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においの豆知識(6) 油のにおい−石油製品について−

 弊財団では、食品製造現場や末端商品などで発生している「異臭クレーム」について対応させて頂いております。異臭クレームにおいて、異臭の原因となった物質やその発生原因は多種多様です。クレームが発生した場合には、まずは発生原因を正しく追究することが再発防止策を講じる上での最重要事項となります。
 異臭原因として混入するものに「油」があります。我々の生活に欠かせない油は、大きく鉱物油、動物油、植物油に分類され、これらは用途に応じて使い分けられています。また、これらは「油」と一括りにされていますが、それぞれに特徴的な性状を有しており、それらは機器分析などにより明快に分類されています。
 本稿では、特に異臭事例が多い鉱物由来の油である石油に注目します。

1.石油とは

 油とは、動物や植物、鉱物などから得られる疎水性の物質の総称で、食用、燃料用など幅広く用いられる、我々の生活に欠かせないもののひとつです。これらのうち、鉱物資源から得られるものが石油です。石油の起源については、「生物起源説」、「非生物起源説」或いは「石油分解菌説」などが唱えられていますが、今日では生物起源説が支持されています。生物起源説についても諸説ありますが、その中でも最有力説が「ケロジェン起源説」です。これは、太古の昔に海や湖で繁殖したプランクトンや藻など生物の死骸が、土砂と共に水底に堆積して岩石となる過程で有機物が重合して複雑な高分子化合物(ケロジェン;油母とも呼ばれる)になり、更にこれを含む岩石が地中深く堆積し地殻の影響を受けて熱分解を受けて液体炭化水素になり、最終的に貯留層と呼ばれる多孔質岩石に捕捉されて油田が形成される、という説です。
 石油(原油)の主成分は炭化水素であり、常温では気体である炭素数1〜4、また液体炭化水素である炭素数〜50程度まで幅広く分布しているとされています。炭化水素の種類としては、鎖状アルカン、シクロアルカン(ナフテン)、および芳香族炭化水素が含まれます。このほかにも原油は硫黄化合物、窒素化合物、金属類も含む非常に複雑な組成であり、原油を分留・精製して天然ガス、ナフサ(ガソリン)、灯油、軽油、重油、潤滑油、アスファルトなどの製品にします。

2.石油製品の分析

 石油製品のにおいは「石油(灯油)臭い」「薬品臭」などと表現され、一種独特なにおいがしますが、実際にそれが灯油や軽油など、石油製品による汚染より起因するものであるか、それとも別の要因であるのかを官能検査のみでは判断が難しいですが、機器分析を行うことにより判断が可能となります。上述のように、複雑な組成である石油製品をガスクロマトグラフ-質量分析計(GC/MS)にて分析すると、非常に特徴的なクロマトグラムが得られます。図-1に軽油のクロマトグラムを示しましたが、多数の成分が含まれることが判るかと思います。

図-1 軽油のトータルイオンクロマトグラム(TIC)

 石油製品の特徴として、軽油や灯油など、その種類により含まれる炭化水素の炭素数の分布に違いはあるものの、いずれにおいてもアルカンが複数含まれる点があります。アルカンの各成分のマススペクトルは、メチレンに相当する14質量単位ずつ離れてピーク群が現れるという規則性を有しています(図-2 (a)及びび(b))。GC/MSにて測定した場合に多数の成分が認められた際には、この規則性の有無が石油製品による汚染か否かの判断基準のひとつとなります。

図-2 a) 軽油のイオンクロマトグラム 及び b) ウンデカン(炭素数11のアルカン)

 a)図-1と同一の検体について、アルカン類に特徴に認められるm/z 43のイオンクロマトグラムにて示した。石油製品において特徴的なクロマトグラムである、一定の保持時間を置いて櫛状の規則的なピークが示される。 
 b)アルカンの一種であるウンデカンのマススペクトル。メチレンに由来する14質量単位(Cn+H2n+1)ずつ離れてイオンが認められる。

3.非石油由来成分による石油臭

 また、官能評価において「石油臭い」と表現される異臭クレームであっても、石油製品による汚染が原因ではない場合があります。これは、天然由来の保存料であるシナモン抽出物を使用している製品において散見される例です。この場合の原因は、シナモン抽出物の主成分であるケイ皮酸が、酵母により脱炭酸されてスチレンを生成することにあります。スチレン自体も特異な薬品臭を有しており、また石油製品にも含まれています。石油製品による汚染であればスチレンのほかにも上述のようにパラフィン系炭化水素や芳香族炭化水素類が多数認められますので、検出される成分は石油製品で示されるクロマトグラムとは明白に異なります。

4.まとめ

 軽油や灯油などは、家庭生活において身近な存在であるばかりでなく、食品原料の生産・輸送・管理の場においても接する機会も多く、思わぬ経路で異臭原因として混入することがあります。生産者・製造者においては異物の混入を防ぐべく品質管理の徹底が必須であるのは勿論ですが、それと共に消費者に対しても食品の保管法などへの啓蒙が重要となります。また、万一クレームが発生してしまった際には、まずは確実にクレーム原因を特定することが再発防止への第一歩となります。

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