財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >食品企業の科学情報リスクを考える(第3回)
食品企業の科学情報リスクを考える(第3回)
鈴鹿医療科学大学薬学部 客員教授 中村幹雄
3.既存添加物名簿
3-1 経過の概略

昨年10月5日、厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長名で「消除予定添加物名簿の作成に係る既存添加物の販売等調査について(周知依頼)」が都道府県等に発せられた。前例のない125品目が収載された。実績を申し出る「既存添加物の販売等の申出書」には、販売先、販売数量、食品への使用実績を示す書類(食品の商品名、使用目的等)等が必要とされる。これは、従来にない極めて厳格なものである。

1991年から、いわゆる「天然添加物」も「化学的合成品以外の食品添加物」と称され、表示の対象になった。その際に「化学的合成品以外の食品添加物リスト」(1051品目、本稿でリストと略す。)が厚生省環境衛生局長から通知された。リストに収載されていない品目を使用するときは、厚生大臣に報告し、大臣が名称を定めるまでは表示が免除される報告制度であった。このリストの作成に当たっては、プロポリス抽出物のような「健康食品」、イモカロテンのような食品添加物事業者のアイデア段階の品目、ジャマイカカッシア抽出物とニガキ抽出物のような重複と思われる品目も含まれていた。

1995年の食品衛生法の改正で、従来は第6条の例外であった「天然添加物」も指定制度になり、既存添加物名簿が策定されることになった。「既存」の「添加物」の名簿でないリストに収載された品目の流通実態調査が不十分な上に、食品・食品添加物事業者が申し出た品目も加わったので、品目は大幅に膨らんだ。そこで、天然香料と「一般に食品として飲食に供されているものであって添加物として使用される品目」(「一般飲食物添加物」)を第6条の例外とすることにより、残った品目は大幅に減少した。食品衛生法を改正する法律101号附則第2条に基づき、1995年8月に466品目を収載した「既存添加物名簿」が告示された。その後、食品・食品添加物事業者が申し出た23品目が追加され、1996年4月の告示により489品目の既存添加物が確定した。この訂正申し出に際し、アウレオバシジウムでの虚偽記載の疑念が2002年11月の朝日新聞に掲載されたように、添付書類は、事業者自らの証明で十分であった。

既存品(輸入添加物、輸入食品に使用される添加物)に関する原産国での基原・製法・本質の徹底的な調査や成分に関する化学的検討がなされず、TANAKA’S CYCLOPEDIA OF EDIBLE PLANTS OF THE WORLD等の辞典との照合等机上で、既存添加物名簿の策定が進められた。後々、アルカネット色素のように、既存添加物名簿のカッコ書き(品名のカッコ内で定義された由来、成分等)や既存添加物名簿収載品目リストの基原・製法・本質と異なる品目が出てきた。現在と当時のアルカネット色素が同一品であるなら、既存添加物名簿や収載品目リストの側に不備があると考えられる。既存添加物名簿の不備は、食品事業者にとって大きなリスクである。

2003年の食品衛生法改正により、流通実態がない既存添加物を消除することが可能となり、2004年に38品目が、2007年に32品目が消除され、安全性上の問題で消除されたアカネ色素を含め71品目が消除された。今回はその1.7倍である。実態のない品目を消除することには何ら異論ない。しかし、既存添加物名簿は、その名の示すとおり1995年の食品衛生法が改正された時点に存在していた「天然添加物」であるので、その時点での実態調査をキチンと行うことが、最も公正なことだと思う。

3-2 安全性確認と規格に関する課題

1995年(平成7年)の食品衛生法大改正が審議された第132国会の平成7年5月17日の衆議院・厚生労働委員会で「食品衛生法及び栄養改善法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」がなされた。その中に、「四 食品添加物の指定及び規格基準並びに残留農薬基準については、国際的基準も考慮しつつ、科学的根拠による安全性評価に基づき指定及び策定を行うとともに、最新の科学的知見に基づき適宜見直しを行うこと。特に、既存の天然添加物については、速やかに安全性の見直しを行い、有害であることが実証された場合には、使用禁止等必要な措置を講じること。」との文言がある。参議院・厚生労働委員会でもほぼ同様な付帯決議がなされた。
既存添加物の安全性の確保は、事業者の責任でるが、この委員会付帯決議を拠り所として国(厚生労働省)は多額の予算を組んで安全性の確認を進めてきた。先ず、平成8年度厚生科学研究報告書「既存天然添加物の安全性評価に関する調査研究」において、国際的な評価結果、欧米での許認可状況、安全性試験成績結果等から、既存添加物の基本的な安全性について検討した結果、489品目のうち139品目については、安全性試験の実施も含めその安全性について検討することが必要であるとされた。そうした品目の安全性試験のために、数十億円の国費が投じられたと推測できる。
昨年8月時点で418品目に対する厚生労働省の研究班による安全性見直しの状況は、安全性評価済の品目:266品目、安全性情報を収集している品目:28品目、基原、製法、本質等からみて安全と考えられ、早急に検討をする必要はない品目:12品目とされた。2005年7月の調査研究報告書に記載された14品目中9品目、2007年3月の7品目中4品目、2008年3月の8品目中の4品目、本年3月の7品目中3品目が第3次消除の候補(案)に収載されている。さらに、2005年7月の報告のスフィンゴ脂質については、米由来の品目の流通が確認できないとされ、安全性試験に用いられた試料は、ウシの脳由来であったのかとの疑問が生ずるように、試験に供された試料の確認が、対象となる既存添加物を販売あるいは加工食品の製造・保存等に使用している食品メーカーのリスク回避のために必要と思われる。
従って、第3次消除を経て既存添加物名簿が整理された時点で、それらの品目の安全性試験の結果はどうであったかを把握する必要がある。また、規格についても、第9版食品添加物公定書の策定に当たっては、全品収載が目標だと思う。
一方、国際調和や国際貢献の観点から、INS番号が付けられた品目(例えば、クチナシ青色素や紅麹色素)に対する安全性のJECFA評価やJECFA規格の設定を求め、我が国の業界が協力して、評価のための資料集を早急に作成し、国際業界団体や厚生労働省の協力を仰ぐ前向きな活動も必要だと思う。

他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.