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「急須で淹れる緑茶」は、「一息」、「くつろぎ」という言葉に代表され、「機能性飲料」と対極にある「情緒性飲料」といわれています1)。よい茶葉、よい水を使って、正しく淹れれば、誰でもおいしいお茶を飲むことができますが、その一端を担っているのが急須に他なりません。情緒性飲料である以上、よい急須にもこだわってもらいたいものです。
本稿は、急須をはじめとするやきものを研究し、お茶を楽しんでいただく立場で記述させていただきました。
三重県四日市市は、紫泥(しでい)の萬古焼急須産地であり、伊勢茶の産地でもあります。筆者らは、以前から言われている「萬古の急須でお茶を飲むとおいしい」を科学するため、三重県らしいこの研究を始めました。
2009年度の茶業技術協会で発表したのは、急須の表面状態(急須の材質)よってタンニンの吸着量は異なるが、アミノ酸の吸着量は変わらない。すなわち、茶の呈味成分のうち、うま味は変わらず、渋味が変化するというものです。とりわけ、萬古焼のような焼締急須では、適度に渋味が軽減され、相対的にうま味成分が増えることがわかりました。
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今回の発表には用いませんでしたが、やきものの急須は、熱伝導が程よく、お茶が冷めにくくなっています。図1に示すように、お湯を入れても温度が下がりにくいため、うま味成分の抽出される時間帯を長く保つことができます。表1には、各急須素材の熱伝導率を示します。金属アルミの熱伝導率が非常に高いことがわかります。次項で示す味覚センサの実験では、水温低下の条件が同一になるように、湯煎してお茶を抽出しました。
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図1 各急須の水温降下 |
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表1 各急須材質の熱伝導率 |
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種類 |
萬古 |
磁器 |
ガラス |
アルミ |
熱伝導率(W・m-1・K-1) |
2.13 |
1.5 |
1.0 |
236 |
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今回の研究で、急須の材質(表面の状態)を変えることによって、渋味をコントロールできることがわかりました。まだまだ、香りやテアニン、ミネラルといった緑茶の良さの全ては解明されていません。
今後の課題は、多くの方に急須の良さを知っていただくことだと考えています。最初に申し上げた「情緒性飲料」ならではの良さ、茶器である急須にもこだわりを持っていただけるよう、これからも研究を続けたいと考えています。また、茶漉しや、茶殻の捨てやすさ、持ちやすさ、といったデザイン、機能面からの研究も、今後計画しています。
焼締急須の良さがおわかりいただけたら、「○○産のやぶきたは、やや渋味が勝っているので、この急須を使ってお茶を淹れると好みの味になります。」のような、急須と茶葉の売り方ができるようになると、期待しています。急須の生産者と、お茶の生産者、また急須でお茶を淹れて飲む皆様に、お互いのメリットが生まれてくる可能性が高まります。
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本稿を転載させていただきました。静岡県茶業会議所様に心より感謝申し上げます。また、最近の実験結果(アミノ酸分析装置値)より、緑茶の主成分であるアミノ酸類であるテアニンも、急須表面に吸着されないことが判明しました。官能基を持たないアミノ酸類は、グルタミン同様、どのような急須を用いても、急須表面に吸着されないことがわかりました。分析に当たりご協力をいただいた食品分析開発センターSUNNATEC様にも感謝いたします。緑茶は、「情緒性飲料」といわれ、「ほっと一息」を標榜しています。PETボトルの清涼飲料とは異なる領域での販売を目指しています。本稿がメールマガジン読者諸兄のお役に立ちましたら幸いです。
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