められたが、45℃では増殖が認められなかった。6菌株とも、グルコース、フルクトース、グルコン酸に発酵が認められ、リボースに微弱な発酵が認められ、マンノースについては発酵が認められなかった。これらの菌株はすべて乳酸以外に酢酸を生産したところからヘテロ型であり、同じ種であった。ガス発生が認められたグルコースを炭素源としたMRS培地の培養液上清中には0.82%の乳酸と0.32%のエタノールが検出された。精製後の乳酸溶液のD乳酸は0.32g/L、L乳酸は0.43g/Lであったので生成乳酸はDL型と判定した。ペプチドグリカンタイプ(DAP/非DAP)の判定を行なったところRf値が0.38であること、発色が紫であることから細胞壁は非DAP型であった。加水分解後のペプチドグリカンのアミノ酸組成はLys:Glu:Ala:Aspは0.92:1:1.8:0.55であったのでペプチドグリカンのタイプはLys:Asp型と判定した。グルコースからガスとともに乳酸、エタノールをほぼ等モル生産したことからヘテロ発酵型のLactobacillusと考えられ、標準菌株と比較したところLactobacillus fructivoransと同定した。
4.小麦粉のオゾン処理による生めんの乳酸菌の抑制
 生めん工場の二次汚染菌や機械に付着した微生物の影響を防止するために小麦粉にオゾン処理を行い、初期に残存するオゾンを利用して乳酸菌の生育防止について検討した。オゾン処理した小麦粉(オゾン濃度5ppm、60分、10℃、流量100L/分)を用いて生めんを製造し、製造工程中の微生物数の変化、特に乳酸菌数の変化を測定した結果を表7に示した。無処理小麦粉で製造した場合、工程が進むにつれて菌が増加したが、オゾン処理した小麦粉を用いた場合は製造工程中の菌は若干増加するものの乳酸菌の増加は少なかった。無処理及びオゾン処理した小麦粉で製造した製品の保存中における微生物は、オゾン処理した小麦粉で製造した製品では細菌の増殖が約7日間抑制された。オゾン処理小麦粉で製造した小袋詰包装生めんの製造工程における乳酸菌の変化を表7に示した。これは小麦粉のオゾン処理により初期に小麦粉に残存するオゾンにより菌数が減少するためである。オゾン処理濃度により菌数の抑制効果が異なった。乳酸菌はオゾンで容易に殺菌することができるので、製造工程中に汚染されるLactobacillus fructivoransは小麦粉中に微量残存するオゾンによりその増殖は著しく抑制され、生めんの膨張現象はほぼなくなった。
5.生めん製造工場の殺菌
  生めん製造工場の6月と12月における空中浮遊微生物を測定した結果を表8に示した。
BacillusMicrococcus、乳酸菌、大腸菌群、酵母、カビについて製造工程毎の6月と12月の比較では明らかに12月より6月の高温高湿期に多い傾向が認められた。生めんは最終製品が無加熱であるため大腸菌群、乳酸菌、カビの二次汚染が多い。
 工場のオゾンガス処理を行なった。オゾン発生装置より連結した穴のあいたパイプを天井に設置してオゾンを流した。工場のオゾン濃度を検討した結果、0.05〜0.18ppmが最適であった。オゾン処理後に空中浮遊微生物を測定した結果、大腸菌群、乳酸菌が著しく減少した(表9)。このように生めん工場をオゾン濃度0.05〜0.18ppmで夜間のみ1日5〜6時間処理を約1ケ月行なうことにより乳酸菌は著しく減少した。
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