食品表示に対する不信感が高まる中、消費者の食に対する信頼を回復するためには、農産物や加工食品における生産地や品種の表示事項の真偽判別を可能にして適正な表示を担保するための品種判別技術の開発が重要な課題となっている。また、我が国で育成された新品種が許諾なしに海外に渡り、不正に逆輸入されるなど、社会的に大きな問題となっており、このような偽装表示や育成者権侵害を的確にしかも容易に判断するためには、科学的な裏付けとなる迅速・簡便なDNA分析を用いた品種判別技術、すなわち、「DNA鑑定」の開発とその実用化に向けた取組が急務である。
「DNA鑑定」は、容疑者の特定、親子関係の判定などの犯罪捜査の切り札として役立ったことが新聞記事やテレビニュースなどで話題になるなど、すっかり市民権を得た感があるが、ヒト以外の分野でも、農産物・加工品への適用事例が数多く報告されており、一部の農産物(収穫物)と加工食品ではあるものの、DNA分析による品種判別技術が開発され、食品表示の適正化や育成者権を侵害して輸入されてくる農林水産品の水際(税関)での取り締まり等の現場で利用されるまでに至っている。
しかしながら、開発された品種判別技術が「DNA鑑定」と称されて、社会への貢献を確実なものにするためには、技術の実用化に向けた取組として、妥当性確認や手法を客観的に検証・認証するシステムを整備することが、至急の課題である。
そこで、本報では、法医学領域において親子鑑定や犯罪捜査に用いられてきた「DNA鑑定」の鑑識事例を紹介しながら、DNA分析を用いた農産物・加工品の品種判別技術が、実用化技術として、かかる実社会での様々なニーズに応えることができることを願いつつ、その現状と今後の研究開発のあり方について述べてみたい。
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