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2009年は地力をつける年になっただろうか
東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤 勲
 2008年は1月に中国産冷凍餃子事件、それを真似たような飲料に薬物混入事件、6月に地元の一色産ウナギと称して大量の中国産ウナギをさばいた事件(架空の岡崎市一色町字一色の一色フーズ架空会社を捏造)、「里帰りウナギ」なる面白い言葉、9月規格外の事故米の転売事件、中国で粉ミルクにメラミンが混入されていて乳児の健康障害や死亡事故(07年には米国でペットフードにメラミンが混入されていて食べた犬や猫が死亡)、10月中国製冷凍インゲンから高濃度のジクロルボス検出など枚挙にいとまがないほどで、いわゆる事件については、果物風にいえば表年であった。
 それと比較して、2009年はその反動ということではないだろうが、全体としては裏年であった。当然のことながら裏年のほうがいいに決まっているが、この1年は食品問題よりも新型インフルエンザで振り回された年ともいえる。当初は、1918年のスペイン風邪(世界で死者4000〜5000万人、日本国内38万人の死者と言われている)のレベルを想定して、何十万人の死者といった報道もあったが、90年近く前の医療状況、衛生状況の現在への変化を踏まえると、せめて1969年の香港インフルエンザ(世界で約百万人)位を参考にして対応を考えるともっと実際的であっただろう。推定にはもう少し適度さが求められている気がする。
  しかし、新型インフルの怪我の功名が食中毒に表れている。愛知県の食中毒発生状況(11月30日現在)を見ていると、県全体で昨年951人あった食中毒が426人と半減している。全国的に見ても食中毒の患者総数はなかなか減らないのが現状であったが、2008年は24000人と少し減少し、今年はさらに2万人を大きく切る勢いである。食中毒予防は「つけない。増やさない。殺す。」の基本原則で運用されているが、それにもまして、消費者、飲食店従事者、食品関係者が手洗いなどを意識的にやっていることもかなり功を奏している感じがする。身近に漠然とした不安があると人はそれなりの対応をするということなのだろう。
  今年の食品関連の事件では、やはり産地偽装、原料表示不適正が大きな問題となっている。産地偽装された食品で最も多かったのは、ウナギとタケノコであった。タケノコなどは国産は消費量の10分の1くらいしかなく、それ以外は中国などからの輸入品である。加工品として食材に使用される水煮のタケノコなどは業務用はほぼ中国で加工されたものではないだろうか。品質的にも見劣りせず価格面で優位性があればおのずと不正使用は増えていくだろうが、その背景には消費者の「国産」志向の高まりも大きな要因としてある。
  原料表示不適正を見ていると、「熊本県産」「北海道産」のにんじんを、地場の「静岡産」ニンジンと偽ったり、事実と異なる原産地を表示し販売した単純なものなどが多い。しかし、農薬を使用していたにもかかわらず「農薬回数0回」や普通に栽培したにらに有機JASをつけたりと意図的な行為までいくと悪質性が出てくる。考えてみれば、昔から日本人は産地偽装に関しては結構いい加減で罪悪感をそれほど持ってこなかったことも事実だろう。その程度の商道徳でもあったということも言えるが、昨今のJAS法など法律の規格・運用が厳しくなったため新聞紙面をにぎわすことが多くなったのも事実だろう。産地偽装、原料表示不適正への対応は、基本的には関係者の方の内部通報が一番効果的で実効性のある方法だろう。
  それでは、私たちは昨年のいろいろな事件や事故を受けて、この1年どれ程現状の品質管理においてその問題点を改善し・反映させることができてきただろうか。残留農薬検査に関連した部分で考えてみたい。
  全国各地で多くの経費をかけて残留農薬分析などの品質チェック検査が行われている。検査結果の運用としては最初に決めた基準と比較して結果が下回っていれば「適合」という判断で商品は流通していく。数は多くないが、基準を上回っていれば「違反」といった検査結果を関係者が共有して処置されていく。その流れは現在も変わってはいないだろう。しかし、当然のことながら、生産者の品質管理も日々の進歩しており、ちょっとくらいならいいだろうといった単純な動機による基準違反を除けばイレギュラーな商品は限定されてきている。基準が適切に守られていることを保証し維持されていることを示すためにも商品検査をし続けることも大切であるが、検査をしても基準違反などの結果にはそれほどめぐり合うわけでもなく、「検出せず」といったいつでも良い結果が連続すると、「検査のありがたさ」といった御利益も少々低下してくるのも事実で、昨今の厳しい経営の中ではもうそろそろ管理できているのだから少し件数を減らそうかとか止めてもと言った発言、考え方が出てくるのも当然である。検査のレベルが上がってくればくる程、このジレンマに突き当たることが多くなり頭の痛いところでもある。しかし、短期的に見るのではなく、現状のように種々の高価な分析機器を使用し多くの対象農薬・動物用医薬品などが分析できるような状況が整ってきている時こそ、検査結果をもう少し質的に有効に活用して検査をやる意味を拡大する機会でもある。
  先ずできることは、日常的な何気ないデータをどう取り扱うかということである。そのひとつとして、トレーサビリティー検証(トレースバック)があるだろう。例えば、農薬が何も検出されないという検査結果が得られた時、この結果の意味は、農薬を使わなかったのか、それとも使ったが残留していなかったのかどうかが不明である。この時、圃場での農薬の散布履歴があり照合できたら多くの疑問が解消できるし、検査結果の意味も理解できるだろう。
  同様に、トマトの残留農薬検査をしたところ、A、B、Cという農薬が微量に検出された場合、それらの農薬は食品衛生法の残留基準を見ると基準値が設定されており、検出された濃度はその基準値の100分の1だったとすると、トマトは「適合」という良好な検査結果を発行して通常は終わりとなる。
しかし、全サンプルで検査結果の検証をする必要はないが、検査結果などを見て他と比較したい場合や、「この農薬がどうして出るのかな?」と気になっている数値があった場合など、トレースバックをすると、圃場での農薬の使い方などいろいろと参考になることがわかったりします。更に、加工食品などの場合は、どのようにして圃場(畑)で栽培され、どのように運ばれて、また、あるものはどのように加工されて、商品として検査部門までたどり着いたのかを調べることもでき、思わぬ収穫があったり、まだまだ分からない点が多いなあという現状認識ができるのが重要である。また、こういった入り口まで戻れる仕組みを持っていることが大切である。
  もうひとつ大切なのは、通常違反食品があった場合は、緊張関係を持ってその原因を調査するが、その場合は各分野の利害関係・保障関係があり自由な雰囲気では対応できない。しかし、日常業務の中でのトレースバックならば、検査で商品に何も問題のない時に、「一度調べてもらえますか」という雰囲気でお願いをすることが大切である。その流れの中で、相手の方たちの熱意の程度もわかるし、普通に取り扱い状況を調べてもらった時にはどれくらいの時間がかかるのかもわかる。圃場で使用された農薬と検査結果が速やかに一致すれば、その商品管理の品質レベルの高さを証明していることになるが、それだけがトレースバックの目的ではない。むしろ元をたどってもいっても分からない場合も多く、そういった時に、自分達が持っている商品の流通ルートには、さかのぼってみても原因を探れない部分があるのだということを自覚し、認識し、改善できるものはすることが一番大切な部分だと考えている。
従来の品質管理は、最初に述べたようにそれなりのレベルに達していると考えているが、冷凍餃子事件をはじめ意図的(かどうかはまだ不明ですが)混入事件は防げないことが多い。冷凍餃子事件以降よく言われているのは「食品防御」(Food Defense)である。混入事件の報道があった際、それぞれ販売している商品ではそういった混入は起きないだろうかとか、誰かが意図的に何かをここで入れようとした時どうして防ぐのかといったことを考えて対応・予防していくことである。とはいうものの、そんな事件は一生の内でそんなに起こることではない。だからこそ、日常的な検査の結果を検証することで、自分達の持っているルートで不明な点、弱点などを知ることが大切である。その部分を少しずつ改善改良し見えるようにしていくことこそ、一番身近でできる食品防御の近道ではないだろうか。又、それを支える職員の知力と感性がキーポイントであることも申し添えておく。
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