数倍〜数10倍程度の倍率で異物を観察し、その大きさ、色調、性状(硬度、柔軟性、崩壊性、水溶性、粘弾性、有機溶媒可溶性、金属光沢性)をはじめとして、削れたような形跡がある、空泡がある(加熱を受けた可能性が推測できる)などを確認することで、当該異物がどのような種類の物質なのかを大まかに分類し、以降どのような検査手法をとれば最短、最適な検査結果を導き出すことができるのかを判断するのに非常に重要な検査である。
また、異物を受領した時点での様子を記録する目的や顧客指定検査部位がどこなのかを正確に判断する目的にも用いられる。
40倍〜1000倍程度の倍率で異物を観察し、実体顕微鏡のレベルでは判断できないような微細な構造を確認する。実際に倍率の違いによりどの程度確認可能なレベルに差があるかについて、パンに生育したカビを例にして説明する。肉眼では、パンの表面に灰緑色の物質が付着している様子が確認できるものの、それ以上の情報を把握することはできない(写真-1参照)。次に、実体顕微鏡を用いて観察を行ったところ、異物は毛玉のような物質であることが確認できる(写真-2参照)。カビの種類によっては、実体顕微鏡のレベルでもカビであることを推定することも可能であるが、より正確な判定を行う上で、光学顕微鏡を用いた観察を行うことが望ましい。そこで、光学顕微鏡を用いて倍率100倍で観察を行った結果、カビに特徴的な形態の一つである菌糸及び胞子が確認された(写真-3参照)ことから、パンの表面に認められる灰緑色の物質は、カビであると判断することができる。
実体顕微鏡を用いて確認できる構造として、上記のカビをはじめとして細菌、酵母などの微生物、植物組織、動物組織、動植物繊維や合成繊維、毛髪などが挙げられる。
写真-1 肉眼レベルでの観察
写真-2 実体顕微鏡での観察
写真-3 光学顕微鏡での観察
紫外光(波長200nm〜400nm)、可視光(波長400〜800nm)よりも波長が長い赤外光(波長0.8μm〜1mm)のうち、波長2.5〜25μm(4000cm-1〜400cm-1)に相当する中赤外光領域の赤外光を物質に照射すると、赤外光の吸収が起こる。FT-IRは、フーリエ変換を利用して、吸収の程度の分布(スペクトルパターン)を調べる機器である。スペクトルパターンは、物質を構成している官能基や物質の種類によってそれぞれ異なることから、その物質を構成している官能基の推定や標準品のスペクトルパターンと比較することで材質の鑑定などを定性的に行うことができる。したがって、異物検査を行う上で必須の検査機器であるといえる。主な検査対象は、プラスチック(合成樹脂)、ゴム、食品成分などの有機化合物であるが、その測定範囲を広げることで炭酸塩、リン酸塩など一部の無機化合物の推定を行うことも可能である。但し、光を透過しない金属類や塩化ナトリウムや臭化カリウムなどイオン結合から成る物質は、測定対象外である。
異物検査で主に用いられる測定方法として、粉体試料や無機化合物を含む試料の分析に適した臭化カリウム錠剤法、測定範囲は臭化カリウム錠剤法よりも狭くなるものの、大きさ数mm程度の微小な異物であっても測定可能な顕微鏡透過法、金属板など光を透過しない物質に付着した異物の分析に適した顕微反射法、ラミネートフィルムなど層状構造を有する異物の分析に適した反射ATR法などが挙げられる。
試料にX線を照射すると、試料中に含まれる元素に固有のエネルギーを持つ蛍光X線が発生する。この発生した蛍光X線のエネルギーを測定することにより、試料を構成している元素の種類や微量成分元素の定性的な分析が、また、そのX線量を測定することで定量的な分析が可能である。測定可能な元素の範囲は、蛍光X線分析装置の種類、スペックにより異なるが、一般にNa(ナトリウム)またはAl(アルミニウム)からU(ウラン)の範囲の元素が測定対象となる。
なお、蛍光X線分析は、試料を破壊することなく検査を行うことができる。
主な検査対象は、ガラス、陶磁器などの窯業製品、金属、土砂類などの無機化合物である。
また、異物検査においては、これらの分析機器を用いた機器分析と並行して又は単独で各種定性試験を実施することが多い。例えば、タンパク質の存在の有無を確認するためのキサントプロテイン反応やニンヒドリン反応、デンプンの存在の有無を確認するためのヨウ素−デンプン反応、ハロゲン元素の有無を確認するバイルシュタイン反応、血液か否かを推定するルミノール試験、虫や毛髪を対象とした加熱履歴の有無を推定するカタラーゼ試験などが挙げられる。
さらに、これら異物検査の定番とよばれる検査手法にとらわれることなく、異物が何であるかを解明する上で有効と考えられる公定法や規格化された理化学的検査や微生物学的検査を有効に利用し、結果解析レベルの向上、精度の向上、確認試験として生かすことも可能である。
尚、クレーム対応については7月号で記載させていただきます。 |