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食品企業の情報リスクを考える
4.残留性有機汚染物質(POPs)による食品添加物の汚染について
鈴鹿医療科学大学 薬学部 中村 幹雄
  海洋汚染の大きな原因となっています残留性有機汚染物質(ヘキサクロロベンゼン、ポリ塩化ビフェニル、ダイオキシン類等)の減少に向けて、これらの物質の排出を規制するために、2001年5月22日、ストックホルム条約(残留性有機汚染物質条約)が作成されました。我が国でも、2004年4月28日に告示(外務省告示第171号)され、同年5月17日に効力が発生し、2005 年6月24日に「地球環境保全に関する関係閣僚会議」で国内実施計画が了承され、化審法、農薬取締法、薬事法による措置等の削減に向けた取り組みがなされてきました。  
1)既存添加物グァーガムのダイオキシン汚染
 グァーガムは、グァーの種子から得られた多糖類が主成分です。極めて安価ですので、アイスクリーム、和菓子、水産ねり製品、サラダドレッシング、タレ、スープ、ソースなどに、増粘剤、安定剤あるいはゲル化剤として広く用いられています。(食品ラベルには、「増粘多糖類」と表示される場合が多い。)
 マメ科の穀類でありますグァーの主産地は、インド及びパキスタンです。2007年8月、スイスのユニペクチン社のグァーガムから製造されました食品添加物及びそれを使用しましたアイスクリーム等の食品の世界的な回収問題がありました。ダイオキシン及びペンタクロロフェノールによる汚染が原因でした。
 この問題の解決のために2009年10月に実施されましたThe Food and Veterinary Officeの視察報告書(FVO India 2009-8329)には、「視察チームは、現在も、インドでペンタクロロフェノールナトリウム(PCP)が製造され、グァーガム業界での使用に関する宣伝が行われているとしている。現在、26 のグァーガム輸出業者が欧州向けの輸出を認可されており、これらの企業にはHACCP 認証システムがある。民間の認証検査機関は、PCP については十分に検査できるが、ダイオキシンに関しては十分な分析能力がない。グァーガム中のPCP やダイオキシン類の汚染源は依然として不明である。」と記載され、「グァーガムの汚染の程度は当初考えられていたよりも広範囲にわたることがわかった。PCP の製造・販売に対する管理策の欠如は、今後も汚染の可能性を除去できないことを意味する。従って、輸出前の効果的な検査が、欧州における汚染の再発を防止する唯一の方策である。」とされました。
 日本も、多量(平成19年度報告書:約2,517トン)のグァーガムを輸入していますが、厚生労働省の横浜及び神戸の輸入食品検疫・検査センターはダイオキシン類の検査能力を有しないと思われます。そこで、消費者の安全を確保するために、行政における検査体制の確立、輸入者による自主的な検査が必要です。  
2)食用赤色104号及び食用赤色105号のHCB問題
 食用赤色104号は、テトラクロロ無水フタル酸(TCPA)とレゾルシンから合成されます。TCPAは、不純物としてヘキサクロロベンゼン(HCB、第1種特定化学物質、POPs)を含有していますので、食用赤色104号にもHCBが含まれる可能性があります。添加物公定書は、含有量を5μg/g以下と定めました。
 食用赤色105号の製法は、食用104号の製法と途中まで同一のため、これもHCBを含有する可能性があります。含有量は、6.5μg/g以下です。
 平成18年11月9日、厚生労働省医薬食品局審査管理課化学物質安全対策室、経済産業省製造産業局化学物質管理課化学物質安全室、環境省総合環境政策局環境保健部企画課化学物質審査室は、「テトラクロロ無水フタル酸及びそれを原料とした顔料又は染料の取扱いについて」を示し、「3省は、事業者自らが設定したTCPA又はTCPA由来顔料のHCBに係る自主管理上限値等を3省に提出した事業者については、引き続きその製造又は輸入及び出荷を許容します。」とし、TCPAを原料とする食用赤色104号及び105号の製造・販売が許容されております。
 本年10月を目処に、この制度を廃止する行政手続きが進められておりますが、この2つの物質を食品添加物に指定した状態で、この制度が廃止されますと、輸入品に移行せざるをえない状況が考えられます。
 これらの着色料が輸入されるときはHCBの含量が検査され、これらの着色料が使用された輸入食品のHCB含量は検査されないというダブルスタンダードですので、日本の公定規格の限度値を超えたHCBを含有する輸入食品が流通する可能性があります。現に、我が国でもメーカーによります低減が図られる前は、国立医薬品食品衛生研究所の実態調査で、食用赤色104号で30μg/gを、食用赤色105号で10μg/gを超えるものも流通していました。
 これらの着色料は、殆どの加工食品で天然色素での代替が可能ですので、両色素の指定を取り消す措置が、食品業界にとっても望ましいと思われます。
なお、両色素の毒性に関して、1年間反復投与毒性試験/発がん性併合試験が、国立医薬品食品衛生研究所からの委託で進められています。
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