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食品のカビ危害と防御
NPO法人カビ相談センター 高鳥浩介 久米田裕子
消費者の認識と苦情の現状
 先日のニュースで食品とカビに関する認識を話題としていました。食品にカビが生えるのはごく一部である。野菜ジュースにはカビは生えない。冷蔵庫に入れておけばカビない。カビは蓋をしておけば生えない。空中にはカビはいなく、だから食品にはカビは生えないなどです。こうした見方をする人はごく一部かもしれませんが、ニュースではカビに対する認識や誤解が多いことを報道していました。もしかすると食品にはカビはそう簡単に生えないと思っている消費者もいるかもしれません。
 そこで、カビによる食品事故がどれくらいあるか実態調査を行いました。この調査は、消費者や企業によってカビ汚染の疑いで地方自治体に所属する試験研究機関に持ち込まれた食品を対象としています。
 全国の自治体から約1,100事例回収できました。カビを原因とする食品の種類別苦情・事故件数は,菓子,嗜好飲料,パンの順に多く,加工・調理食品と嗜好飲料が苦情食品の90%以上を占めていることがわかりました(図1).またいつ頃そうした苦情や事故件数が多いかみると,夏場を中心にした6〜10月に多く、冬に少ない傾向がみられています(図2).図で、A:カビ、酵母を含めた検出件数,B:苦情として持ち込まれましたがカビ、酵母が検出できなかった件数,C:その他を示します。発生件数をみますと、季節による影響があることが分かります。確かに気温の高くなる梅雨時から秋にかけての季節はカビにとって発生しやすく、また冬場は気温低くカビにとって都合の悪い季節であることは事実です。カビの種類としては、アオカビ、コウジカビ、クロカビが最も多いという結果でした。
図1 カビによる食品種別苦情・事故件数
図2 カビ苦情・事故発生件数の月別変化
食品にはカビがどれくらいいるか−食品は無菌にあらず
 食品の原料や多少手を加えた食品にカビがどれくらいいるかはさまざまで、特に土が付着した野菜などには、かなり多くのカビがいます。
 カビは一般に湿ったところに多いといわれますが、けっこう乾燥した穀類や干物などにもみられます。カビは土壌にいて、野菜のような植物の茎や実に入り込んで、生き続けています。食品の養分と水分を利用しながら長く生き続けることもあります。粉状食品の小麦粉ですと1グラム中に10〜1,000個、香辛料では100〜10,000個、食肉・食肉加工品では10〜100個、冷凍食品では10〜100 個、ミネラルウオーターでは0〜100個など。このように原料には何らかの形でカビがいて、熱処理や殺カビをしない限り食品からカビを取り除くことはできません。
食品とカビの関係−生えるには何が関係するか
 カビの発生に重要な条件として温度、水分、空気(酸素)そして養分があります。 温度:一般にカビの発生しやすい温度の範囲は20〜30℃です。特に25℃前後で活発となります。4〜10℃のいわゆる冷蔵状態では時間がかかりますが生えてきます。しかし、30℃以上になるとカビの発育は著しく抑えられます。
水分:カビが生えるために水分が必要です。カビが生えることと食品中の水分量との関係を示す場合に水分活性Awという用語が用いられています。カビが生えるための最低Awは、カビの種によって異なり、A:0.94-0.99, B: 0.85-0.93, C:0.65-0.84の3通りのカビ群があります。日頃目にするクロカビ、ススカビはA群で高Awでのみ発生します。B群ではアオカビ、コウジカビがあり、さらにC群では低Awの方がよく発育するカワキコウジカビがあります。しかし、Aw 0.65以下ではほとんどのカビが発育できません。 空気(酸素):カビにとって酸素は必要不可欠であり、酸素の無い状態では発育しません。しかし、空気中の残存酸素量が0.1%前後でもあれば生えるカビが出てきます。
養分:糖分はカビにとって重要なエネルギー源です。食品でカビが生えやすいのはこのためです。また、蛋白、脂質、無機塩類、ビタミンなどあればさらに生えやすくなります。しかし、逆に糖分や塩分が多すぎると水分活性が低くなり、かえってカビは生えにくくなります。伝統食品である塩漬け食品が保存食として利用されてきたのはそうした理由からです。
食品でカビが生えていく姿は
 カビは多数の菌糸と、菌糸の発育によって形成される胞子から構成されています。通常食品に付着するカビの形は胞子です。そこで、水分が吸収されると胞子が発芽し、菌糸を伸ばします。菌糸は食品などに深くくい込み養分や水分を吸収しながら伸びていきます。食品にカビが生えると「黒カビ」、「青カビ」、「赤カビ」のように目視でみた色でカビを表現します。実は、この色は菌糸や胞子のかたまりが強調されたものです。この胞子は非常に離れやすい構造をしており、容易に空気中へ飛び散り、さらに食品などに付着します。
 菌糸は1000分の2−5o(2−5 μm)の幅、また胞子は、アオカビ、コウジカビ、クロカビは4−8 μmの球形、アカカビは棒状で長さは50−150 μmほどの大きさです。こんな小さな生物ですから、非常に軽く、風の流れるままに浮遊しどこへでも飛散していきます。
食品のカビは好き嫌いがある。好きなものにはとことん生える
 食品とカビの関係をみると非常に面白いことが分かります。食品にはそれこそ多種多様なカビがいますが、いたからといってどの食品でも生えることはありません。例えばアオカビは食品の全てに生えるわけではなく、コウジカビも同じです。カビと食品の間には相性があり、どのカビがどの食品に多いという親密な関係があります。また、果実にしてもオレンジにはアオカビが付きやすいけれども、他のカビは付きにくく、またキュウリやトマトにはクロカビが付きやすいこともわかっています。さらに糖分の多い食品にはカワキコウジカビやアズキイロカビが多いですが、他のカビは少ないことも知られています。すなわち、カビはかなり個性があり食品に対して好き嫌いがはっきりしている生物であることが分かります。
最近食品のカビに変化が出てきた
  食品の保存期間をなるべく長く持たせるために保存料や乾燥剤が使用されるようになってきました。今は嗜好性、味覚、栄養などを含め非常にバラエティーのある食品が数多く製造されています。また、輸入食品や食品原料が多くなり、加工技術が進んできたために食品の汚染原因カビも変わりつつあります。例えば、カワキコウジカビのような好乾性カビやネオサルトリアのような耐熱性カビ、保存技術が進んだためにモニリエラのような今まで聞きなれないカビが事故例として知られるようになってきました。さらに深刻な問題は輸入食品原料中のカビ毒産生カビの存在です。コウジカビ、アオカビの中に一部カビ毒産生カビが検出され、地球温暖化とともに生息域が広がらないか心配されています。
カビによる健康被害
 カビが生えた食品を食べることによっておこる健康被害で最も重要なものは「カビ毒」によるものです。日本では食料不足の時代に赤かび病に感染した小麦で作ったうどんやパンを食べ、急性胃腸炎の症状を引き起こした集団食中毒事例があります。しかし、その後少なくともここ数十年間、日本においては、カビによる急性食中毒の発生は報告されていません。このような急性毒性とは別に、カビ毒には微量を長期間食べ続けることにより発生する慢性毒性があります。肝、腎、肺、神経系、内分泌系、免疫系に対し、発癌性、変異原性、催奇性、エストロゲン様作用などの毒性を示します。食品原材料にカビが生えて一旦カビ毒が作られると、加熱調理によりカビは死んでもカビ毒は熱に強いので残ってしまいます。そこで、現在日本では、アフラトキシンB1、デオキシニバレノール、パツリンの3種類のカビ毒について基準値が設定され、汚染度の高い食品が出回らないよう気をつけています。
食品からカビを防御するために
1)カビを知ろう
 食品からカビを防御することは、カビを知ることからはじまります。そこでカビの持つ基本的な性質をまとめました。
 ・熱に弱い
 ・乾燥に弱い
 ・低温でもカビは生える
 ・生えるには酸素が必要
 ・多量の胞子を産生
 ・カビは食品と親密な関係がある
 ・食品を汚染したカビがカビ毒を産生するとは限らない
 カビを理解することで、食品中のカビ汚染を未然に防ぐことができ、食品衛生上の対応も十分にできると考えてよいでしょう。すべてのカビは有害であるとは限りません。また、あらゆる食品中のカビを完全に死滅させようとする考え方も現実には意味のないことです。
2)カビが生えてしまったら−原因カビをつきとめる
 防除のための化学的・物理的処理法は、カビの種類により違います。そのため、カビを特定することができない限り防除は困難で、カビに汚染された食品のカビ検査をまちがいなく実施することが重要です。
3)空気中からの汚染を防ぐ
 微生物は可視できない存在であり、それが食品に付着することにより食品事故になれば、消費者の信頼を失うことになります。食品の製造環境から微生物や塵埃を除去し、清浄な空間で食品を製造することは非常に重要です。バイオロジカルクリーンルームは除去フィルターを通すことにより、食品上問題視される細菌やカビ・酵母を空気から除去し、ほぼ 100% に近い状態で環境の無菌を維持できます。一方、除菌といえども完全除菌ではなく、また除去フィルターに付着した微生物は死滅しません。ハード面、コスト面での問題も残されていますが、カビによる事故を防止するにはたいへん効果的な方法でしょう。
筆者略歴
高鳥浩介
元国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部長。平成20年NPO法人カビ相談センター理事長。
東京農業大学客員教授、帯広畜産大学産学官連携教授、東京大学農学部非常勤講師。長年にわたり生活環境衣食住に関わるカビの研究を継続し今日に至る。日本防菌防黴学会、日本食品微生物学会などに所属し、理事、評議員など。厚労省食品衛生分科会、食品安全委員会、文化庁、文科省委員など。

久米田裕子
大阪府立公衆衛生研究所で、細菌・真菌の検査研究業務に従事する。感染症部細菌課、課長。
日本食品微生物学会編集委員、日本防菌防黴学会編集委員、日本マイコトキシン学会幹事。内閣府食品安全委員会(かび毒・自然毒等専門調査会)専門調査会委員。

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