財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >総アフラトキシン規制値設定について
「食べて危ないマリントキシン」の概要と今後の課題
名古屋市衛生研究所生活環境部 中島正博
はじめに
 これまでに、世界と日本におけるマイコトキシン対策の動向を解説してきました(SUNATEC e-Magazine Vol. 016、027、040号)。Vol. 040号においては、総アフラトキシン(アフラトキシンB1、B2、G1、G2の合算)規制値設定の動向を解説するとともに、昨年度中には総アフラトキシンの規制値が設定されることを述べました。しかし、この総アフラトキシン規制値設定においては、紆余曲折があり、やっと現在方向性が見えてきました。そこで、今回は、昨年からの総アフラトキシンの規制値設定の動向と現在想定している試験法等について紹介します
  e-Magazine Vol. 040号でご紹介しましたように、厚生労働省では、コーデックス委員会での落花生および木の実における総アフラトキシン規制値設定および近年のアフラトキシン汚染傾向を受け、平成20年9月食品安全委員会に対し、食品中の総アフラトキシンに係わる食品健康影響評価を依頼しました。食品安全委員会は、平成21年3月厚生労働省に対し、「(1)落花生および木の実について、発がんリスク及び実行可能性を踏まえ適切に総アフラトキシンの基準値を設定する必要がある、(2)落花生と木の実については総アフラトキシンとアフラトキシンB1の両者について規制を行うことが望ましい、(3)落花生及び木の実以外の主要な食品についても、汚染実態および国際的な基準値設定の動向を踏まえ、総アフラトキシンの規格基準の必要性について検討を行うことが望ましい」と通知しました。厚生労働省ではこの通知を基に、平成21年6月に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会において審議し、「落花生および木の実(アーモンド、ヘーゼルナッツ及びピスタチオ)については、食品衛生法第11条第1項に基づく総アフラトキシンの成分規格(加工用15、直接消費用10 )を設定し、アフラトキシンB1は食品衛生法第6条第2号において全ての食品を対象に10(管理水準として)を設定する」と結論づけられました。
  その後、本年4月、厚生労働省基準審査課規格基準係から次のような報告がありました。「落花生及び木の実の輸入・加工に関連する国内業界団体からは、現在、アフラトキシンの低減を目的とした処理を行う加工施設は国内に存在せず、加工用として輸入された落花生および木の実について、販売に供する段階で確実に直接消費用のレベルまでアフラトキシンを低減することが担保できないことから、加工用、直接消費用の別を問わず、基準値は一本化することが望ましいとの意見があり、総アフラトキシンの基準値は、コーデックス規格で直接消費用の木の実に設定されている10 とすることが適当であると考えられる」。ここで、問題となるのが規制値の扱い方です。コーデックス規格を含めて国際的なアフラトキシンの規制値あるいは基準値は最大残留値で示されています。一方、日本におけるアフラトキシンB1の規制値は、食品衛生法第6条第2号によって規制されていることは周知の通りです。この第6条第2号では、有害な又は有害な物質を含む食品の販売等が禁止されており、アフラトキシンの場合は検出してはならない(昭和46年3月16日付け環食128号)ということになります。日本におけるアフラトキシンB1の規制値は、この環食128号に採用されている試験法(薄相クロマトグラフ法:TLC法)の検出限界が10であったことから決められています。つまり、TLC上でアフラトキシンB1のスポットが見えてはならない、すなわちスポットが見えた場合は違反(10相当)ということになりますから、日本の規制値は最大残留値ではなく、10のアフラトキシンB1汚染は違反となります。そこで、上記のようにコーデックス規格と同様に総アフラトキシンの規制値を最大残留値である10とした場合、総アフラトキシンが10以下の場合は違反となりませんが、このうちアフラトキシンB1が10 であった場合には現行規制に照らすと食品衛生法第6条第2号違反となり矛盾が生じることになります。そこで本年4月の時点においては、落花生及び木の実における総アフラトキシンについては食品衛生法第11条第1項に基づく成分規格を設定し、アフラトキシンB1に係わる食品衛生法第6条第2号の規制の適用は除外することが適当であると結論づけられました。すなわち、落花生、アーモンド、ヘーゼルナッツ及びピスタチオについては、食品衛生法第11条第1項において10以下とし、落花生、アーモンド、ヘーゼルナッツ及びピスタチオを除く食品全般については食品衛生法第6条第2号において10未満とする規制を行うということになります。
 さて、ここで現在のアフラトキシンB1試験法に詳しい方々は「あれ?」と思われるでしょう。2002年および2008年に新たに通知されたアフラトキシンB1試験法では、試料液のアフラトキシンB1のピークの高さあるいは面積がアフラトキシンB1標準液のそれらを超えた場合を陽性とするとされています。従って2002年以降は、日本におけるアフラトキシンB1の規制値は最大残留値となっていたはずです。しかしながら検疫所における輸入食品の違反事例を見てみますと、10のアフラトキシンB1で汚染された食品は違反とされています。すなわち、厚生労働省と我々カビ毒研究者とのアフラトキシン規制値に対する見解が異なっていたことになります。我々としては国際基準である最大残留値が妥当であると判断していましたが、食品衛生法第6条第2号で規制している限りにおいては、アフラトキシンB1は含まれてはならないという考え方から、環食128号における検出限界は変えられず、食品中のアフラトキシンB1は10 未満でなくてはならないということでしょう。
 その後、食品安全委員会の食品健康影響評価における「食品からの総アフラトキシンの摂取を合理的に達成可能な範囲で出来る限り低いレベルにするために、落花生及び木の実以外の主要な食品についても、汚染実態及び国際的な基準設定の動向等を踏まえ、総アフラトキシンの規格基準の必要性について検討を行うことが望ましいと考える」について審議され、本年5月には全ての食品について食品衛生法第6条第2号において総アフラトキシンの規制を行うこととされたようです。すなわち、落花生、木の実を含めた全食品について、10未満の規制を行うということです。落花生、木の実については、昨年ご報告しましたように、総アフラトキシン試験法についての共同試験を行い、その妥当性が確認されていますが、その他の食品についてはこの試験法の適用可能性について検討する必要があります。今後、総アフラトキシンの分析が困難と思われる香辛料や加工食品について試験法を確立し、それらの試験法について単一機関や多数機関での妥当性評価を行い、来年3月までに総アフラトキシン試験法を通知する予定です。なお、今回も食品衛生法第6条第2号での規制となりますが、「管理水準」として総アフラトキシンの規制値10未満が明言化されます。
総アフラトキシン試験法(案)について
 以下に、現在予定している総アフラトキシン試験法について示します。なお、HPLCの条件等については、従来のアフラトキシンB1試験法と同様の予定です。
抽出:試料50 g+アセトニトリル−水(9+1)200 ml、振とう30分あるいはブレンド5分
ろ過:定性ろ紙
精製:多機能カラムからの初流2 ml(試料0.5g相当)
誘導体化:蒸発乾固後、トリフルオロ酢酸0.1 ml、撹拌、15分放置
最終試料溶液:アセトニトリル−水(1+9)0.9 ml (0.5 g試料相当/ml)
抽出:試料50 g+塩化ナトリウム5 g+メタノール−水(8+2)200 ml、 振とう30分あるいはブレンド5分
ろ過:定性ろ紙
希釈:ろ液10 mlを水*1で50 mlに定容
ろ過:ガラス繊維ろ紙
イムノアフィニティカラム:ろ液10 ml(試料0.5g相当)を添加、水*2で洗浄
溶出:アセトニトリル 1 ml×3回
誘導体化:蒸発乾固後、トリフルオロ酢酸0.1 ml、撹拌、15分放置
最終試料溶液:アセトニトリル−水(1+9)0.9 ml (0.5 g試料相当/ml)
*1:焙煎落花生や焙煎木の実は水希釈。その他の食品について0.01% Tween 20を含んだ生理的リン酸緩衝液(PBS)、香辛料について2%〜10%程度のTween 20を含んだPBSで希釈することも考慮中。今後の検討課題
*2:焙煎落花生や焙煎木の実は水洗浄。その他は0.01% Tween 20−PBSおよび水洗浄の予定。
 従来のアフラトキシンB1通知法については、多機能カラム法とイムノアフィニティカラム法とでは、最終試料溶液における試料相当量が異なっていましたが、総アフラトキシン試験法では上記の様に統一する予定です。また、試料量と抽出液量の比は1:4とする予定です。イムノアフィニティカラム法における抽出液は、メタノール−水系を用いる予定ですが、カカオ加工品等、食品の種類によってはアセトニトリル−水系に変更する必要があるかも知れません。抽出液を希釈する段階で、沈殿物が多く発生する試料については、水希釈やPBS希釈では低回収率を示すことが多く、各試料用の希釈方法を考慮しなくてはなりません。香辛料における希釈方法については、若干の解決策が得られていまして、ターメリックでは4% Tween 20-PBS、白コショウでは10% Tween 20-PBSを用いた希釈で高回収率を示しています。
 また、今回は「食品中に残留する総アフラトキシンに関する試験法の妥当性評価ガイドラインについて」も通知する予定としています。基本的には、平成19年11月15日付食安発第1115001号「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインについて」に準じます。現在のところ、添加濃度は総アフラトキシンとして10、すなわち各アフラトキシン濃度は2.5添加とし、これの繰り返し試験を行い、それらの結果の真度(回収率)が70−120%、併行精度が25%以内、室内精度が30%以内であった試験法については、通知試験法でなくても使用が可能となるようなガイドラインを考えております。
 総アフラトキシン規制が始まった場合には、結果の数値のまるめ方と合計の計算方法も重要となってきます。現在、各アフラトキシンの濃度を小数点2桁まで求め、そのまま4つの数字を足したあとに小数点2桁目を四捨五入した結果、9.5以上ならば違反とする方向で意見が統一されています。
おわりに
 落花生および木の実における総アフラトキシンが、食品衛生法第11条第1項に基づく成分規格で規制されなかったことは大変残念に思っています。恐らく天然毒については、第6条第2号で規制したいとの厚生労働省の考え方によって、上記のようになったのではと想像されますが、全ての食品について総アフラトキシンの規制を行うことは、試験法を考慮した場合とても大変なことになります。今後、来年2月までには種々の食品に適用可能な試験法を作成していかなければなりません。また、単一機関や共同機関での妥当性評価も必要になってきます。その点で、今後の皆様方のご協力をお願いするとともに、ご意見等がございましたら是非ご連絡頂きますようお願い致します。今回の情報については、まだ不確定な部分があり、そのためあえて表や図を用いず、文章だけとさせて頂きました。大変読みづらい解説となってしまいましたことをお詫び申し上げます。
 
他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.