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「必ずうまくいく!!一般的衛生管理(その1)」
1.一般的衛生管理とは?
 HACCPシステムでは前段階である前提条件プログラムをPP(Prerequisite program)、ISO22000ではPRPと呼ばれます。ISO22000では、食品安全ハザードの分析とその評価に基づいて、これらのハザードを前提条件プログラム(PRP)、オペレーションPRP、HACCPプランの3つの組み合わせによって管理すべきことを明確にしています。(表1参照)
 前提条件プログラムは、1991年にカナダ政府の食品検査局(Canadian Food Inspection Service)が食品安全推進プログラムを公表した時に提唱された考え方であります。システムの構築を行う際の土台となる基礎的な管理プログラムであるため、「一般的衛生管理プログラム」と呼ばれています。また一般的衛生管理はAIBフードセーフティ、健康補助食品GMP、各自治体が行っている認証制度などにおいても仕組みの構築には欠かせないものであります。
 本稿では、前提条件プログラムは一般的衛生管理という言葉を用いることにします。
表1. PRP,OPRP,HACCPプランの関係
PRP(前提条件プログラム) OPRP(オペレーションPRP) HACCPプラン
・工場や施設全体で設定
・個々の製品の取扱いに関するものではない
・製品や工程毎のハザード分析で明確にされたハザードを受容可能なレベルまで管理する手段の設定 ・製品や工程毎のハザード分析で明確にされたハザードを受容可能なレベルまで管理する手段の設定
・衛生的な製造を維持するための周辺環境の処理や人やモノの取扱い ・HACCPプランでは管理されることがないような管理手段を管理する ・CCPで適用される管理手段を管理するもの
・直接的或いは明確に製品のハザードを制御する手段ではない ・間接的な製品に対する管理 ・直接的な製品に対する管理
2.一般的衛生管理が適正に運用されるために必要な項目とは?
・食品7S〔整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌・躾(習慣)・清潔〕の確実な実施
・管理に必要なルールを必ず守り、守られたことを確認(管理)する
・現場で必要となる知識の従業員への教育訓練
表2.食品7Sの概念(米虫節夫編:食の安全を極める食品衛生7S(導入編)を一部改変
 
表3.一般的衛生管理と食品7Sとの関係
一般的衛生管理プログラムの項目 整理 整頓 清掃 洗浄 殺菌 しつけ 清潔
施設設備の衛生管理
施設設備、機械器具の保守点検
従事者の衛生教育
従事者の衛生管理
鼠族、害虫の衛生対策  
使用水の衛生管理  
排水及び廃棄物の衛生管理
食品等の衛生的な取り扱い
製品の回収プログラム
製品等の試験検査に用いる設備等の保守管理            
3.食品7Sとそのメリット
 食品7Sの概念を表2に示します。
 整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌は、目的である清潔を得るための手段であり、手順書などにより決められたことを確実に実施するための動機付けが躾(習慣)となります。確実に実施するためには関係者が十分な理解と納得を得ることが必要です。また、手順書に従った作業を担当者に行ってもらうためには教育訓練が必要です。手段としての整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌と躾(習慣)の正しい運用によってもたらされる結果が清潔です。
 整理・整頓は、清掃・洗浄・殺菌を行う前提条件となり、整理・整頓ができていれば、効率の良い清掃・洗浄・殺菌が期待することができます。
 品質保証システムの仕組みを構築するには食品7Sが欠かせないものであります。そのことを示したものが食品7Sと一般的衛生管理との関係(表3)です。食品7Sを正しく実施することにより、一般的衛生管理の項目の大半を満たすことが可能となります。
 このように、食品7Sによりもたらされるメリットは、前提条件を正しく実施することで作業環境がきれいになる(所謂清潔になる)ことにあります。次いで清潔な作業環境で製造を行えるようになり、工程中のトラブルや製品クレームは激減し、品質の高い製品を顧客に提供することが可能となります。安全な製品は顧客に安全と安心を与え、その結果、顧客から信頼を獲得することができることで、売上も増加することが期待できます。更に副次的な効果としては、余分な作業(ムダな作業)が減り、作業者にとっても労働負荷や作業時間を軽減することができます。このように効率化によって原価を下げることが可能となった製品は、価格競争で優位にたち、増益により経営も安定することとなります。
4.一般的衛生管理がうまくいかない理由
 現場で一般的衛生管理がうまくいかない場合の原因の多くは、ほんの些細なことです。
 やらされ感もその1つです。例えば「整理・整頓を徹底すること!」といった喚起だけではその効果が期待できません。理由は、何故それを行わなければならないのか、目的が担当者にきちんと伝えられていない、または理解をしていないからです。「徹底する」といった抽象的な表現では何をしたらよいのか分からぬまま強制的なルールの感が強まれば、「やらされ感」が残ることになります。そして現場独自の勝手な解釈によるルールが横行してしまいます。
 「やらされ感」を排除するためには、取り組む背景や目的、それによってもたらされる効果を全員に理解するまで何度でも繰り返し伝えることが大切です。目標を小さなグループ単位と全体の二種つくることで、グループや部門での取り組みが全体の目標に大きく関わってくることを認識することができます。目標は数値で達成度がわかるよう定量化したものが好ましいです。例えば、「誰が」「何処のエリアを」「何時までに」「必要なものと不要なものを仕分けし、不要なものは廃棄する」といったようにデッドラインと責任者を明確にします。また気づきによって、自主的に提案や改善を行った人に対しては、その対価として表彰制度を設けることも重要です。自分たちで取り組んだという意識と自信を得るためには、小さなことでも今よりもよくなったという成功体験をもつことが大切です。成功体験が体感できるものとしては、視覚的なものが最も簡単で理解が得られやすいです。その手法の1つとして、食品7Sを活用した「見える化」があげられます。例えば改善前と改善後の写真撮影による効果の比較、トラブル発生件数の減少や作業時間の短縮などをグラフにすることで大きな効果が得られます。
 現場でうまくいかないもう1つの例としては、作業者・作業指示者・監督者(管理者)の間で認識にズレがあることです。作業指示者は「これだけ言っているから現場はわかっているだろう(わかっているはず)」、監督者は「ルールどおり現場はやっていてくれているだろう(やっているはず)」。一方、現場では作業者が「手順書に記載されている文言がわかりにくくて覚えきれない。管理項目が多すぎる。毎回ルールどおりやることは面倒くさい」といった理由からルールの逸脱が起こっています。
 手順書は難解な用語を使用する必要はありません。図や写真を用いたり、現場で口伝えになっていたものをルールブックとし、誰が読んでも(新しく配属された臨時従業員や新入社員でも)すぐに理解ができる内容にすることが重要です。管理する項目が多すぎる、毎回ルールどおりやることが面倒というのであれば、どうしてその項目をチェックする必要があるのか、その項目を管理しない場合には"何を見落としてしまうのか"、"どのような問題が発生するのか"を作業者、作業指示者、監督者間で十分見直しと議論を行い、重要度に応じてポイントを強調することや、メリハリをつけることで価値ある手順書になります。また、常に内容の見直しと改善を行い、改訂した最新版を遅延なく作業や管理に反映させることが重要です。筆者は食品工場や調理施設でコンサルティング業務に従事していますが、手順書を改訂したものの、現場に反映されずに大きなトラブルになったというケースに遭遇したことがあります。
 作業者は守らなければならないルール(食品7Sでいう躾)の意味を十分理解し、作業指示者や監督者は作業者だけの責任にするのでなく、うまくいかなかった場合には現象面だけの対処ではなく、何故うまくいかなかったのかについて、根本要因を特定し、速やかに解決することが必要です。そのために教育訓練で繰り返しルールを対象者にインプットしていくことが成功への道です。このインプットの方法として、第三者による講習会を活用することも1つの選択肢です。
参考文献

米虫節夫、角野久史、冨島邦雄 監修
ISO22000のための食品衛生7S実践講座
(第1巻)食の安全を究める食品衛生7S(導入編)
(第2巻)食の安全を究める食品衛生7S(洗浄・殺菌編)
(第3巻)食の安全を究める食品衛生7S(実践編)
日科技連出版、2006.02.20 発行、A5版

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