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必ずうまくいく!!一般的衛生管理(その2)
1.食品衛生の基本的な概念
 食品製造において安全性が確保された食品を消費者に供給するためには、次の三条件が
を満たす必要があります。
 (1)有害微生物に汚染されていない安全な原材料を使用すること
 (2)有害微生物の汚染がない清潔な製造環境を確保すること
 (3)衛生的な取扱いにより有害微生物の増殖を防止、排除すること
上記三条件を満たすことにより、微生物による食中毒予防の三原則である「汚染防止(つけない)」「増殖防止(増やさない)」「排除(やっつける)」を達成することができます。これら食品衛生管理の基本的な概念を図1に示します1)
 
図1 食品衛生管理の基本的な概念
小久保彌太郎編:現場で役立つ食品微生物Q&Aを改変
2.一般的衛生管理における微生物検査
 一般的衛生管理プログラムを社内で自主的な衛生管理の活動として推進していくために多くの食品企業が微生物検査を導入しています。微生物検査はHACCPシステムにおける危害分析や検証、モニタリングを実施する目的にも利用され、検査の結果により食品の品質あるいは安全性を客観的に評価することができます。一般的には病原微生物まで包括し広範囲での汚染状況を把握できる衛生指標菌を検査対象とすることが合理的です。
 対象となる微生物を以下に示す。
 (1)衛生指標菌(一般細菌数(生菌数)、大腸菌群、大腸菌、カビ、酵母など)
 (2)腐敗原因菌(乳酸菌、耐熱性好酸性菌など)
 (3)食中毒原因菌(黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、リステリア・モノサイトゲネス、
    カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、腸管出血性大腸菌、セレウス菌、ウェルシュ菌、ボツリヌス菌など)
3.自主衛生検査の簡易・迅速化
 製造工程管理における異物混入確認(金属検出機、X線検出機)と異なり、微生物や食品残渣が洗浄により除去できたかは目視で確認ができないため、現在、自主衛生管理のための検査では簡易・迅速化を目的として様々な製品が開発されています。
3−1拭き取り検査
 作業台、機器、器具、作業従事者の手指に付着している細菌数、真菌数を調査するために用いられます。代表的なものとして、スワブ法とスタンプ法があります。これらは培養を必要とする菌数測定法です。
【スワブ法】
 物体の表面に付着した微生物を麺棒やガーゼなどで拭き取って捕捉する方法です。拭き取り後は滅菌希釈水で溶出し所定の培地で培養することで微生物の数を算出し、凹凸のある物体でも検査が可能です。
【スタンプ法】
 既製の寒天培地面を検査材料表面に一定の圧力で押し当てることで微生物を直接培地面に移し取り、それを培養して発育集落を測定します。取扱が手軽であることから、調理台やまな板などの調理器具の汚染度検査に広く採用されています。但し、凹凸のある物体、蛇口やツメの部分、指の間など狭い場所、傷などに侵入した微生物を検出する測定にはあまり有効ではありません。
3−2 ATP法
 ATP(adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)は生体内の酵素反応のエネルギー源などに利用される物質です。生命活動が行われたところにはATPが存在するため、ATPの存在は生物(微生物)の存在の可能性を示しています。また食品にも含まれることから食品の残渣の有無判定にも利用ができるため、潜在的な微生物増殖の原因を発見し、環境の清浄度の迅速測定によく用いられています。結果の判定には10秒程度しか要しないため、現場でのタイムリーな現状把握、管理・指導が可能となり、PDCAサイクルをまわしながら作業従事者の衛生意識を向上させるためには効果的です。
 例えば容器の洗浄の適正確認にATP検査を利用し、基準を満たさない場合は洗浄をやり直しさせ、再度測定して基準を満たすことを確認します。結果が良ければそれで終了にせず、最初の測定で基準を満たしていなかった原因をきちんと究明することが重要です。原因としては、(1)洗浄不足により食品残渣が残存していたこと、(2)汚れた洗浄器具を使用したことからの二次汚染、(3)洗浄剤や除菌剤の選定が適切でなかったこと、(4)器具の保管方法や場所に問題があったことなどがあげられます。スワブやスタンプの検査結果も併用しながら原因を特定し適切な改善措置を講じて自主衛生管理のレベルを高めていくことが大切です。サナテックでは除菌剤の効果試験を受託しており、各製造施設や調理施設に最も適した除菌剤を選定するサポートを行っています。
4.まとめ
 自主的な衛生検査により管理状態を評価することは、作業従事者にとって自らの管理状態が適切なのか否かを掌握することができ、口頭での精神論的な注意よりもはるかに効果的です。拭き取り検査の結果は製品や食材の微生物検査の結果にそのまま反映されます。数字は日頃の管理状態をそのまま反映し、嘘をつかないので、例えば長年にわたって自分のスタイルを貫いてきた職人肌の調理従事者の意識を大きく変えることが可能です。評価を行うためには、関係者が十分に協議し目的と手段を理解した上で自社内の規格基準や合否の判定基準を設定することが必要です。今回ご紹介しました簡易法は市販品が種々あり、製造や調理に従事されている方でも容易に入手できますが、弊財団でも拭き取り調査とその結果に応じた改善サポートを行っております。導入を検討されたり、運用に際して問題やお悩みがございましたら、是非お問い合わせください。
参考文献
1)小久保彌太郎編:現場で役立つ食品微生物Q&A,中央法規出版(株)(2007)
2) 辻裕文:食品製造工場における自主衛生管理について,食品工業,第53巻 第10号 2010年5月30日号,(株)光琳,(2010)
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